二人の彼女の愛し方
こうして、現実的なのか自分自身訝しがっていた節のあるハーレム形成法はひとまず成功を収め、二人目の彼女として水草さんを引き入れることとなった。
「ふふふ、おめでとうヒドラ。しかし、これからが大変だと思うな。君は彼女の弱みにつけ込んだ最低野郎もいいところなわけで、彼女も薄々はそれを感じ取っているだろうし完全に納得しているわけではないのだから、彼女が満足行くように愛してあげないといけない。勿論私もね。古い彼女だし多少蔑ろにしてもいいやってなってみろ、悪評をばら撒いてやるからね」
「おお怖い怖い」
現在は水草さんの改めての告白を受け入れた放課後。水草さんは別に家がすぐ側というわけでもないので残念ながら途中でお別れ、一緒に帰宅する権利は幼馴染の特権ということだ。三人目の彼女をすぐに作る算段を立てる程俺はせっかちな男ではない、まずはロコと水草さんをいかに満足させることができるかについて悩んでいるところだ。
「大体水草さんの家から私達の家まで徒歩20分か……うん、十分家に来て遊べるレベルだよね。というわけで定期的に水草さんには部屋に来てもらってゲームをしよう。ああ、やっとゲームセンスの壊滅的なヒドラ以外の子とゲームができる」
「……お前、人の部屋で人のゲームで遊んでおいて酷くないか? まあ、部屋でゲームするだけでそれなりに満足して貰えるなら安いもんか……」
「だからってそれだけで満足してくれる程安い女じゃないからね、私達は。大体ね、君が私をデートに誘ったことがあったかい? 毎日登下校を共にして、毎日部屋でゲームしたりして遊んでるからって、デートに誘わなくてもいいなんて有り得ないんだからね。女の子は貪欲なんだよ、君の全てを私達に捧げる気持ちでだね……」
今までは別に文句なんて言ってこなかったのに、二人目の彼女を作ったタイミングで改めてもっと構えと強請ってくるロコ。女の子ってよくわかんねえなあ、なんて青春ぽい事を考えながら、明日からどう彼女達と、そして周囲と付き合っていくか無い知恵を絞るのだった。
「おはようございます蛟さん猫狩さんその今日からよろしくお願いします」
「おはよう、水草さん」
「おはよろ」
翌日。俺とロコが一緒に教室に入ると、それに気づいた水草さんが少し赤面しながら挨拶を寄越してくる。少し前までは水草さんを放置してロコとお喋り、更に少し前はロコを放置して水草さんとお喋りしていた俺だったが、もうどちらも放置したりなんかしない。
「早速なんだけどさ水草さん、今日の放課後暇? よかったら部屋に来て一緒にゲームしない? いやあ、こいつゲーム下手でね。水草さんはいかにもゲーム得意そうって感じするし」
「放課後ですかはい大丈夫ですよ空いてます本音を言うと見たいアニメがありますけどファンたるものきちんと録画予約をかけていますからばっちりです友達とじゃなかった恋人と一緒に遊ぶなんて初めてですまあ恋人自体初めてなんですけどね」
「そっか。それならよかった。後、お昼なんだけどさ……」
水草さんを攻略するにあたり彼女の趣味嗜好はかなり理解しているつもりだし、勿論幼馴染のロコの趣味嗜好だって手に取るようにわかる。二人の趣味に付き合って喜ばせることはそう難しくないだろう。むしろ問題は、俺達の周りだ。
「……」
「……」
唖然とする周りのクラスメイト達。彼女持ちの男が別の女にばかり構ったかと思えば元鞘に戻ったかと思えば今度は三人で仲良くしているのだから、『なんだこいつら』という感想を抱く人も少なくないだろう。
「そうなんですか猫狩さんもあのアニメ見てるんですかあれなんというかシュールで面白いですよね自分でもミーハーだなあって思いますけどついつい原作を全部買っちゃいました」
そして数名のクラスメイトが不愉快そうな顔を水草さんの方に向ける。連中は水草さんにいい感情を持っていない人達だ。折角静かになったと思ったらまたペチャクチャと喋りだしたのだ、苛立つのも無理はないだろう。『飼い主ならちゃんとしつけとけ』みたいな感じの表情を俺の方に向けてくる人までいる始末。何かを得るためには、何かを犠牲にする必要がある。彼女を失うことなくもう一人の彼女を得るために、教室での立ち位置を犠牲にする……愛に生きているみたいでカッコいいよなあなんて思ってしまう自分は、馬鹿なのだろうか。
「お前、二人と付き合ってんの?」
「ああ、そうだよ」
「へ、へえ……」
「す、すごいなお前」
お昼休憩になる頃には、クラスメイトも俺が公認の元、二人目の彼女を作ったことを理解したようで更に奇特な目で見られてしまう。彼女が二人だなんて男からすれば羨んでもいいものだと思っていたが、実際にとられたのは引き気味な態度だった。
「まさか本当に彼女二人作るなんてな……まあ、頑張れよ。縁を切らずに協力してやるよ」
「ウッキーベッキードンビッキー」
「何だよお前ら、割とノリノリで協力してくれた癖に、いざ成功すると壁を作りやがって。お兄さん悲しいぜ?」
ケースケとロゼッタですら若干引いているくらいだ、ロコと水草さんとこいつら以外とはまともに交友関係を築くことはできないと思った方がいいだろう。恋人がいれば友達なんていらないや、なんて人は割といるけど、恋人を二人作ってもその境地にはまだ達せそうにない。実際に拒絶されると、辛いものがある。ロコはあまり気にしていないようだし、水草さんに至ってはむしろ話し相手が増えているというのがせめてもの救いか。
「どうだい、二人の女の子に囲まれてお弁当を食べる気分は」
「……ちょっと気まずいね」
「駄目ですよ蛟さん遠慮しちゃあ私が勇気を出して告白したのを台無しにするつもりですか気まずいなんて思わずにぐわっはっはっはくらい思ってくださいよ」
「割と水草さんも強気な事を言うんだね……」
教室での疎外感から逃げるように、二人の彼女と共に空き教室に向かいお弁当を広げる。どこか気まずさを感じてしまっている俺を他所に、女同士で盛り上がる二人。いがみ合ってもおかしくない二人が彼氏をほっといて盛り上がるという光景は、なんというかほっとするというか悔しいというか。
「……おっと、ごめんごめん。いや何、水草さんとは交友を深めていないからね、さっさと仲良くしてくれないと君も気まずいだろう? 安心しなよ、なかなか水草さんは面白い人だよ、好きになれそうだ」
「私も猫狩さんは趣味が割と被ってるみたいですし仲良くなれそうですあそうだ蛟さん恋人一日目ではありますが是非あーんをさせて貰えないでしょうか一度やってみたかったんです」
「そりゃあいいや、私もやろう。一度やってみたかったんだよね、二人の女の子があーんってやって、挟まれた男が気まずそうになるあれを」
よくわからないシチュエーションに憧れているロコが早速卵焼きを箸でぐさりと刺し、俺の口元へ持ってくる。それに呼応するように、水草さんもやや照れながらプチトマトを手でつかんで俺の口元へ持ってきた。
「はい、あーん」
「ささ食べてください」
こいつは最高に気まずいぜ、と冷や汗を流しながら観念したように口を開くと、卵焼きとプチトマトが口の中に放り込まれる。甘くて酸っぱい恋の味を噛みしめながら、気まずくならないように頑張らないとな、と二人の恋人を全力で愛することを誓うのだった。




