19 『在るのか無いのかエルフの国』
衝撃の告白をしたカノンは、ゆっくりと語りだした。
「僕達のお父さんは神だった。それは事実だ。でもね、彼は神としてやってはならないことをしてしまったんだ」
「神がやってはいけないこと?」
「それはね、一人の人間を愛してしまったことだ。そう、僕達のお母さんをね。神見習だったお父さんはお兄ちゃんが元居た世界で監視の任についていたんだ。でも母さんに一目ぼれして、自らの神格を下げてでも受肉を果たし、地上に舞い降りたんだ」
神でありながら人間の世界で生きることを選択した父さん。
神の世界でそれがどれ程の罪なのかは分からないけど、なんとなく悪いことなのだろうとは思う。
「それで結婚して、僕が生まれたんだね」
「そう。でもね、僕達は双子で本来なら僕も生まれるはずだったんだ」
そうだ、カノンはなぜ生まれなかった?
何らかのトラブルで生まれる前に……いや、だとしても。
不幸に見舞われたのであれば、その事実を聞かされているはずだ。
隠していたのであれば理由が分からない。
「どうして。どうしてカノンは生まれなかったんだ?」
「神の裁きだよ。許可なく神格を下げ、職務を放棄した神への、神により裁き。その一つが、僕の地上での誕生を阻止すること」
「地上での?」
「そうだよ。神格が低いとはいえ神の子供となれば、神格を宿してしまう。それが普通の人間として生まれることは避けたかったんだ。神と人間のハーフが生まれれば、同時に色んな問題も生まれちゃうからね。だから宿った神格を全て僕に詰め込んで、神の世界へ奪い去った。そして生まれたのは神格を持たないお兄ちゃんってわけ」
なるほど。
神の力を持ちカノンは神の世界で。
普通の人間である僕は人間の世界で別れて生まれたんだな。
神としては当然の制裁なのかもしれない。
でも人間を愛してしまった父さんからしたら、辛いことだったろうな。
「驚くことばかりだけど、ここまでは理解したよ」
「そうかい? それでさ、お父さんの妄想であるエルフの国を破壊するついでにお父さん自身が木っ端みじんにされちゃったわけ」
急にその話に移るか。
というか自分の親が木っ端みじんになって死んじゃう話をしている今の状況って、なかなかシュールだな。
「全ては父さんを排除するためってことで理解はできるけど、その妄想が何で国としてここにあるの?」
「ん? 僕達の父さんは地上でファンタジー小説家をやってたじゃない。神の力を行使して、膨大かつ詳細な妄想をしていただけだよ。言ったでしょ? ここは実在しない。お兄ちゃんが認識しているだけだって」
それもそうか。
ということは。
「ねえ、カノン。僕が認識しなきゃ存在しえない国だというなら、無いに等しいし、ここで僕が死んでもその事実すら無意味になるんじゃないかな。むしろ死んだら元の世界に戻れるかも」
我ながらいい考えだ。
ここは妄想で夢で。
僕は偶然紛れ込んじゃって。
だからきっと元の世界でも僕は眠っているだけだと思う。
しかし、その僕の発言をカノンは良く思わなかったようだ。
カノンは黒マントをはためかせて僕に近づくと、襟首を引っ張って顔を寄せる。
そしておでこ同士をこつんとぶつけた。
「ねえ、お兄ちゃん。それ本気で言ってる?」
目の前のカノンは、どこか悲しそうに怒っていた。




