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2 『一対一』

 俺が手に入れた『固有スキル』【収納】


 一見物凄く弱そうな名前だが、実はめちゃくちゃ強いんじゃないか。


「お前どんな固有スキルだったんだ?」


 俺がホルダーケースを持って唖然としていると、隣の席に座っていた金髪の少年に声をかけられた。雑魚スキルだと思っているのだろう。それほどまで先ほどの俺の表情は歪んでいたはずだ。


「【収納】? なんだよそれ、聞いたことねえ。ロールは村人で確定だな。ドンマイドンマイ」


 俺を押し退けて、彼は無理やりケースの中を覗き込む。そして、わざと周りに聞こえるように叫んだ。


 大体こういう奴は小物だ。詳細も確認せずに相手の力量を判断するなんて論外すぎる。相手にしない事が大切だろう。


「本当最悪だよ」


 てきとうに相槌を打って、俺は席を立つ。シルフィアを探さないと、騎士ギルドの入団試験は今日行われる。シルフィアと早く落ち合って合格するための作戦を練らないと。


 騎士ギルドの入団試験が授与式当日に行われるのには色々と理由がある。手に入れたばかりのスキルをどれだけ使いこなせるのかという才能や、判断力、コミュニケーション能力など、それらを見るには今日という日がベストだからだ。既に試験は始まっていると考えて良い。


 シルフィアを探すため、辺りを見渡していた時だ。俺はある事に気付く。


 周りの人間が、俺の事を冷ややかな眼で見ている。中には危険視して鋭い視線を送ってくる者もいるが、それはごく一部だ。


 先ほどの金髪少年に視線を送ると、彼はヘラヘラと薄ら笑いを浮かべて座っていた。明らかな嘲笑。思い出した。彼はここら一帯を支配する貴族の息子で、代々騎士ギルドを経験してから家を受け継ぐという名家出身のエリートだ。


 彼の発言力が高い理由が分かった。俺はどうやら面倒臭い奴に目をつけられたらしい。


 突然、教会の扉が開け放たれた。


「これより、ペーティウス国の騎士ギルド入団試験を行う!!」


 開門と同時に一人の騎士が教会に足を踏み入れ、声高らかに宣言する。


「騎士ギルドに入団する気のない者は立ち去れ、我々はそのような人材は求めていない。そやつがたとえ強くともな」


 騎士は声を低くし、威圧的な態度で語る。先ほどまで夢を語っていた少年少女が一人、また一人と減って行く。その中には俺と同じ村の奴もいた。


「残った者はこれだけか。今年は多いな」


 俺はもちろん教会に残った。いくら周りにバカにされようが帰る気なんてさらさらない。


「あれ? お前帰らなかったの?」


 俺に歩み寄ってきたのは、先ほどの金髪貴族少年だ。彼は眉をひそめ、怪訝そうな態度を取ってみせる。


「僕は身の程知らずが一番嫌いなんだよ」

「悪いな。騎士ギルドに入るのは幼馴染との約束だから、簡単に諦め――」

「てめえの話なんか聞いてねえんだよ。てめえみたいな雑魚が、このサイケル様と同じ土俵に立ってる事が気に食わねえんだよ」


 懇切丁寧に自己紹介をしながら、サイケルは俺に突っかかってくる。騎士ギルドへ対するアピールなのか、それともただのアホなのかは分からない。ただ、実力だけは確かだろう。先ほどは小物だと言い切ったが、貴族の『固有スキル』の性能は基本的に高い。実験としてこいつを逆上させて俺に対してスキルを使わせてみようという名案が頭によぎった。


「第一試験の内容を発表する。今すぐに二人組を組め、そしてそいつと戦え。決闘だ」


 丁度いいタイミングで、第一試験の内容が発表された。それもナイスな内容。サシの勝負。実験として相手の能力を奪うのに持ってこいのシチュエーションだ。そして相手も既に決まったようなものだ。


「おい。お前今の試験内容聞いてたか? 逃がさねえよ。僕と勝負しろ」


 サイケルは俺の肩を掴んだ。後ろに振り返って見ると、嘲笑的な笑みを浮かべ俺を見ていた。


「見ろよ。あの雑魚サイケル様に捕まったぜ」

「もう終わりだな」

「運が悪かったなあいつはよりにもよって屋敷で一番才能のあるサイケルに捕まるなんて……」


 サイケルの実力を知る者が呟いているのが聞こえる。貴族の中でもサイケルはかなり強い部類に入るらしい。これはいきなり高性能スキルゲットのチャンスだ。


「ああ、受けて立つよ。お手柔らかに」


 俺がそう返すとサイケルは青筋を立てた。俺の胸倉を思い切り掴んで、鋭い眼で睨んでくる。


「思い上がるなよ。クソ雑魚貧民が! お前なんかに本気を出してたまるか」


 そう叫び、俺を突き飛ばした。俺はいきなりやってきた衝撃に耐えられず尻餅をついてしまう。


「組み終わったか? では直ぐに外に出ろ! もう準備は整っている」


 サイケルの瞳は血走っており、充血している。相当頭に来ているらしく、もうまともな考えは出せないだろう。サイケルは一度騎士の方を向き、乾いた笑みを浮かべ狂笑した。


「ハハハハ! おらさっさと外行くぞ。ぶっ潰してやるよ」


 そしてもう一度俺を見て前へと歩み始めた。俺たちの近くにいた人々は静まり返っていて、全員俺から目をそらしていた。


 俺はゆっくりと立ち上がり、サイケルの後を追う。教会の扉を開けて外に出るとさっきの騎士以外に数十人の騎士がいた。


「あれが騎士団長様か……」


 騎士ギルドの入団試験。団長が見にこない方がおかしい。団長達は全員何か特殊なオーラを放っていて、一般人のそれとは違う何かを感じる。気迫とか、態度、仕草などどれ一つとっても異質だ。この人達の前で戦うと考えると緊張する。


「ねえアレン君。大丈夫だった?」


 いつの間にか俺の隣にはシルフィアがいた。さっきの騒動を聞いていたのだろう。彼女は俺を心配してくれている。


「大丈夫だよ。負けないから、それよりシルフィアは戦う相手決まったのか?」


 俺は彼女を心配させないように、わざと明るく振舞ってみせる。するとシルフィアも安心したのか顔を明るくさせてくれた。


「私の対戦相手も決まってるよ。勝てるか分からないけど良いスキルが当たったから勝てるよ! 絶対二人で騎士ギルドに入ろうね!」


 そう言ってシルフィアははにかみ、俺に手を差し出した。俺はその手を握り返す。彼女のスキルは分からないが、きっと勝ってくれる。俺に勝った女の子なんだから、こんなところで負けてもらっては困る。あの借りは必ず俺が返すんだから。


 そのためにもあのクソ貴族に負けるわけにはいかない。俺はあいつを踏み台にしないといけないんだ。


「あ、第一試験の詳しい内容が発表されるよ」


 シルフィアの指差す方に騎士が立っていた。彼の前には魔法陣で囲まれたサークルがある。きっとあの中で戦うのだろう。


「それではルールを説明する。貴様らにはここに居られる団長様の前で戦ってもらう。スキル以外の武器を使っても構わない。どんな手を使ってでも良い。目の前の敵を倒せ、以上だ。敗北した者はそこで試験中止。アピールポイントはそれまでだ」


 予想はしていたが、シビアだな。入団試験は全部で第五試験まであり、それぞれの試験で団長に自分の特技をアピールする。だから第一試験で失格となると、どんなに強い奴でも選ばれ難くなってしまう。なおさら負けられない。


「それでは第一試合を始める! 誰でも良い早く前へ出ろ!」

「僕が行く」


 騎士の怒気の籠った言葉に誰もが動けないでいると、金髪の少年が手を挙げた。サイケルだ。


「さっさと出てこい。雑魚やろう」


 そう言ってサイケルは俺を睨みつける。隣のシルフィアの表情は再び曇り、不安を隠せていない。


「大丈夫だよ。あいつに一泡吹かせてやるから」


 シルフィアの頭を軽く叩き、俺はサイケルの元に向かう。


「先に言っておくが、この勝負は一瞬で決まる。それも一方的にだ。騎士団長様に聞きたいが、それで僕の事を評価出来ないなんて事にならないよな?」


 サイケルは一度騎士団長全員を眺めてから、そう切り出した。随分と自信があるみたいだ。ここでこいつを倒したらどれほどスッキリするだろうか。


「ほう。随分と自信があるみたいじゃないか。大丈夫だ、俺たちは君ら程度の動きなら全て見切れる。良い点も悪い点もな、一瞬で評価してやろう」

「安心した。これで心置き無く戦える」


 騎士団長の一人が丁寧に答えてくれる。彼は俺の方を見て、ニヤリと笑った。その全てを見透かしたような瞳は、俺のスキルを見破っているようでこれから起こる事を予知しているようだった。


「ああ、可哀想に……第1試験でサイケルに消されるとはあいつもとんだ不幸者だな」


 近くで戦いを見ようとしている同期がそう言っているのに対し、


「これは面白い試合になりそうだな」

「目が離せないな」


 団長側はこの試合を随分と楽しみにしているようだ。


 俺とサイケルが魔法陣の中に足を踏み入れる。サイケルは勝利を確信し、口元を軽く緩ませていた。


「アレン君頑張って!」


 シルフィアの声援が聞こえる。彼女は俺を完全に信用してくれたのだろうか、もう顔は曇っていない。その瞳はしっかりと俺を見ていて、俺が勝つ事を信じてくれていた。


 俺は自分の右拳を握り締める。絶対にこんなところで負けない。シルフィアに勝つ為に、共に魔族を蹴散らす為にも俺は騎士ギルドに絶対入る。


「それでは、第一試験第一試合を開始する。両者前へ」


 騎士が俺たちの間に立ち、宣言した。ホルダーケースを開き、一歩前へと進む。そして互いに睨み合い――


「始め!!!」


 騎士の怒号と共に戦いの火蓋が切って落とされた。


 合図と同時に、サイケルは俺の懐へと入ってくる。お互いに武器は持っていない。来るのは拳だ!!


「『転送』現われろ、聖遺物アーティファクト『残存の剣』」


 サイケルが呟いた。するとその瞬間、サイケルの手元に豪奢な剣が現れた。そして――


【スキル『転送』の使用を確認しました。カード化しホルダーケースに収納します。尚、一ページ目の収納になるのでスキル使用可能な状態となります】


 俺の視界に文章が表示された。きっとこれが俺のスキル――収納。という事は、記載通り俺は今サイケルのスキル『転送』を使えるという事になる。何を転送出来るのかは分からない。サイケルの剣がもう直ぐ俺の胸元を貫く。考えている暇は無い。感覚に任せ俺は転送を発動させる。俺の持ち物の中で、この場にあった物を選んでくれ!!


 そう願った――その瞬間、俺の手元にはシルフィアとの思い出の品――木刀が握られていた。剣の勝負ならシルフィア以外には負けない。負けてはならない。


 サイケルの剣技は遅く、到底シルフィアには敵わなかった。踏み込みが甘く腰が入っていない。こんな剣、かわす必要など無い。木刀でサイケルの剣を受け止める。鉄で出来た刀身が木刀に食い込む。だが、木刀は折れずに耐えてくれた。


「貴様!! どこからその木刀を!」


 サイケルの焦った表情が見える。お前が剣出した時俺も同じ様な気持ちだったぞ。


 そんなサイケルを無視し、俺は彼の鳩尾を蹴りつける。力の抜けた手から鉄剣を奪い取り、彼の顔の横にそれを突き出す。鉄剣が顔の頬にかすり、血が垂れた。


「動くな。止まれ。それ以上動いたら斬るぞ」


 サイケルの足は震えていて、今にも崩れ落ちそうだ。


「試合終了だ! この勝負はアレン貴様の勝ちだ」


 どこからか俺の名前を手に入れた騎士は、俺たちの間に割って入り試合を止めた。


「なんで……なんで俺があんな虫けらに……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでだああああああああああああああああああ!!!!!」


 サイケルは崩れ落ち、頭を掻きむしって発狂していた。会場ではどよめきが起きていた。


「あいつサイケル様を倒しちまったぞ」

「なんつー奇跡が起きたんだよ」

「サイケル様が第一試験で消えだった事は俺にもチャンスが……」


 そんな会話がチラホラを聞こえてくる。


「面白いスキルを持っているな」


 バレないように横目で騎士団長達を見ていた時だ。女性の団長と目が合い、声をかけられた。


 彼女はこちらに近づいて来る。赤い髪を肩らへんで切り揃えた、小柄な女性だ。


「おいレグルス、今年の試験も例年通り途中で選んで帰っても良いんだよな」

「これはルチル様、勿論です。ですがその場合一人だけの引き抜きになりますが――」

「何改まってんだよ。私はいつも一人だけしかスカウトしねえだろ」


 部下に確認を取り、女性は俺に向き直った。


「君の事が気に入った。私の騎士ギルドに入らないか?」

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