05 『エルフの境界線』
神の元へと歩き出した、僕とエルフ一行。
僕の背後には長い長い行列ができている。
エルフ達と一緒に過ごしていて、少し気づいたことがあった。
彼らの情報伝達機能は、距離が近いほどその効力を発揮する。
ただ、数が多いので連鎖的に伝達され、その誤差はそれほど大きくはないようだ。
分断されたら別だが。
それもあってか、僕と会話をする場合も、一番近くにいるエルフが担当している。
あとこれは僕の勘だけど、いつも色々説明してくれるエルフは、多分同一個体だ。
もしかすると、エルフの個体差というのは慣れてくると見えてくるものなのかもしれないな。
「なあエルフ。出発前に言ってたけど、どうして神に会いに行くのが危険なんだ?」
僕が尋ねると、顔を上げて僕を見つめてくるエルフ。
意外と律儀だし、可愛い。
「もちろん神の力は強大ですが、問題は道中にあります。過去エルフの中で神の所へたどり着いたものはいませんから」
「場所は知っていてもたどり着けないなんて。よほど険しいところなのかな?」
「ほらシオン。見えてきたです」
エルフ達が指す方向。
そこには何やら緑色の立体的な線が引かれていた。
何かの障壁?
いや、低すぎる。
とにかく何かの領域を示すものなのだろう。
気になって足を進めると、僕は違和感に気付く。
「なんでついてこないんだ?」
エルフ達は立ち止まっていた。
そしてみんな震えている。
相変わらずの無表情だが、きっと恐怖しているのだろう。
「シオン、その線から先は危険です」
「やつらが見張ってるです」
やつら?
何のことなのだろう?
「シオン、気になるならもう少しだけその線に近づいてみるです」
「分かった、確認だけしてくる」
理由は分からないが、危険だそうなので僕はゆっくりとその線に近づいた。
近づいてみるとそれが何なのか分かってきた。
それは死体だ。
何かの死体が積み重なっていたのだ。
さらに近づくとその正体がはっきりとした。
緑色の服、特徴的なとがった耳。
それは、エルフの死体が連なったものだった。
僕は引き返し、エルフ達に言った。
「あれはなんだ! なんであんなことに!」
「シオン怒ってるです?」
「ああ、怒っている。そして悲しい、悔しい」
「怒る、悲しい、悔しい」
エルフが復唱した。
すると他のエルフ達も復唱した。
「シオン、我々は感情をあまり持ちません。でも、シオンが感じ取ったものを、我々も少しだけ感じ取った気がするです」
「僕の感情を感じ取った?」
僕が来たことでエルフ達に変化が表れだした。
エルフ達は震えるのを止めて、僕の方をじっと見ているのだった。
そこで僕は思った。
彼らが十分な感情表現ができるようにさせてやりたいと。
きっとそれがこの世界をより良くすることにつながるだろうから。
ただ、まずは聞かなくては。
「なんであのエルフ達は死んでしまったんだ。教えてくれ」