8話「く、くわい…」
くわいを食べて満足した私は何もすることがなくなり、そのままテレビを見続けた。
気が付いたら夕方になっていて、時間の流れは早いなと感じた。
ガチャ、と玄関の開く音がした。
お母さんが帰ってきたのかな
「ただいまー」
靴を脱ぐ音がして、リビングにお母さんが顔を出す。
遅いよ、何て言えない
今日どうして入学式来れなかったの?とかも聞けない。
「おかえり」
一言言うだけ。
お母さんの腕には買い物袋が下がってる、やっぱり買い物したのか。
ま、じゃなきゃ冷蔵庫には何も無いままだしね。
「菜摘、明日から学食だよね。」
「うん」
お母さんは台所に買い物袋を置いて夕食を作り始める。
帰ってきてすぐに作ってすぐ食べて着替えてまた仕事する。それが私のお母さん。
その後夜遅くに帰ってきてちょっとご飯食べてすぐに寝ちゃうのがお父さん。
「学食代は毎朝置いとくからそれで食べて。
お母さんね、また忙しくなるから夜帰ってこれないかもしれないの。」
まな板で何か切る音がする
私はテレビをじっと見つめて返事を返さない
「…その代わりって言ったら悪いけど、お父さんが帰るの早くなるから、2人で…」
「分かった。」
話を最後まで聞かないで返事をしたのが気になったのかお母さんが少し眉を下げた気がした。
私はそこに居られなくなって、テレビをつけたまま自室に戻る。
何だか少し暗い家庭だが、慣れてしまえばなんともない。
春休み中に家に帰っていた弟も今は寮だし、寂しい。
*
『菜摘へ
朝ごはんはサンドイッチです
食べてから学校に行ってね。
学食代も置いておきます
母より』
朝、起きて見ればテーブルには書き置きがあった。
昨日の夜、夕食も無言で済ませそのまま寝た為母とは気まずい。
書き置きの指示通りサンドイッチがテーブルにはあって、中身はレタス、卵、ハム、そして…く、くわい…
くわい好きかよ。
くわいの潰した様なものが入っていた。
昨日美味しいと感じたくわいかな、それなら食べられるけど
「…いただきます」
誰もいない家に私の声が響いた。




