09 『ダークエルフの使者』
僕達は歩いた。
ダークエルフ達の住処を目指して。
ただひたすらに歩いた。
「間違いなくこっちの方角だったよな」
「そのはずです。我々もここへ踏み込むのは初めてなので、それ以上は分からないです」
エルフはそう答えた。
しかしなんだ。
見渡す先に何も見えてこないというのは精神的にも苦しい。
まったく同じような景色が、ずっと続いている。
この世界が地球と同じように丸いのであれば、いつしか一周してしまうのではないだろうか。
せめてダークエルフの住処まで〇キロメートルとか分かれば、気休めにもなるのだが。
「エルフ、ここで少し休もうか」
「シオンは疲れたです?」
「ああ。そういう君達は平気そうだな」
そもそも無表情なので、疲労の度合いを表情から読み取ることは出来ないが、まだまだ元気そうな気がする。
ただ僕はそうもいかない。
エルフ達には悪いが、休憩させてもらうとしよう。
近くにあった岩に、僕は腰を落ち着けた。
「心地良い風だ」
この世界の風というのもを初めて感じた気がする。
今まで慌ただしかったからだろう。
改めて感じた風は思いのほか心地良い。
「シオンは何で我々を大切にしてくれるです?」
隣に座ったエルフが訊いてくる。
「大切にするのに理由なんかいらないよ。逆に何で君達エルフは自分を大切にしないんだ?」
「自分をです? 我々そんなこと考えたこともなかったです。勝手に生まれて、勝手に死んで。ただそれだけだったです」
「じゃあ何で復讐を望んだ? 文明を復活させようと努力している? 少なくとも君達には意思がある。個としては弱くとも、種族としての意思は強い。そう思うよ」
横にいるエルフは時折首を傾げつつ聞いていた。
きっと僕の言葉をすべて理解できているわけではないのだろう。
でも、何か伝わればいいなと思った。
「さ、もうひと歩きしようか」
疲れも少しばかり和らいだので、僕は再び立ち上がる。
しかし、いつの間にか背後にいた存在に僕は呼び止められる。
驚いて振り返ると、その者は僕にこう言ったんだ。
「お前がイケメンか?」
プラチナブロンドの髪、褐色の肌。
黒と銀を基調とした衣装を纏い、背中に弓を装備している。
そして特徴的なとがった耳。
間違いなくダークエルフだった。
「ダークエルフ!」
単身で乗り込んできたというのか。
周りに仲間がいる気配はない。
まるで忍者のように現れた。
ダークエルフには隠密部隊でもいるのだろうか。
色々と思考は巡るが、何をさておきこの状況はまずい。
至近距離で攻撃されれば二度目はない。
完全に仕留められてしまうだろう。
僕は飛びのいて距離をとる。
エルフ達も震えだしていた。
「どれ程の者かと期待していたが、このような小心者だったとは」
そんなことを言いつつダークエルフは距離を詰めてくる。
「一体、何が狙いだ! 確かに僕はこの国におけるイケメンに該当する。だったら分かるはずだ。掟はダークエルフにも有効なんだろう?」
冷や汗を流しつつも僕は掟が盾になることを願い、問いかけた。
「そうだ、掟は守らねばならない。そこまで分かっていながらなぜ怯えるのだイケメンよ」
「だって、君達は僕を殺そうと……」
「それはお前がイケメンだと知る以前の話だ。まあ、うちの者が誤射したことは謝ろう。すまなかった」
ダークエルフは僕に頭を下げた。
攻撃しに来たわけではないらしい。
「我々は妙に恐れられてしまったようだな。仕方ないのかもしれないが」
当然だろう。
かつて自分の命を狙っていた者が目の前にいるんだから。
「イケメン・石動シオン。私はダークエルフの使者である。あなたを迎えに参りました」
「え?」
僕はダークエルフの、手のひらを返したような対応に戸惑うのだった。