02 『イケメンさんとエルフ』
「僕を殺すため?」
「そうなのです」
そばにいたエルフが当然とでもいうように肯定する。
一体何のために?
なぜ僕が?
そんな疑問が浮かぶよりも早く、恐怖が僕の脳裏を駆け巡る。
「どうしました、イケメンさん。顔色が変化しましたよ?」
「そういう体質なのですか?」
興味津々で詰め寄るエルフ達。
心情を理解する能力が低いようだ。
「ストップ、近づくな! いいかい? 君達は僕を殺すと言ったんだ。恐怖しないわけないだろう?」
僕はエルフをむにむにと押しのけて言い放つ。
「恐怖なのです? 怖いのです?」
「そうだよ!」
「我々は適当に生まれるし、適当に死ぬのです。人間は死ぬのが怖いのです?」
もう我がままとかマイペースとかそんなレベルではなかった。
彼らは命の尊さすらも理解していないのだ。
「少なくとも僕は自分が死んでいい人間だなんて思っていない。生きたいんだ! だから怖いに決まってる!」
今まで出会ったことのなかったこの種族に、僕の叫びは届くだろうか?
望みは薄い。
しかし、叫ばずにはいられなかった。
するとエルフ達は互いにひそひそと相談をし始めた。
そして結論が出たのか、目の前のエルフが言う。
「イケメンさんの言う恐怖を我々は上手く理解できません。ですが安心してください。我々はエルフの掟に従い、あなたを殺すことができないのです」
殺すために呼んだのに、殺せない?
つまり助かった?
「本当に、殺さないんだな?」
「はい、殺せないですから」
それを聞いた僕は肩の力を落とし、ほっと息をついた。
とにかく命はとられずに済んだ。
あとはここからどうやって元の世界に戻るかだが。
「イケメンさん」
「ん?」
僕の中では一つ難所を越え、ひと段落した気でいるのだが、取り巻く環境は変わっていなかった。
相変わらず緑色ファッションの種族に包囲されていた。
「あのさ、さっきから僕のことイケメンって呼んでるけど、僕はそんなイケメンかな?」
僕はイケメンじゃないはずだ。
高校に入学してから数ヶ月、特にモテているわけでもなかった。
いや、むしろ嫌われていたんじゃないだろうか?
教室内で読書していると、離れた所から女子の妙な視線を感じることがあったし、下駄箱に可愛らしい謎の封書が結構な頻度で投げ込まれてたりした。
理由は分からないけれど、イケメンならこんなことには遭わないだろう。
「出ました! これが噂の無自覚系イケメンです。自称イケメンならいざ知らず、このイケメンさんは本物です!」
『「わ~!」』
歓喜するエルフ達。
何なんだこの種族。
訳が分からない。
とにかく帰らせてくれと、僕は心の中で叫んだ。