37 『妹の消えた朝』
目を覚ました僕。
馴染みのある天井が視界に入る。
寝ぼけ眼で帰ってきた実感を噛み締めつつ、僕はベッドから這い出た。
「さて今日は何曜日だ?」
母さんが回収してきてくれたのだろうか。
部屋の隅にある学生かばんからスマートフォンを取り出す。
表示された日付は、エルフの国に召喚されてからちょうど一週間経った日付で、今日は日曜日だった。
向こうでは一ヵ月ほど過ごした感覚だったから、エルフの国はここより時間の進みが遅いのだろうか。
それかこっちに戻ってくる過程で、何か時間的変化があったのかな。
今日が休みだと分かった以上、慌ただしく動く必要はないが。
「とりあえず朝食。それから母さんに色々聞かないとな」
そう思って僕はパジャマを着替えると、押し入れをノックした。
押し入れをノックするなんて人生初だが、変な妹がこの中で眠っているのだから、こうせざるを得ない。
しかし、中で物音がすることもなく、何の応答も無し。
カノンは寝坊助なのだろうか。
仕方なく僕は押し入れの戸を開けた。
「ん?」
中には少々乱れた布団があるだけで、カノンの存在は無かった。
もうすでに起きたというのだろうか。
僕は戸を閉めて、下の階に降りた。
この家は二階建てで、下が家族の共用スペース、上が各々の個室になっている。
「おはようシオン」
母さんは既に起きていて、キッチンで卵を調理し、トーストを焼いていた。
「おはよう母さん。ところでカノンは?」
「カノン? まだ寝てるんじゃないの?」
「いや、部屋にはいないんだけど」
「そう。ということは、やっぱりそうなっちゃうのね」
「何か心当たりでもあるの?」
「ええ、説明するから座りなさい。そして朝食を食べましょう」
言われるまま僕は席に着き、目の前に置かれたトーストをかじりつつ母さんの話を聞いた。
「カノンは多分消えかかっているのでしょうね。神としての力が弱まってしまったのよ」
「ちょっと待って、カノンはまだ神なの? てっきりこっちに来たら普通の女の子になってしまうのだと」
神としての力が行使できなくなった以上、カノンはただの女の子だ。
そう思っていたが、違うらしい。
「確かにこの世界でカノンが神の力を使うことは難しい。それはエルフ達から供給されていた信仰心を失ったからね。でも、神としての属性までは失われない。これが厄介なのよね」
「じゃあ、消えかかっているというのは」
「そう。神として存在している以上信仰心は必須。人として生きることができるのであれば別だけど。だからこのままだとあの子、完全に消失してしまうわ。今はまだ、実体を失った程度だと思うんだけど」
カノンが消えてしまう?
元々僕は存在すら知らなかったカノンだけど、でも今はもう出会ってしまった。
知ってしまった。
だからこそ、神とはいえ家族を失うわけにはいかなかった。
「何か……助ける方法は無いの! 母さんだって放っておく気はないんでしょ?」
すると母さんは立ち上がり、リビングのテーブルからテレビのリモコンを手に取る。
「当然よ。というわけでこれを見なさい」
そう言うと、テレビの電源を入れる。
そこに映し出された映像はニュース番組で、ヘリからの中継が流れていた。
『こちら因幡市上空です。ご覧ください、こちらの因幡タワー。先ほどから謎の生物が出現し、タワーによじ登っています』
『一体何なのでしょうかこれは。緑色の小さな――』
『タワーの根本付近から湧いて出ているようにも見えますが』
これってもしかして。
映像に出ている緑色の服を着た生き物。
それを僕は知っていた。
「エルフ?」
「正解よ、シオン。というわけで、カノンのためにも回収に行ってもらえるかしら」
「どうなってるんだよ」
こうして僕のエルフ回収作戦が始まるのだった。
始まるの? マジで?




