6話「先輩と私」
部室には畳で段になっている所があって、そこに布団が敷いてある。
部室に布団て中々見ない光景だけど…
そこに入ってもぞもぞとしている笹昌先輩はとても眠そうだった。
んー…笹昌先輩はよく見ればイケメンなんだよなぁ…少し髪の毛長いし金髪っぽい色に前髪あげてて、チャラいようでチャラくなくて。
モテそうだけどなぁ、グータラめんどくさがり属性が無ければ、の話だけど。
まぁ所謂残念男子か。
「涼が部活来るなんて珍しいなぁ…あ、分かった!昨日寝てないんだな!」
先生は思い付いたように叫んだ
布団の中から笹昌先輩が正解と呟いた。
寝るために部室に来たのかよ。
とはいえ…3年だけど部長じゃないって、どういう…
私が少し考えてるとまた部室のドアが開いた。
今度は複数人やって来たようで、私を見て驚いている。
「あら、貴女…」
私を見て最初に声を出したのは、入学式に会った西条先輩だった。
「あ、あの時はどうも…!改めて丸山菜摘です!」
私はつい驚いて椅子から飛び上がり挨拶した。
何だかこれではこの部活に入るみたいだ。
「この部に入る気になってくれたかしら?」
「えっと…それはまだ…」
「まぁいいのよ、部活は入学してから1週間以内に決めればいいし…そうだ、丁度全員揃ってるから紹介するわね」
西条先輩はそう言うと後ろにいた他の先輩達を引き連れて部室に入った。
私はどうもと会釈をしておく。
1人ずつ椅子に座って、西条先輩ともう1人の男子だけは立っている
「あ!笹昌先輩がいる!!今日来てたんですね…寝てるけど」
髪の短い優しそうな女の人、あ、この人今朝私に花バッチ付けてくれた人だ…!
突然その人が椅子をがたつかせて笹昌を見て指を指した。
それを見て他の部員もまた1人驚いていく
そんなに珍しいんだ
「とりあえずは花音が来たから安心だね!」
先生は少しホッとしたようで胸をなでおろしている。
「ふふっ、じゃあ…菜摘さん、1人ずつ紹介するわね」
微笑んだ先輩は美しい_____
*
さて、こうして始まった部員紹介だが、この部活の先輩達も中々個性的な連中ばっかりだ。
部員の女の先輩が入れてくれたお茶を啜りながら自己紹介が始まった。
西条先輩はいつの間にか引っ張り出してきたホワイトボードを使って説明を始める
「まずは私ね、この部活の部長を務めています、2年の西条花音です。宿の手配や記事のポップアップ、テーマ作成とか色々してるわ。
まぁ部長は、そこで寝ている3年の笹昌先輩がやるべきなんですけど…まぁ、いいわ。よろしくね」
次に、西条先輩の隣に立っている眼鏡をかけた知的な男性。
少し弱々しいイメージだ
「僕は橘蓮、この部活の部員です。えっと…2年で…花音ちゃんの…げ、下僕です…!部活では記事担当です…」
少し照れながら言うなら言わなきゃいいのに。
てか下僕て…
「誤解を招くからやめなさい。下僕とかはこいつが勝手に言ってることよ。ほっといて…はい、次。」
橘先輩の次は今朝私に花バッチを付けてくれた女の人
「私は山崎小百合!花音とは小中一緒の大親友です!この部活では写真担当をしてるよ。隣のこいつは海野拓海!」
笑顔で言う山崎先輩もまた可愛らしい。惚れる、惚れるよ…
隣に座っている男性はあははと苦笑いしていた
海野先輩…かな?
爽やかイケメンと言ったところか…この部の男子はイケメンしかいないのかよ。
「海野拓海です。伝町部の副部長をやっています。部活では新聞発行とか、会計をしています。」
海野先輩もにっこり微笑んだ
この部活にいると私の心臓が危ない。
「んでー、私がこの部活の顧問!中島美代だよ!」
最後に先生が自己紹介。椅子から降りてぴょんぴょん跳ねてる。可愛い。
「よろしくお願いします!えっと丸山菜摘です!」
「宜しくね。多分この部活の事は何も分からないと思うから説明するわ。蓮、前回発行した冊子持ってきて」
「はい、えっと…これかな」
橘先輩は西条先輩に言われた通りに部室にある棚から薄い冊子を持ってきた
「これは…?」
私は手渡された冊子を見て少し驚く、作りが細かいんだ。
まるで新聞を読んでいるかのよう。
内容はとある町について書かれている
宣伝…?いや、宣伝じゃない。
きちんと隅々まで調べられていて_
「私達の部活はでんちょうぶ
でんは伝える。ちょうは町。町を伝える部活よ。
」
ホワイトボードには『伝町部』と書き込まれている。
「町を伝える…?」
私が聞き返せば西条先輩は頷いた。
橘先輩はいつの間にか私の隣に座っている
「この学校には新聞部がない、だけどその代わりに伝町部があるわ。この部はね、色んな地域を取材して取り上げていく新聞部のようなものよ。貴女最近ニュースでここの近くの深田町がネギ祭りで取り上げられたの知ってる?」
そう問いかけられ、テレビの情報を思い出す。
そう言えば『おはよ』でもネギ祭りの事やってたな…
はい、と答えれば西条先輩は口角を上げた
「そのネギ祭りの発案者は私よ。
丁度その冊子は深田町についての事ね。
私達のやっている事は言わば町おこしよ!
深田町は元々人口も少ない小さな町だったわ。
お爺さんお婆さんばかりのね。
だけど意外と知られていない事実、ネギの収穫量の多さよ。甘い柔らかいジューシーなネギはこの県で1番だわ」
誇らしげに語る西条先輩を見て頷く先輩達。
さっきまで寝ていた笹昌先輩も今は布団の中からじっと西条先輩を見つめている。
「そんな事誰も知らないなんてもったない!だから私達は深田町まで行って直接取材、そして深田町の歴史についても調べてきたわ。ネギ祭りではネギを焼いたりネギ料理を振る舞ったり…宣伝したりしたおかげで今では活気ある町よ。私達の目的は日本の、町の、田舎の、地域の、素晴らしさを伝える部なのよ!」
あぁ、私が西条先輩に凄いと思ったのは
説得力のあるそのカリスマ性だ。
そこに惹かれたんだ私。
ゴクリ
唾を飲み込んで私は話を聞き入った
手元にある冊子には沢山の写真が目に入る
ネギ農家のお爺さんお婆さんと写真に映る笑顔の先輩達
そしてネギ祭りで美味しそうにネギを食べる子供達や大人。
ネギ祭りにやって来た子供達の感想には楽しかった、遊びに来たい、と書かれてあったり
ここに引越すと言ったことも書かれていた。
「まぁ…花音、言っても分からない所もあると思うから、実際体験してもらえばいいんじゃない?」
山崎先輩はお茶を啜りながら西条先輩に声をかけた
それに賛成するかのように海野先輩も頷く。
「そうね…今日は木曜か…今週の土日、皆空けておいてね。今度は越替町に行くわよ。」
笹昌先輩以外は了解と返事をした。
これは私も行くのか。
「土曜日、朝8時に吉波駅に集合。ホワイトボードに書いておくから忘れたらいつでも見に来なさい。あ、菜摘さん、この部室いつも空いてるから来たいときにいらっしゃい。それじゃあ、今日は解散。お疲れ様」
…あっという間に終わった部活に私は何も言えなかった。
先輩達はまたね、と私に声をかけて次々と部室を出ていった。
残ったのは先生と笹昌先輩だけだ。
「丸山さん…んー、菜摘って呼んでいい?」
「どうぞ…」
「菜摘にはちょっと忙しい部活かも知れないけど、案外楽しいんだよ?町おこしするのも結構悪くないと思う!それに中学新聞部だったならうってつけだよあ、涼起こして帰らせといて!」
じゃ、私もこの後仕事あるから
と言い残して先生も部室を出た。
私と言えば、笹昌先輩を起こしていた。
何をしても起きない先輩にはびっくりだ
「もう!
笹昌先輩起きてくださーーーーーーい!!!」




