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33 『現世への帰還』

 久々に歩く見知った世界。

 高校では自転車通学をしているので、この辺りを歩くのは何だか新鮮だ。

 そんな中カノンが言う。


「お兄ちゃんおんぶ」

「はい?」

「だから、おんぶしてよ。なんか疲れちゃった」

「そんな恥ずかしいこと出来るかよって、おい」


 カノンは僕の意思を確認することなく首に手を回し背中に飛びついた。


「まったく」

「いいじゃん、軽いでしょ?」

「まあ、軽いけどさ」


 カノンの言う通り、思いのほか軽かった。

 そういえばこの世界ではカノンも神じゃなくて、ただの女の子なんだよな。

 そう思うとより恥ずかしく感じたが、兄妹だからという理由でかろうじて打ち消し、心の平静を保った。


「どう、嬉しいかいお兄ちゃん?」

「ん、何がだ?」

「だから、妹とはいえ女の子に抱きつかれて」

「おんぶしてるだけだろ」


「でも背中に胸が当たってるでしょ?」

「ふん、そのような控えめな胸など何とも思わんさ」

「むぅ~、言ったな~!」


 右手で僕の頭をポカポカ殴るカノン。


「ははは、何とでも言うがいいさ」


 軽く殴られながらも、兄妹らしいやり取りに僕は嬉しく思った。

 一人っ子でいた日々も気楽で悪くなかったけど、こういうのも良いものだ。

 そして歩くこと約二十分。

 住宅街に入り、そして僕は自分の家を見つけた。


「さあ、ここが僕達の家だよ」


 カノンを背中から降ろし、目の前の家を見せた。


「へぇ、これがお兄ちゃんの家かぁ。なんか普通だね」

「開口一番にそれかよ」

「作家、レオン石動の邸宅にしては地味じゃない」


「父さんはそれほど売れっ子でもなかっただろ」

「それもそうか」

「とにかく入ろう、えっと鍵鍵」


 大抵の家には入り口があり、防犯の観点から施錠がしてある。

 それゆえに鍵で開ける必要があるのだが。

 僕は鍵を持っていなかった。


 エルフの国に召喚された際、鍵の入っているカバンなどは学校に置いたままになっている。

 その後どうなったのかは分からないが、とにかくここにはなかった。

 なかなか鍵を見つけられない僕を見て、カノンが言った。


「あの、もしかしてだけど、鍵無いの?」


 カノンの問いに僕は正直に答える他なかった。


「残念ながら、そのようです」

「じゃあどうしよう。窓ガラス割る?」

「さすがにそれは犯罪じゃないかな?」

「いいじゃん、自分の家だし」

「むしろ自分の家だから壊したくないのですが」


 安全地帯を目前にして、僕達は立ちつくし、そしてああでもないこうでもないと口論する。

 すると見たことある人物が、僕達を見つけ話しかけてきた。


「おやおやお二人さん。こんなところで何をされているのですか。それにお嬢さん、そんな姿では冷えますよ」


 その人物は、あのイリュージョニストだった。


「あ、イリュージョンのお姉さんだ」

「また会いましたね、可愛い双子さん」

「そ、そうですね」


 身構える僕。

 なんでこんなところで会うんだ?

 僕達を追ってきた?

 そもそもこの世界に戻ったのもきっとこの人が元凶だし、気をつけないと。


「どうして中に入らないのですか?」

「合鍵を忘れてしまいましてね」

「おやおやそれはお困りだ」


「それよりもあなたは何者なんですか?」

「おや、私が気になりますか? そうですね、このようなイリュージョニストが外を出歩いていては気にもなりますよね」


 見当違いなことを言うお姉さん。

 しかし、驚くのはお姉さんの行動だった。


「ですがこんなところで立ち話もなんですし、中に入ってお話ししましょう」


 お姉さんはそういうと、空中を掴む動作をする。

 するとお姉さんの手には一つの鍵が握られていた。

 そしてそのカギを僕の家の鍵穴に差し込んで回す。

 ガチャリ。

 いとも簡単に扉は開かれるのだった。


「さあ、中へどうぞ」

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