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32 『唐突なイリュージョン』

 展開された箱から出てきた僕達。

 そして歓声に包まれるのだった。


「皆さんどうでしょう? 双子の少年と少女が登場しました」


 派手な仮面をつけた長髪の女性がそんな風に僕達を紹介する。

 この人がイリュージョニストか。

 もし本当にこの人が僕達をここへ呼び寄せたのなら、一体どういう理由からだろうか。


 偶然ということはないだろう。

 異なる世界からイリュージョンのためだけに人を呼び寄せるなんてしないだろう。

 それに観客からはイリュージョンに見えても、実際は何か別の力によるものだ。


 このイリュージョニストが言っていた通り、仕込みはない。

 この人は、敵か味方か。

 とにかく、ここにとどまるのは危険な気がするな。


「あの、お姉さん。悪いけど僕達はここを出るよ。どうやって僕達をここに呼んだか分からないけど、のんびりしてはいられないんだ」


 僕の発言に、イリュージョニストのお姉さんが答える。


「そう、良いわ、お行きなさい。でも、また会うことになると思うけど」


 何やら意味深な言葉を放ちつつも、すんなり解放してくれるお姉さん。

 気にはなったが、僕はカノンの手を掴んで走り出した。


「行こうカノン。まずはここがどこなのか知らなきゃ」

「そうだねお兄ちゃん」


 走る僕達を見て、お姉さんが言う。


「どうやら今夜のお客様はお忙しいようです。お一人は入浴中に呼んでしまったようですし、ごめんなさいね」


 すると観衆から笑い声が上がる。

 その笑い声の中を僕達は走り、そしてイリュージョンが行われていた巨大テントの外に出た。

 外は夜で、そして涼しい風が流れていた。

 テントがあったのは大きな公園の広場だったようだ。

 見渡すと、外灯があったり、ビルがあったり、さらには自動車も走っていた。


「エルフの国とはずいぶん違うな」

「そうだね、お兄ちゃん」


 さてこれからどうするか。

 まずはどこか休める場所を確保しないと。

 カノンはバスタオルで身体を包んでいるだけだから、風邪をひいてしまう。


 これだけ文明が発達していれば、宿泊所を見つけるのは容易い。

 しかし、お金が無いんだよな。

 ここが知っている場所だったなら、何とかできなくもないんだけどなぁ。

 知ってる場所なら……ん?


 夜だから暗くて分かりづらかったが、よく見るとこの場所は知っている気がした。

 まさかとは思うが、この大きな公園って。

 公園の前にある看板を確認する。

 看板は日本語で書かれていて、しかも知っている公園だった。


「カノン、やった! ここはあの記念公園だよ」

「記念公園?」

「ああ、そっか。カノンは知らないんだったな。えっとだな、ここは元の世界なんだよ!」


 興奮気味に答える僕。


「元の世界?」


 しかしカノンは困惑気味だ。


「そっか、カノンにとっての元の世界はこっちじゃなくて……」

「お兄ちゃんちょっと落ち着いたらどうだい? よく分からないよ?」

「ごめんカノン」


 僕は深呼吸し、周りを見渡して僕の見解が間違っていないことを確認した後、カノンに状況を説明した。


「なるほどね。つまりここがお兄ちゃんが元居た世界だと。しかも家の近くなんだね」

「そういうこと。まあ近くといっても一駅分くらいは歩くけどね。ああ、一駅分ってのは」

「それくらいは分かるよ。電車の存在も知ってるし」

「そう?」


 カノンはエルフの国の神だけど、こっちの世界の情報も多少は知っているようだ。


「それで、知っている世界だとして、時間的にはどうかな? ちょっと古いとか、ちょっと未来的だとかはない?」

「うん、パッと見た感じ変わりはないと思うよ。それにそれを確かめるためにも一度家に帰ろう」


 それが一番安心で安全で、良い選択だろう。

 カノンもそれに賛同した。


「そうだね。お兄ちゃんの住んでた家も気になるし、このままじゃ寒いしね」

「じゃ、そういうことで」


 僕は歩き出した。

 少し懐かしい道を、少し懐かしい景色を見ながら。

 珍しそうに周りをきょろきょろするカノンと共に。

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