01 『ようこそエルフの国へ』
「あ~、しまった~! イケメンだぁ~」
「もう我々はおしまいです~!」
どこにでもいる普通の高校生である僕、石動シオンは囲まれていた。
石畳の上に突き刺さった石柱。
そこに縛り付けられていたのだ。
周りには現実では会うことがないだろう生物がうじゃうじゃといて、僕を囲む。
そしてなぜか皆悲観に暮れていた。
「召喚は成功、でも……でも……」
「イケメンだぁ~! 我々は掟に従い、イケメンを殺してはならない。復讐は失敗したのです」
「縄をほどけ、イケメンが起きた。拘束も掟で禁じられているのです」
その生物は僕に群がると、縄をほどく。
状況はまったく分からない。
ただ少々疲れている気がしたので、石畳に腰を落ち着けた。
「イケメンが座りました」
「近くで見てもやっぱりイケメンです。ああ、震えが止まりません~」
僕の目の前にいる生物は震えながらそう言った。
身長およそ1メートル。
特徴的な長くとがった耳、緑色の生地でできた服を身につけ、同じく緑色の三角帽をかぶっている。
見るのは初めてだが、ファンタジー小説が好きな僕にはその正体が何なのかすぐに分かった。
「君達はエルフなのかな?」
「あ~、イケメンさんが我々を認識しています。知能の高いイケメンなのでしょうか?」
「ですが、答えねば、答えねば! そうです我々はエルフです」
何か取り乱した様子のエルフが震えながらそう言った。
「そうなんだ」
周りを見渡すと広い草原が広がっている。
所々木造の住居があり、今いる場所のような石造りの構造物もいくつか見える。
ただそれ以上に緑色の生き物がわんさかいた。
「ここはエルフの国なのかな?」
「そうです、エルフの国なのです」
「でもどうして急に僕はここへ……」
「我々が召喚儀式を行い、呼び寄せたのです!」
エルフが言った。
エルフは皆同じ姿、同じ大きさだった。
もしかしたら違うエルフもいるのかもしれないが、少なくとも目の届く範囲にいるのは皆同じだった。
「まるでクローンだな」
「クローン?」
「ああ、何でもないよ。ところでなぜ僕をここに召喚したのかな?」
「なぜって、それはもちろん」
『「殺すため~!」』
声をそろえてエルフたちが叫んだ。
それはとても単調な叫びで、殺意がこもっているようには思えなかったが、それが逆に怖かった。
人の生き死にを理解していないかのような発言だったからだ。