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1 『英雄の加護』

 今日は運命の日。


 空を見上げる。森の木々から漏れる陽の光が俺たちに当たる。まるで、今日という日を祝福してくれているようだ。


「いよいよだね、アレン君」


 俺の前でシルフィアが呟いた。彼女は自分の銀髪を弄る。緊張がほぐれないのだろう。そわそわしているように見える。


 今日は俺たちに『固有スキル』が与えられる授与式が行われる。そして、騎士ギルドの入団試験も同時に行われるのだ。


 十五歳になると成人し、成人した人には英雄からスキルが授与される。


「騎士ギルド入れると良いよな」


 そんな言葉を交わしながら、俺たちはお互いに剣を構えた。


「今日で勝負が決まるね。アレン君」

「ああ、333戦中 111勝 111敗 111分だよなシルフィア」


 今日で俺たちは離れ離れになってしまう。幼少期から続けて来た幼馴染シルフィアとの決闘も今日で最後だ。


「まあ、最後は私が勝つけどね」

「うるせえ。この前は負けたくせに」


 俺とシルフィの剣の腕前は互角だ。俺たちの村で俺とシルフィアに敵う子どもはいなかったので、いつも二人でいがみ合っていたものだ。


 木の葉が落ちる。いつもそれが勝負開始の合図だ。


 葉が地に落ちた。その刹那。シルフィアの木刀が振り下ろされる。

 俺はそれを峰でいなす。完全に受け流しきったところで身体を一歩横にずらす。すると、全体重を俺に預けていたシルフィは前につんのめった。


「相変わらずだなシルフィア」


 そのまま俺はシルフィアの背中目掛けて剣を振るう。ギリギリのところでシルフィは体制を立て直し、俺の剣を弾き返した。


「同じ手にはかからないよ」


 いや、かかっただろ。シルフィアは既に肩で息をしていた。今の一撃に相当の力を入れていたのだろう。


 それから俺たちは十五分以上剣を打ち合っていた。


 シルフィアが俺の上に跨り、俺の頬のすぐ横に剣が突き刺さる。


「えへへ、私の勝ちだ」

「参ったよ。降参だ」


 目の前でシルフィアが嬉しいそうに微笑む。負けたというのに、清々しい気分だ。今日の決闘は今までで一番良い決闘だった。


「私の勝ち越しね」


 シルフィアは俺の上から降りて、手を差し伸べてくれる。


「おい! シルフィア! アレン! 何やってんだ早く来い! もうすぐ出発するぞ!」


 森の奥、村の方角から俺たちに声がかけられる。


「じゃあ行こうか」


 シルフィアの腕に捕まり、俺は起き上がる。村へと歩き出した。


 少し歩いて、村の入り口が見えて来る。そこには俺と同い年の連中が何人も集まっていた。


「おらアレン、お前の荷物まとめといてやったぞ」

「おう。ありがとな」


 村の悪ガキ仲間から荷物を受け取る。シルフィアと決闘に出かける前に頼んでおいたのだ。村から一番近くの教会に行くだけなので、荷物は少ない。


「俺たちの中から騎士ギルドに何人入れるのかな」

「騎士ギルドに限らず、王国兵士とかにもなりたいよな」

「私だって王国に使える大魔術師になってやるの!」


 俺たちは興奮と緊張が入り混じって独特の雰囲気に支配されていた。今日貰うスキルによって、今後の人生が左右されるのだ。かく言う俺も、かなり緊張している。


 俺たちの前に杖をついたヨボヨボの爺さんが歩いて来た。村長だ。


「今日で君たちはこの村を出る。その中には儂のようにこの村に戻って来る者もいるかもしれん。しかし、例えスキルが弱くても諦めないでほしい。取り敢えずは騎士ギルド入団試験を受けてみてほしい!」


 村長は目を見開き、叫んだ。相変わらずの村長だ。俺はこの村が好きだ。これから授与式が行われて、多分村を出る事になるだろうけどこの村がピンチになった時は守りたい。


 そうこう話していると、村に馬車が到着した。俺たちは荷台に乗り込む。


「どんなホルダーケースを貰えると思う?」

「俺は紋章のついた格好良いノートが良い!」


 もう話題は授与式の事で持ちきりだ。ホルダーケースとは『固有スキル』が書かれたノートの事で『スキル』を収納する機能を持っている。ホルダーケースの模様は一種のステータスだ。


 しばらく馬車に揺られ、目的地に到着した。馬車から降りると何百人という少年少女たちが集まっていた。目の前には大きな教会が森の中で存在感を放っていた。


 これから俺たちは皆、英雄から魔族と戦うための力を貰う。周りを見渡してみると、自信に満ち溢れていると言わんばかりに堂々としている者、自身の将来に不安を抱いている者、興味がなさそうにしている者など、色々な人がいた。この中に俺の仲間になるかもしれない人がいると思うと胸が踊る。


 周りの人たちと話していると、教会の扉が開いた。中からシスターがやって来て俺たちを招き入れる。


 大きな鐘が鳴り響き、俺たちを歓迎してくれる。赤い絨毯を踏みしめ、俺は一歩一歩確かに歩みを進める。左右に均等に並べられる椅子に座った。正面には英雄を讃える銅像があり、その後ろの棚には何千何百冊ものホルダーケースが綺麗に収納されていた。


 あの中に俺のホルダーケースがある。固有スキルを早く手に入れて、魔族を倒したい。騎士ギルドに絶対に入るんだ。シルフィアに今度こそ勝ってやる。


 神父が銅像の前に立つ。


「あなた方は本日をもって、成人になります。それを記念して英雄からホルダーケースが授与されます」


 神父はそう言うと、呪文を詠唱し始めた。教会の中が不思議な光に包まれる。


「ホルダーケース授与!!」


 神父のその言葉と共に光が全て銅像に集まりホルダーケースへと飛んで行った。光を当てられたホルダーケースはゆらゆらと一人でに動き出し新たな主人の元へと飛んで行く。


「これが俺のホルダーケース……」

「めっちゃ分厚いやつきた!!」

「お前の方が格好良くねえか」


 それぞれがホルダーケースを受け取り、感想をもらす。外見も大事だが、一番大事なのは中身だ。しばらくして、俺の前に一冊の本がやって来た。不思議な形をした紋章が表紙に刻まれた灰色の少しボロいノートだ。


「これが、俺のホルダーケース……」


 俺は俺のホルダーケースを手に持つ。ずっしりとしていて、とても重い。恐る恐るノートをめくってみる。


 そこには沢山のカードを収納するためのポケットが付いており、1枚のカードが入っていた。そこにはこう書かれている。


【固有スキル 『収納』】


 は? なんで? 収納ってなんだよ。ホルダーケースは元々スキルを収納するための……。


 ホルダーケースの機能と同じスキルが俺の『固有スキル』だった。こんなスキル、あってないようなものじゃないか。


 そこで気付く。カードの下、そこに能力について詳しい記載があることに。


【固有スキル 『収納』 ランクS

 相手が自分に対して使ってきたスキルをカード化し収納する。固有スキル創造スキル問わない。但し一つのスキルにつき一度まで】


 いや待てよ。コピー能力か? このスキル、実はめちゃくちゃ強いんじゃないか。

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