34 『そして帰宅』
見ず知らずのイリュージョニストが僕の家の鍵を開けた。
どういうことだ。
この世界は間違いなく僕の知っている世界で、ここは僕の家のはずだ。
だがこのイリュージョニストが鍵を開けたのは事実で、夢でも幻でもない。
もしかしてここは僕の家ではなく、このイリュージョニストの家ということなのか。
元の世界だと思っていたこの世界が、実はよく似た並行世界だとか。
少々夢見がちな思考ではあるが、エルフの国の存在を知った今ではそう思えなくもない。
「ここはあなたの家なんですか?」
思い切って聞いてみる。
するとイリュージョニストのお姉さんは言った。
「ええそうですよ。ですがあなた方の家でもあるのでしょう?」
「どういうことですか?」
「その話も含めて、中に入ってからしましょう」
ここで議論していても埒があかないか。
しかし、住居を共にしていたイリュージョニストなんていなかったはずなんだが。
とりあえず招かれるまま家に入る僕とカノン。
中身もそっくりそのまま知っている家だった。
リビングに入り座り込んで疲れた足を休ませる。
「何だかよく分からないけど帰ってこれたみたいだな」
「へぇ、ここがお兄ちゃんの家なんだね」
「今ではカノンの家でもあるだろ?」
「僕もその一員に入れてくれるの? そしたら嬉しいな」
そこへお姉さんがお茶を入れて持ってくる。
「さあ、あたたかいお茶をどうぞ」
「どうも」
「ありがたく頂くよ」
温かい液体が胃に染み渡る。
しかし、のんびりしている場合ではなかった。
「なんだかもてなされてしまったけど、ここは僕の家だ。さあ、聞かせてもらおう! お前は一体誰なんだ」
「そうだね、僕も正体を知りたいよ。明らかに怪しい格好だし」
立ち上がり対立の意思を見せた僕達に、お姉さんは言った。
「お二人に疑念を持たせてしまったのは謝りましょう。すまないね。では正体を明かすとしよう。時折テントの中でイリュージョンを披露しているこのイリュージョニスト、プリンセス麗子。その正体は~」
そう言ってお姉さんは仮面を取り外し、素顔を見せた。
その素顔は僕のよく知るものだった。
そうだ。
この人物ならここにいても何の不思議もない。
当然と言えば当然なのだが、一連の流れを考えると思いつきもしなかった。
「まさかお前だったとはな」
「ねえ、お兄ちゃん。もしかしてこの人」
「ああ、僕達の母さんだ」
そこに立っていたのは間違いなく僕達の母さんだった。
「久しぶりねシオン。とはいっても私がここに連れ戻してあげたわけだけど。それと初めましてかしら? カノン」
「初めましてお母さん。でもどうしてお母さんがイリュージョニストなんかやってたの? それに元の世界への転移も、並みの人間にできる芸当じゃないと思うんだけどなぁ」
当然の疑問だった。
僕の母さんは一体何者なんだ?




