08 『エルフと二人のイケメン』
きっと僕はこれから死ぬ。
矢で射抜かれるというのは痛いだろうか。
真にこの世界の住人ではない僕が死んだらどうなるんだろうか。
元の世界でも死んだことになるんだろうか。
考えても意味はない。
答えはすぐにわかるんだから。
僕は目をつむったまま、痛みを、死を待った。
しかし救世主というものはいるんだな。
その者は言ったんだ。
「そんな簡単に命を消費してしまうのかい? そんなの僕が許さないよ」
僕がその存在に気付き目を開けると、目の前に人がいた。
黒いマントに、半袖短パンの軍服のようなものを着用している。
その人はあろうことかジャンプして僕の前にやってくると、飛んできた矢を素手で掴んで通過していった。
あり得ない光景だった。
僕は救われたんだ。
その人は着地すると、姿勢を低くして右足で地面を踏みしめ止まった。
「よっと! 君は詰めが甘いなぁ。そもそもあんな方法でうまくいくと思ったのかい? 君は命の大切さを理解しているはずだ。軽率な行動はやめてくれたまえよ」
僕に背を向けたまま彼はそう言った。
「ごめん、君の言う通りだ。ともかく、助けてくれてありがとう。えっと、君は……」
恩人の正体を確かめるため問いかける僕に、エルフが話しかけてきた。
「シオン……」
「どうした?」
エルフ達はみんな震えていた。
しかも結構激しくだ。
「シオン……、神です。神様来ちゃったです~!」
「え? 神様?」
すると目の前の恩人は僕の方を振り返る。
「イケメンが死ぬのをこの国の神が見逃すと思うかい? そんなわけないよねぇ。だから助けたんだ。だって僕は神なんだから」
僕を助けたのはまさかの神だった。
しかし、驚いたのはそれだけではない。
振り向いたその男の子は、僕と同い年くらいの子だった。
同じ身長だった。
僕は左目が少し隠れるような髪型をしているが、彼は右目が少し隠れるような髪型をしていた。
僕と向かい合う彼は、まるで鏡のように、僕と瓜二つだったんだ。
「なんで、僕と同じ姿なんだ?」
「不思議に思うかい? それについてはいずれ分かる時が来るさ。今は一つだけ教えてあげよう。この国におけるイケメンというのはね、神である僕の容姿に近いことを指してるんだ」
「つまり、エルフ達が僕のことをイケメンだと認識しているのは、僕が君に似ているからなのか」
「そーいうこと! とにかく生存おめでとう。僕の住処に来たならば、その時こそゆっくり話そう。その前にまずはダークエルフと話してみるといい。僕の介入を知った彼らが君を襲うことはないだろうからね。それではまた会う時まで、ばいばい!」
楽しそうに助言をした神は、僕に手を振る。
そしてパッと消えてしまった。
「なあエルフ。君達は僕が神そっくりだって知ってたんだね」
「そうです~」
「それでも僕に協力してくれてたんだね」
「シオンは良い人間です。一緒にいて楽しいです」
「楽しい?」
「はっきりとは分かんないです。でもきっと楽しいという感情なんだと思うです」
「そっか」
ここにはまだまだ不思議なことがありそうだ。
目的だった神との邂逅は予想外のものだったし。
でも、エルフ達とならこの先も頑張れる気がした。
「みんな生きてるか?」
「何匹か死にましたです」
「うん。……じゃあそいつらは優しく運んでくれよ。それではみんな、ダークエルフの住処へ向かって出発だ」
『「はいです~!」』
安全地帯となった広い平原を、僕らは歩き出すのだった。