9話「お友達」
テレビでおはよを見て、制服に着替えて、家を出た。
電車に揺られながら二駅越すと同じ制服姿がちらほら目に入る
駅前には大きな豪邸が建っていて、いつも誰の家なんだろうと思っている。
「よっ」
後ろから声をかけられたので誰かと思えば笹昌先輩だった
「おはようございます、笹昌先輩もこの通学路なんですね」
「まぁ…美南高校通ってる奴らはほとんどがこの通学路…ていうか、駅前のあの豪邸に住んでるの花音だしなぁ…」
「えっ」
気になっていた豪邸の持ち主がまさか身近な人だったとは…
「山崎と海野達は反対側の駅からで、俺はここらの近くに住んでる」
「そうなんですね」
「なぁ、土曜日来いよ、絶対」
「え…?」
「伝町部、変な部活かもって思うかもしれないけど、凄く楽しいし、やりがいあると思う。」
昨日あんなにだらけてた先輩が優しい目を私に向けた。
*
暫く歩いて、先輩とは校門で別れた。
1年生は1階、3年は3階の為、外の階段で先輩とは別れなければならないのだ
下駄箱で靴を履き替えて教室に行けばクラスメイト達がおはようと声をかけてくれる。
友達と呼べる相手はまだいないが。
「おはよ、丸山さん」
席に着くと左隣の高城知歳君が挨拶をした
「おはよ、えっと…高城君」
「あぁ…知歳でいいよ。」
知歳君は髪の毛を横で結んだ優しそうな男の子
左隣の席に座っている。
昨日、自己紹介の後に行った隣の人との交流トークの際に、本来私がするべきはずの右隣の流川鋼牙君がいなかったから代わりに話していたのだ。
「流川さん、今日も来てないんだね」
「鋼牙?はは、鋼牙は不良のトップだから来ないんじゃない?」
不良の、トップ!?
「僕鋼牙と幼馴染みだけど、学校で会話なんて小学生の時くらいしか記憶がないよ。」
「そんなに来てないんだ…」
相当荒れてるようだ。
「でも顔はイケメンだし案外優しいしモテるんだよねぇ…」
なるほど、と一人納得していると女子の騒いでる声が聞こえた。
「え!じゃあ侑依ちゃんはモデルさんなの!?」
「え、違うよ〜…お母さんがモデルさんなの。私は普通の女の子だよ」
声のする方を見ればたくさんの女の子が1人の女の子を取り囲むようにして話している
覗いてみるとお淑やかで綺麗な女の子が座っていた
「可愛い…」
私がそう呟けば知歳君はくすっと笑った
「可愛い?ほんとに面白いね。侑依のどこが…僕、侑依と同じ中学で仲いいんだけどさ、結構ガサツだし男勝りだし、あんなお淑やかだけど全然正反対だから、騙されちゃダメだよ」
知歳君の言葉が聞こえたのか侑依さんがこちらを向いてギロりと睨んだ気がした。
「でもまぁ、友達としては悪くないかな。話してみれば?」
「わ、私が!?」
確かにまだ友達と呼べる人がいないし、仲良くなってみてもいいとは思うけど
あんな美人に声をかけるなんて…!
チラッと侑依さんを見ればにっこり微笑んで私の方に歩いてきた、う、うそ…
「おはよう、えっと、丸山さん?」
「お、おはよう…あの…」
「私は西藤侑依、侑依って呼んでね!…さて…こいつと何話してたのかな?」
侑依さんは知歳君を指で指してにっこり私に笑いかけた
正直凄い怖い。
「やだなぁ、侑依ってば気になるの?」
「おめぇが私の話してるの丸聞こえなんだよ…!」
さっきのお淑やかな侑依さんとは違って静かに低い声で知歳君にそう言えば知歳君はひぃっと小さく声を上げた。
「侑依さん、さっきまで話してた女の子たちはいいんですか」
私が声をかければ侑依さんは平気平気と言った
「てか、侑依でいいってば。私も菜摘って呼ぶから…多分知歳から聞いてると思うけど、私こんなんだからさ、正直他の女子と話すのだるいんだよねぇ…」
「あぁなるほど」
「菜摘は私の事わかってくれそうだし、これからよろしくね!」
にっかり笑う侑依は凄く可愛い。
人によって態度を変えるなんて、疲れないのかな
何はともあれ、私にはお友達ができました。