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5 『スキル強化』

 ルチルに手を引かれて、俺は街の外へと出た。見渡す限りの平原をひたすらに進む。


「スキルレベルを上げるってどういう効果があるんだよ」

「スキルの効果を上げるんだよ。君の『未来視』の場合は未来視出来る時間を増やしたり、視野を増やしたりとかそういう感じさ」


 そんな会話を繰り返し、俺たちは止まる。かなり歩いて来た、四方八方全てが平原だ。風と共に草が踊り、芳しい香りが鼻腔をくすぐる。


「ここらで良いか。ここなら一般人に被害は出ないだろう」


 そこでルチルは振り返る。彼女の赤い髪が風でなびき、甘い香りを俺に届けてくれた。


「なあ、さっきから魔族なんて一匹たりとも見てないけど、どうするんだ?」

「ここは私たちギルドの管理区域だからな魔族は自由に出入りできない。私たち側から呼び掛けて釣るっていうのは可能だ」


 という事は、今からルチルが魔族を呼び出すって事か。


「それってどうやってやるんだ? 強さとか選べるの?」

「どうやるも私の闘気を区域外の魔族に向けて放つだけだ。雑魚い闘気だったら弱い魔族が勘違いして寄ってくる。強いと魔族は一切寄ってこないけどな、雑魚はビビって寄ってこないし強いと知能が高いから警戒して近づいてこない」


 ルチルは人差し指を立てて、説明してくれた。つまり、弱い魔族しか寄ってこないのか。実験としてスキルを使ってみるには持ってこいだ。


「準備は良いか?」


 俺は頷く。ルチルはそれを見て笑うと、表情を冷たくさせた。肌を刺すような威圧感が吹き荒れる。これで加減をしているなんて信じられない。


「しばらくすればゴブリン辺りの魔族がやってくる。ちょっと待ってな」


 ゴブリン。スキルを授与される前に何回か戦った事がある。あの時は接戦だった。勝てはしたが、俺も相当傷を負ってしまった。正直、戦いたくは無い。


「ほら、来たぞ。先に言っておくが私は助けん。この程度で死ぬようなら私の目が腐っただけだ。来年まだまだ待つ」


 彼女は顎で遠くの方を指す。そこから、緑色の鬼の集団がやって来た。それぞれが棍棒を持ち、赤い目を光らせ、俺たちに向かって駆けてくる。身体は筋肉質でところどころ血管が浮き出ている。口からはよだれがだらし無く垂れていて、正直気持ち悪い。


 彼らは一直線に俺に向かってくる。どういう訳か、ルチルには全く反応しなかった。心臓が恐ろしい速度で脈打ち、緊張感が拭えない。


 全部で十体のゴブリン。スキルを授与される前だったら確実に殺されている。でも今は、スキルがある。それもSランク、怖がるな。俺はルチルから預かった剣を握り締める。


「プルァ!!!」


 二体のゴブリンが俺を挟み込み棍棒を叩きつける映像ビジョンが頭に流れ込んで来た。ゴブリンはまだ俺の前にいる。これが――未来視。つまり数秒後俺はゴブリンに棍棒で殴られる。


 俺は咄嗟に目の前のゴブリンに体当たり。地面を転がる。慌てて体制を立て直し、先ほどまで俺が居た場所に視線を向けると二体のゴブリンが同時に棍棒を振り抜き、お互いの頭を破った。


 あいつらバカだ。幾ら俺がいきなり消えたからって行動くらい止められるだろ。今の事から分かったのは、こいつらゴブリンは単調な動きしか出来ないこと。つまり、未来視で見たゴブリンの行動はあまり変わらない。


 俺にぶつかってうずくまっていたゴブリンの首を斬る。容赦はしてはいけない。ゴブリンの首から鮮血が吹き出る。俺の頬に付着したが、気にしてはいられない。


 倒れ伏した三体のゴブリンが淡く光り、消滅した。その場にはカードが残されている。彼らのスキルカードだろう。今頃俺のホルダーノートにはデビルポイントが入ってるはずだ。残りの七体も殺して、奪い取ってやる。


 震える手に喝を入れて、目の前のゴブリンたちを見据える。剣を顔の前にかざす。絶対に倒す。


 それから先は圧勝だった。ゴブリンの動きは全て未来視により感知出来て、攻撃を全く受けない。だが、未来視が発動するタイミングが不明なので、そこらへんはレベルを上げるしか無いんだと思う。十体のゴブリンの屍を前に、俺は胸を撫で下ろした。ルチルの方を見る。


「おめでとう。第二ステップクリアだな、まあ及第点だ」


 彼女は祝福の拍手を送りながら、俺に近づいて来た。顔は満足気で、嬉しそうだ。彼女は拾っていたゴブリンのスキルカードを俺に渡す。


「君が手に入れた創造スキルだ、とりあえず取っとけ」


【創造スキル 『連携』 Fランク

 意思の疎通を会話無しでも伝わりやすくする】


「何てことの無い雑魚スキルだ。後でデビルポイントに還元しておくと良い」


 ルチルはそう言うが、中々便利なスキルだと思うんだよな。動物とか、はたまた魔族とかと意思の疎通が出来るんじゃないのかこれって。彼女は捨てろと言うが、持っておこう。デビルポイントは今の戦闘で充分溜まっただろうしな。


「じゃあスキルレベルを上げるぞ」


 ルチルに言われ、俺はホルダーノートの最初のページを開いた。すると、デビルポイントを表すホログラムが浮き上がる。


「100ポイント。これって多いのか?」

「少ない方だ。だけど1レベ上げるくらいなら大丈夫だ」

「分かったじゃあレベルを上げよう。どうすれば良いんだ?」

「強化スキルが無いからな、さっきの『連携』を使おう」


 ルチルがとんでも無い事を言い出した。あのスキルカードはさっき使うって決めてたのに。まあ十枚あるし良いんだけどな。


「じゃあ錬金の前のページを開いてくれ。レベルを1上げるだけなら四枚で足りるだろう」


 言われるがままにページを開く。するとそこには錬金のページと全く同じ作りのページが現れた。ただページの一番上に『スキル強化』とだけ書かれている。


「ここにはめ込めば良いんだな上に『未来視』下に『連携』を入れれば」

「その通りだ」


 未来視を上のポケットに入れ、残りの四枚を下のポケットに入れた。すると再びホログラムが表示される。


【デビルポイントを50消費します。

 レベルが2に上がります。強化を開始してよろしいですか?】


 懇切丁寧に表示されるホログラムを操作し、強化が始まった。カードが光り輝き、粒子へと変わって行く。その全てが『未来視』へと集まり、強化が完了した。


「さあ見てみろ。詳細が少し変わってるはずだ」


【創造スキル 【未来視】 ランクS レベル2

 数分先の未来まで自由に見る事が出来る】


 言われた通り、変わっていた。それも俺の理想通りに。自然と表情が綻ぶ。レベルが1上がるごとに機能が増えていくのか、この『未来視』がどこまで強くなってくれるのか楽しみだ。


「変わってます。それもかなり強くなってる」

「さすがランクSだな。これで来月のランキングでも戦えるな。まあまだ色々と修行はして貰うがな」


 俺が喜びを噛み締めていると、ルチルが聞き捨てならない事を口走った。


「何だよそれ」

「あん? 言ってなかったっけ? 一ヶ月後にペーティウス王国の騎士ギルドのランクを決めるランキング戦があるんだよ。その時に新人騎士同士を戦わせるのがしきたりでね、そこで君に負けてもらっては困るわけだ」


 ルチルの顔が怖い。俺の身体が汗でびっしょりになっていく。

 でも待ってくれ。それってつまり――


「そう。君の彼女さんもくる」

「シルフィアが……」


 という事は、決闘の再戦が出来るのか。シルフィアに、リベンジが出来るのか。やる気が満ち溢れてくる。


「言い忘れてたけど一対一だよ」


 シルフィアに負けっぱなしなんて嫌だ。次こそ勝つ。その為にも俺はもっと強くならないといけない。彼女はきっと俺よりももっと強いはずだ。


「なあルチル。俺をもっと強くしてくれ」

「君ならそう言うと思ってたよ。勿論だ。私のギルドに弱い奴などいない。気持ちも実力もな。やはり私の眼は正しかった」

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