4.
そんなふうにして、あたしは死んだ。
あたしの死は、事故として処理された。
全身打撲と脱水症状。苦しくてひどい死に様だったけど、でもおびただしい不運が積み重なった結果で事件性はないって、そう判断された。
でもそんなのはどうでいいくらい一番苦しかったのは、一度だけここへやってきたお母さんとお父さんの表情だ。
二人とも、とてもほっとした顔をしていた。あたしが見た事がないくらい、晴れやかな顔だった。
周りには他の大人たちがいたから、その喜色はすぐに取り繕われたけれど。でも二人の足元まで必死に這っていってたあたしには見逃しようもなかった。
ああ、どんなに頑張っても、結局あたしは二人が望む子にはなれなかったんだな。
あたしはどうしようもなく要らない子だったんだな。
そう、思った。
だからあたしは一人になって、独りになった。
でもそれも、やっぱり間違ってた。
ず。
音がした。
人がいなくなって夕暮れが過ぎて夜になって、そうしたらあの音がした。
あれが、“子猫”が、動かない後脚の代わりに前脚を懸命に動かして、たったひとつの見えてない目をこちらへ据えて、あたしのところへ来ようとしていた。
這い進むその姿を見て、「お揃いだね」なんて考える。
ぼんやりとしか見えない世界。動かない足。這うしかない体。出ない声。
あたしたちは今や、何から何までそっくりだった。
何も得られず、何にも届かない。
「みかた、だよ」
だけどその時、猫が囁いた。
すんすんと匂いを嗅いで、あたしがあたしであると確かめる。
「みかた、なんだよ」
あの時告げた、実のない言葉。
でもどうしてかひどく心に沁みて、あたしは泣き出しそうになる。
床に伏せたまま、ひとつ息を吐いて。
寂しく満ち足りてあたしは笑う。
応えて猫が、小さく、やっと鳴いた。