06 『走り出すエルフ』
エルフが死んでいる理由を問う僕に、エルフが答える。
「あそこから先は黒いやつらの領域です」
「先に進もうとすると、矢で射抜かれてしまうです」
確かにあのエルフ達には矢が刺さっていた。
しかし、近くに弓兵がいる様子はなかった。
まさかもっと遠距離から射抜いているというのだろうか。
だとするならば物凄い精度である。
「黒いやつっていうのは一体なんだ、エルフ」
「やつらはダークエルフ。我々とよく似ているです」
「しかし、我々よりも頭が良く」
「我々よりもグラマラスで」
「我々よりも強いです」
それはよく似ていると言っていいのだろうか。
「要するに敵対しているんだな」
「我々は仲良くしたいです」
「でも殺されちゃうです」
「一方的に敵対されているのか」
「そうです。同じエルフなのにです」
「ダークエルフは希少種です。生まれてくるエルフの中に稀にいるです」
同じエルフ?
希少種?
普通のエルフの中で稀に生まれる存在なのか。
希少種ゆえにエルフから避けられるならまだしも、なぜ仲良くしようとしているエルフを自ら避けるんだ?
「なあエルフ。君達の住む領域からダークエルフが生まれることもあるのか?」
「ありますよ。でも、すぐ逃げちゃうです。きっと本能的なものです」
う~ん?
僕の知っている知識でも、エルフとダークエルフは仲が悪い印象だが、この状況下においては敵対する意味が分からない。
おそらくこれもこの国のシステムに大きく関わっているのだろう。
「とりあえず事情は分かった。つまりだ、神のいる場所はダークエルフ達の支配している領域にあるというわけだな」
「その通りです。行くですか?」
「ああ、行くさ」
「では、我々が盾になって死にますので、頑張って走ってくださいシオン」
「人海戦術ならまかせろです~」
ああ、まだ教育が必要なようだ。
「命を粗末にするなよエルフ。それは怖いもの知らずとかいうレベルじゃないぞ。まったく、それでたどり着いたとして帰りはどうする? 全滅するぞ?」
「たしかに~」
命は道具じゃないんだから。
こんな考えでよく今まで生きながらえてきたな。
「エルフ、僕に考えがある」
「どんな考えです、シオン」
「エルフの掟っていうのは、ダークエルフにも適用されるのか」
「ここはエルフの国。すべてのエルフと名のつく者に適用されるです」
「そうか、良かった」
「どうするです?」
「僕を担ぎ上げろ。そして全力で走れ。高い精度で弓を放てるとはいえ、僕を殺しかねない攻撃は出来ないだろうからな」
「いい案です~」
「すごいです、シオン」
「おみこし、おみこし~」
何だかみんな楽しそうだ。
というか妙に僕の世界の情報を知っているな。
おみこしとか、異世界にあるのか?
などと考えているうちに僕はエルフ達に担がれていた。
横になった僕は言う。
「いいか、全力前進だ。ただし、エルフの亡骸は踏み越えるな、飛び越えろ。あとで埋葬してやるんだからな」
「まいそ~? 何ですかそれ」
「僕の世界のシステムの一つだ。あとで教えてやる」
「わかったです。あとでまいそ~を教えてもらうです」
僕の体の下に広がるは緑の絨毯。
それらがまだかまだかと震えている。
「さあ、覚悟はいいか。神の元まで、走り出せ~!」
『「お~!」』
雄たけびと共に、僕らは敵対するダークエルフの領域へと走り出した。