39 『再びこの地に妹を』
目の前にいた数多のエルフ達は、みんな砂粒と化した。
緑色に光る砂の線。
謎の言葉を残し消えたドクター。
しばらく呆気に取られていたが、これがドクターの答えなのだろう。
直前まで話していた、エルフ回収方法の。
「消える直前ドクターから渡されたこの小瓶。これをこの砂粒の列の末端に置けばいいんだな」
不思議な状況に狼狽えている暇はない。
丁寧な説明を省いたドクター。
それはつまり、状況がひっ迫していることを示しているのだろうから。
僕は言われた通り小瓶を置いた。
するとどうだろう。
緑色に光る砂粒はさらに光を増したかと思うと、その列を維持したままするすると小瓶に流れていった。
そして小瓶の中を砂粒が満たすと、中で綺麗な緑色のキューブとなって浮遊した。
「宝石みたいに綺麗だ。中で浮いてるし。あの粒一つ一つがエルフだというのなら、このキューブ一つが全エルフの結晶ということなんだろうな。さて、急いで戻ろう」
僕は着ていたコートの胸ポケットに小瓶をしまい、落とさないようにボタンを閉じると走り出した。
間に合え、いや間に合わせなきゃダメなんだ。
存在すら知らなかった妹だけど、つい最近会ったばかりの存在だけど。
でも彼女は僕の妹で、それでいて命の恩人なんだから。
呼吸が荒くなろうが、足が痛くなろうがそんなのはどうでもいいことだ。
ただ前に進むことだけ考えろ。
目の端に流れていく景色すらも意識から消せ。
この道は家まで一直線だと思いこめ。
僕の脳内を自転車で来たら良かったのではという後悔が満たしそうになったが、全力で振り払った。
間に合え、間に合え、間に合え!
僕は僕の肉体ができる最高の出力で進み続けた。
そして家にたどり着き、勢い余って玄関に転がりながら入った。
転がりながらも小瓶を割らないよう身体を丸める。
「カノン! 待ってろっ!!」
ドタバタした物音に気付き、母さんが何か僕に言った気がしたが、それを無視して僕は二階へと走る。
そして僕の部屋の扉を開け放ち、押し入れを開けると胸ポケットから取り出した小瓶をかざした。
「戻ってきてくれカノン~~!」
僕が叫ぶと、それに答えるようにキューブが輝く。
押し入れの中を緑色の光が満たし、機械的な声が響く。
「外部世界での信仰エネルギー体検知――、神格存在の構築を承認、物理的存在への定着開始――完了。ここに、エルフ国神、石動カノンの権限を承諾する」
声が止むと、押し入れの中に緑に光る魔法陣のようなものが出現し、そこから人型の光が浮かび上がる。
そしてその人型はパジャマ姿の少女へと変化した。
「よっと!」
少女はそのまま飛び出すと、僕に抱きついた。
「わぁ!」
重くはなかった。
しかし、体力を使い果たしつつあった僕には支える力が無かった。
いや、ひと安心して脱力していたのかもしれない。
僕は僕にそっくりな少女に抱きつかれ、床に倒れた。
「久しぶり、お兄ちゃん! 何だか泣きそうな顔してるけど。もしかして、お兄ちゃんって案外寂しがりや?」
「な、なんだよ……カノン。久しぶりって、昨日会ったばかりだろ」
「それもそうだね。でも……ありがと!」
「心配かけやがって……! まったく困った妹だ。お帰り、カノン」
ああ、最悪だ。
僕は泣くのを我慢できなかった。
しかもそれを妹に見られた。
でもそれはカノンがここにいる証明でもあった。
ああ、最悪で最高だ。




