07 『ダークエルフに立ち向かえ』
掟を逆手に取り、僕を盾にしてダークエルフの攻撃を止めさせる。
これはなかなかいい案だと思っていた。
しかし、実際にその領域へ侵入してみると問題点に気付く。
「なあエルフ。矢がものすごい勢いでこっちに飛んできている気がするんだが」
「そうですね。このままだと全滅するです」
「たぶん僕がイケメンだということに気付いていないんだろうな」
自分で言ってて恥ずかしいが、そういうことだ。
エルフしかいないはずの世界なら、動く者はみなエルフだ。
ゆえに判別する必要はなく、ただ射抜けばいいのだ。
見慣れない僕を担ぐエルフ。
それが大群でダークエルフの領域に突入しているんだ。
もしかすると僕は武器か何かだと思われているかもしれない。
だとするなら、彼らは僕をロックオンしてくるんじゃないだろうか。
「右です~」
「左です~」
右往左往するエルフ。
放たれる矢の数は決して多くはない。
しかし、僕の横を通過しては後続のエルフを射抜いていく。
担がれた状態では確認できないが、そうなっていると思う。
僕は考えた。
このままでは戦力を、エルフを失っていくだけだ。
問題点はダークエルフが僕を認識していないということ。
イケメンかどうかはさておき、人間であることをアピールできればチャンスはあるかもしれない。
「エルフ、僕を下ろしてくれ」
「いいんです?」
「ああ。やつらの矢が打ち出されたあと、タイミングを見計らって僕を放り投げろ。立ち上がって僕を認識させる。これしかない」
ずっと連続して矢が打ち出されるわけではない。
打ち出し準備の時間はわずかだが、そこにかけるしかないだろう。
僕はエルフに命じる。
「今だ、投げろ!」
それを聞いてエルフ達は僕を投げた。
思ったほど飛ばなかったが、矢を回避することに成功。
僕は受け身をとった勢いそのままに立ち上がり、言った。
「僕はイケメンだ~!」
ダークエルフがどこに潜んでいるのかは分からない。
しかし僕はそれが届くと信じて叫んだんだ。
大きく手を広げて立つ僕。
あとは祈るだけだった。
すると幸運なことに、矢による攻撃は止んだ。
「良かった、届いたんだ」
ひとまず苦しい状況は脱したと安心する僕。
だけど僕は気づいてなかったんだ。
攻撃を止めない者の存在を。
一本の矢が、僕に迫ってきていたんだ。
ゆっくり、ゆっくりと。
いや、本当は速く、そして迷いなく僕を射殺そうと飛んできているのだろう。
これが死を前にした時の感覚なのだろうか。
感覚が研ぎ澄まされ、時間がゆっくり進んでいるように感じる。
だからといって、その矢を避けるほどの余裕はないのだと僕は悟っていた。
そしてその矢は、僕のすぐ目の前までやってきたので、僕は目をつむり全てを覚悟した。