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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
コミュ障少女の落とし方
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二人目の彼女の作り方

「ちょっと待ってくださいいえ嬉しいです蛟さんがそう言ってくれた事は嬉しいんですけど蛟さん猫狩さんのことはどうするんですかそんなのあんまりですよ人の恋人奪ってまで私幸せになれませんよ」


 俺の方からこうして付き合って欲しいと言われるなんてこれっぽっちも思っていなかったようで、動転して慌てふためく水草さん。告白されて嬉しそうな反面、恋人がいるのに平然と別の女に告白するような人とは思っていなかった、なんていう一種の軽蔑ともとれる表情が見て取れた。


「ロコとは別れるつもりはないよ」

「……は?」



 そして水草さんの前で、堂々と二股宣言をやってのける俺。一瞬水草さんの顔が酷く冷たい感じの真顔になる。そりゃそうだ、セフレなんてもっと大人の世界の話ならともかく、複数の女性と関係を持とうとする男を許容できるように日本の女性は教育されちゃあいない。


「ロコと一緒にいるのも楽しいしさ、水草さんと一緒にいるのも楽しいよ。ロコも俺と一緒にいて楽しいって言ってるしさ? 水草さんもそうだろう? だったら何らまずいことなんてないさ」

「まずいですよまずいに決まってるじゃないですか二股なんて不純です」

「そうかい? 水草さんがよく読んでる本には、ハーレムが当然のように出てくるし、登場人物だってそれを受け入れてたりするじゃないか」

「空想と現実をごっちゃにする程私はイカれてませんよ大体猫狩さんが許すはずがないじゃないですか」


 少し押し問答をした後、彼女の口からそんなキーワードが飛び出す。この言葉を聞きたかったんだ。


「じゃあ、ロコが許してくれたらいいんだね?」

「許すはずがありません」


 『大体』なんて言葉が出てくるということは、本人の気持ちはむしろ肯定的な部分があるはずだ。つまり、ロコが肯定的ならば一気に水草さんの気持ちは傾く可能性があるということではないだろうか。俺はスマートフォンをピポパと操作してロコを呼び出す。1分ほどして、ロコが俺達の方へやってきた。


「やあどうしたんだいヒドラ、こんなところに呼び出して……って、水草さんじゃないか。どうしたんだいこんなところで。ああ、告白?」

「ああ、そうだよ。水草さんに告白されちゃってさ。だから俺も付き合おうって言ったんだけどさ、納得できないらしくて」

「あはは、変なの」

「猫狩さんなんでそんなに呑気なんですか私を怒ってもいいくらいじゃないんですかだって私猫狩さんという恋人がいるのを知ってて好意を伝えたんですよ泥棒猫ですよていうか蛟さん堂々と今二股宣言かけましたよいいんですか」


 普通の彼女なら、彼氏が告白されるシーンに遭遇すれば女の方に怒りを向けてもおかしくないし、ましてや二股宣言をした俺をぶん殴ってもいいくらいなのだが、生憎ロコは聖母のように寛容だ。


「私は別に構わないよ」

「へ?」

「まあ、彼女としてどうなんだ、っていうのも一理あるけどね。私は別に、一緒にお喋りしてくれれば、一緒に遊んでくれればそれでいいんだよ。彼女が何人になろうとも、私に以前と同じくらいの愛をくれるというならね。現実的な話をすれば、どうせ高校生のカップルなんて大抵数年もせずに別れるんだしさあ、短い期間で終わるんだったら恋人複数いてもいいんじゃないかな、って私は思うわけ。高校生のうちから将来見据えて結婚考えて男を束縛する女とか、ちょっと引くね」

「????」


 ロコの理論が水草さんにはさっぱり理解できないらしく、困惑した表情をする。そしてお昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴る。


「……おっと、授業が始まっちゃうよ。とりあえず戻ろうよ。水草さん、そんなわけで私は別に構わないんだよ。後は、君の気持ち次第だ」


 水草さんにも負けないくらいの勢いでペラペラと恋愛理論を振りかざしていたロコは、最後にそう言うとくるりと背を向けて教室に戻るため歩き出す。結局水草さんの答えを聞けないまま、俺達も教室に戻る。放課後になると、水草さんは俺の方を少しだけ見やって、一人で帰ってしまった。


「……うーん、早計だったかなあ」

「いや、うまくいっていると思うよ。今日水草さんは悩むはずだ。『恋人複数なんておかしい』なんていう常識を、私が否定してしまったからね。実際にそんな例を見てしまえばパラダイムがシフトしやすいんだよ。後は、うまくそれを誘導すればいいのさ」

「誘導?」

「そう。彼女に、『二人目の彼女でもいいから、私も趣味の合う恋人が欲しい! 幸せになりたい!』って思わせるための誘導をするんだ。そしてその方法はとっても簡単さ」


 ロコと一緒に帰りながら作戦会議をし、翌日、早速水草さんを誘導するための作戦に打って出る。その作戦は、ロコが言うように本当に簡単であった。


「あはは、ヒドラは相変わらず面白いなあ」

「ロコこそ本当に気が合ういい彼女だよ」


 朝の教室、昨日の一件を引きずっているようでいつものように話ができない水草さんに見せつけるように、俺達は惚気る。恋人同士の幸せな姿を見せることこそが、彼女を自分もその幸せの輪の中に入りたいと思わせることなのだ。


「……おいお前ら、TPO考えろよ」

「ヒューヒュー」


 必然的に水草さんだけではなく教室の他の人間にも見せつけてしまうので軽くウザがられてしまうという問題も孕んでいるものの、水草さんには効果覿面なようで羨ましそうな表情をしては顔を逸らす、という行為を何度も繰り返している。


「なあなあロコ、たまには『あーん』してくれよ」

「えー、しょうがないなあ。はい、『あーん』」


 昼休憩も以前はロコと一緒に空き教室で食べていたというのに、今日は俺の机にロコが椅子を持ってやってきて、一人ぼっちでご飯を食べている水草さんの隣でランチタイム。俺達もちょっとイチャついているうちにエスカレートしてしまったのか、『あーん』なんて恥ずかしい行為をして後で赤面して悶えるなんていうオチがついてしまったわけだが、十二分に隣の彼女に幸せオーラは伝わっただろう。


「ねーねーヒドラ、帰りにゲーセン寄ろうよ」

「お、いいな。何やる?」

「そりゃ勿論、ゾンビをバーンでしょ」

「いいけどこないだみたいに俺のキャラ撃ちまくって俺だけコンティニューさせるなよ……?」


 更に、それまでは俺と水草さんは朝も昼も楽しそうに会話をしていたが今日になってその対象がロコに戻ったことで彼女との距離が広がってしまっている。一度覚えてしまった、俺という水草さんのグイグイ距離を詰めてくるようなコミュニケーションに呆れることもなく話を聞いてくれる上に彼女の趣味も肯定してくれる存在を忘れることが、諦めることが、それまで孤独が多かった彼女に簡単にできるだろうか、いやできないはずだ。勿論俺の方から彼女に話しかけることもないし、彼女がきちんと答えを出すまでは彼女の方から前のように話しかけてくることもないだろう。


「いやあ、人前でイチャつくのって楽しいね」

「俺はちょっと恥ずかしいけどな……」

「さあ、水草さんが何日持つか楽しみだね」

「お前酷い女だな……」


 かくして彼女とイチャつくだなんて何でもないことで水草さんをじわじわと追い詰めていく非道な俺達。水草さんも途中からは俺達の事なんて忘れよう、気にしないようにしようと思っているのか本で顔を隠して俺達の方を見ないようにしたり、休憩時間に教室から逃げ出したりと頑張っているようだが、学校に来る限り、俺が彼女の隣の席である限り、意識しないなんて無理な話なわけで。一週間後、俺とロコは放課後に水草さんに空き教室へと呼び出される。


「どうしたの、水草さん」

「……私今でもこんなの駄目だおかしい間違ってるって思ってますでもでもそれでも私も幸せになりたいんですお喋りしたいしデートだってしたいんですこのチャンスを逃したら一生私は独りなんじゃないかそんな強迫観念すらあるんですだから蛟さんが本当に私も幸せにできるっていうのなら猫狩さんが私を本当に邪魔だと思っていないなら私もその幸せの中に入れてください!」

「……つまり、彼女にしてくださいってこと?」

「不束者ですがよろしくお願いします!」


 赤面しながら、俺達によって誘導された結論を出す水草さん。そんな水草さんに、これからよろしくねと握手を求めるロコ。こうして、俺は何とか二人目の彼女を作ることに成功したのであった。

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