それぞれの気持ち
2012月5月10日。
【朱莉side】
今、私のこと好きって言った?
「ちょっと友樹君、何言ってるの…?」
「だから俺は」
「ちょっと来て!」
「うぉ」
「え?彩花!?」
彩花は友樹君を連れてどこかに行ってしまった。いつから聞いていたのだろう。
それより、どういうこと?友樹君は私のことがずっと好きだったの?
【友樹side】
なんかよくわかんないけど朱莉の友達に非常階段に連れてこられた。折角いいところだったのに。
「友樹君だよね。私あかりんの親友の彩花」
あかりんって朱莉のことだよな。
「あっどうも。それよりなんですか?」
告白を邪魔されたのだ。だからちょっと睨んでやると普通にスルーされた。
「あのね、私はあなたの邪魔をしたいわけじゃないの。ただ、告白するならもっとタイミングを見た方がいいよ」
「はい?」
「あかりんには大好きな彼氏がいたの。優太君って言ってすごく仲が良かった。ラブラブすぎて見てるこっちが恥ずかしかった。…でもね、1週間前、優太君が死んじゃったの」
「…え?」
朱莉に彼氏がいたことにも驚いたけど、それよりもその彼氏が死んでしまったことの方が驚いた。
「事故だったの。優太君、横断歩道で荷物が重くて渡れなかったおばあさんを助けてたら、酔っ払い運転のトラックが突っ込んできたらしいの。優太君ね、そのおばあさんをかばって死んじゃったの。……だから今、あかりんは立ち直れないでいるの。私は、あかりんには前に進んで欲しいから正直言って友樹君の告白は大歓迎なの。でもね、あかりんのことだからたぶん断ると思う」
「朱莉はまだ、その彼氏のことが忘れられないから俺の告白は断るってこと?」
「うん、多分ね」
俺はこんなにも朱莉のことが好きなのに。
【朱莉side】
「彩花たち、何してるんだろう?」
私は教室の中で1人取り残されていた。
「1人でいると優太のこと、考えちゃうんだよなぁ」
優太は私が他の誰かと付き合ったらどう思うんだろう。嫉妬してくれるかな?それとも喜ぶのかな?どちらにしろ、優太なら最終的には応援してくれるんだろうな。
「朱莉」
名前を呼ばれて振り返ると友樹君がいた。彩花の姿は見当たらない。
「さっきのことなんだけど忘れてくんない?気にしなくていいから」
忘れていいの?そんなはずないよ。あれは絶対嘘なんかじゃない。
そう言ってどこかへ行こうとする友樹君の手を私は掴んだ。
「待って!私はまだそういうの考えられないけど、落ち着いたら絶対返事するから。それまで待ってて」
「……」
ちょっとの間の沈黙。なんか緊張する。私、変なこと言ったかなって考えちゃう。
「朱莉はホント優しいよね。ありがとう。俺、待つのも我慢するのも慣れてっから。朱莉の答えが出たら聞かせて」
友樹はそう笑顔で言ってくれた。
優しいのは友樹君の方だよ。私は、自分に甘いだけ。自分勝手なだけなのに。
「ごめんね…」
私は友樹君に聞こえないくらい小さな声でそう呟いた。