03 『エルフの歴史』
「イケメンさん、イケメンさん!」
「はいはい」
イケメンと呼ばれることに慣れたわけではないが、いちいち反論するのをやめた僕。
そんな僕は、元の世界に帰る方法が分からないため、ここにとどまっている。
他に選択肢がないのだから仕方がない。
僕のために彼らが組み立てた木造の建物は、思いのほか居心地が良かった。
そして僕はエルフ達と取引をした。
元は彼らから持ちかけた話だ。
「イケメンさんは我々エルフが知らない考えを知っているのです。だから我々に教えて欲しいのです」
彼らはそう言ったのだ。
だから僕はこう返したんだ。
「僕を殺さないのであれば、暇つぶし程度に何か教えてもいいだろう。その代わりこの世界のことを教えてくれ」
こうして、エルフの国での生活が始まった。
「なるほど、人間は個体を識別する名前があるのですね」
「そうだ。そして僕の名前は石動シオンだ」
「イスルギシオン。ではイスとお呼びしますね」
「やめろ。せめてシオンと呼んでくれ」
「シオン……分かったです」
「他のエルフにもそう呼ぶように伝えてくれ」
「それはなんとなく大丈夫です」
説明役を買って出たエルフの話によると、彼らはなんとなく情報を共有しているらしい。
個体差はゼロではないが、ほぼ同じのためそれを識別する手段を持たない。
命の尊さを理解していないのはこのせいなのだろう。
とにかく総じて適当である。
「エルフって、もっとこう聡明なイメージなんだけどな。実際はこんなもんなのかな?」
そんな僕の質問にエルフが答える。
「我々もかつては知能の高い種族でした。エルフしかいないこの世界で、エルフだけの文明を繁栄させてきたのです」
「ところがどっこいです」
急に近くにいた別のエルフが続けて話し出す。
なるほど、情報を共有しているとこういうこともできるのか。
少し感心しつつ僕は話の続きを聞く。
「エルフは調子に乗りすぎました。その権力を示すため、天まで届くエルフの塔を建築し始めたのです」
「エルフの塔」
何やら聞いたことがあるような話である。
となればその塔の結末も見えてくるというもの。
「はいです。ですがその塔が雲を突き抜けるほどの高さになったとき……」
「神の怒りに触れたと」
「いえ。そんなところで積み木遊びなんかしてたら邪魔になるですよ~っと、神に警告されたそうです」
僕の知っている話よりゆるいな。
「それで神は適当な人間を鷲掴みにすると、塔目がけてぶん投げたのです」
ああ、結局破壊衝動につながりはするのか。
「現時点でここに塔が見当たらないことを考えると、それによって塔は破壊されたんだね」
「はい、それはもう粉々だったとか。そしてその際に散らばった人間の血液が国中に充満し、エルフを弱体化させたのです」
エルフ以外の種族がいない世界において、それだけ人間の血液は有害だったのだろう。
「我々はその血液に耐性を持つエルフの子孫なのです」
「我々若干人間かもです」
弱体化はしたが生き残った結果が今のこの状況なわけだ。
「そんな大変な歴史があったんだね。となると復讐の標的は神になるんじゃないのかな? なんで僕なの?」
自分が標的になっている理由なんて普通なら聞けないが、掟で守られていると知っていれば恐怖心はない。
しかし、エルフの口から出た言葉は僕を再び混乱させた。
「だって神がぶん投げた人間は、シオンのお父さんですから」
「シオンは赤い雨の子孫です~、ぶるぶる」
いつかのように僕を囲み、騒ぎ震えるエルフ達。
だが一番震えているのは僕自身だった。
「父さんは事故で死んだはずなのに、どうして!」
また新たな謎が浮上する。