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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
コミュ障少女の落とし方
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コミュ障少女の身の引き方

「それでですねこの前その猫がコンビニのゴミ箱の中に入ろうとしていたんでそれを眺めていたんですが何故か私が猫を誘導したみたいな感じに受取られたのか店員さんに注意されたんですよ酷いと思いませんかあこれがその時の写真です」

「あははそれは酷いねうわあ可愛いね」

「ですよね酷いですよねそんなわけでささやかな仕返しに昨日その店の前にマタタビ粉を大量にばらまいておいたんです今日の帰りが楽しみです」

「うわあそれは擁護できないよでも興味あるなあ俺も帰りに寄ってみようかな」


 空き教室で水草さんと一緒にお昼ご飯を食べながら雑談に興じる俺達最初はオタクな話ばかりしていた水草さんであったが最近は俺に心を許したのかプライベートなことも割と話すようになってきた彼女と話す時はこうやって人気のいない場所を選んでいるので教室の人間から批判が来ることはないただし彼女がいるのにほっぽって他の女とお弁当を持って教室を出ていくという点については事情を知らない人間からすればゴミクズ野郎だろうし事情を知ったとしてもゴミクズ野郎なのでそこはある程度批判を受け止めるべきだろうこの日も彼女と昼休憩に猫について語り合い放課後には今いる彼女の穴埋めをするために帰りにファストフード店に寄ってハンバーガーを奢ったのだがそこでロコに水草さんの癖がうつっているよと呆れられてようやく俺は今の自分がどれだけ読みづらい状況になっているかについて自覚することができ本来の自分を取り戻したのである。


「……まったく、君はすぐに人に影響されるね。純粋なのはいいことだと思うけどね。そもそも今回の作戦だって、半ば私の言いなりになっているところがないかい? 私はあくまでサポートに回るべきなのに」

「ははは……そうだ、可愛い彼女に頼みがある。彼女のオタク話のペースに今の俺一人でついていくのは極めて困難だから、このラノベを読んで感想だけ欲しい。俺はこっちの二冊を今日中に読むから」

「うんうん、自分にできる限りのことはしよう、彼女を理解しようという気持ちが伝わってきて丸だよ。私なら君の感性をある程度理解しているから君っぽい感想なんてお茶の子さいさいさ」


 こうしてロコと協力しながらオタク道に足を何歩か踏み入れ、水草さんとの距離を少しずつ縮めていったのだが、二週間程で変化が現れた。


「おはよう、水草さん」

「……! あ、ああおおはようございます」

「?」


 朝、ロコと共に教室に馳せ参じた俺は自分の机に座ると、隣の席で本を読んでいた水草さんにいつものように挨拶をしたのだが、いつもならとても大きな声で挨拶する彼女はこちらを向くとしどろもどろに挨拶をしてすぐに顔を逸らし、本で顔を隠してしまう。昼休憩になってもこの前までは彼女の方から早くお喋りをしたいのか、それじゃあ行きましょうとまだ付き合ってもいないのに率先して俺を空き教室まで誘っていたのだが、今日はお弁当を持って意外と俊敏な動きで速攻で教室を飛び出してしまう。空き教室に先に向かったのかと思って俺も遅れて向かうが、空き教室には誰もおらず、トイレにでも向かったのかと思って数分待ってみるがやはりやってこない。別の用事があったのだろうと諦めて教室に戻り、本妻であるロコとお弁当を食べようと思っていたのだが、『どうせ昼休憩は水草さんと空き教室だろう? 私は友達と一緒に学食で食べるよ』というわけでロコにすら逃げられてしまっていたのを思い出した。


「うっす、飯食おうぜ」

「ああ? なんだよてめー、水草さんの次は俺達か? ああ? ホモかよ気色悪いな」

「オー、ホットガイ」

「何なんだよお前らは……それより相談に乗ってくれよ」


 仕方がなくケースケとロゼッタと昼食を採りつつ、今日の件について相談をすることに。水草さんに逃げられてしまった事を話すと、やれやれとケースケが呆れたような目でこちらを見やる。


「そりゃあ、お前の事を意識してるんだろ。よかったな、作戦成功じゃねえか。まあ、話し相手もいない状態の子が二人きりでお弁当を食べながら毎日お喋りしてたら、そりゃあ意識するわな」

「オーイエー、セックス、ア~ンドドラッグ!」

「なるほど。彼女は堕ちかけてるってことか。ただし問題は、俺にはロコという彼氏をほっといて友達と学食でご飯を食べる薄情な彼女がいるということだ」

「薄情なのはお前だろ……まあ、彼女がいると知ってて告白してくるような勇気のある子には見えないし、お前を寝取れる程自分に自信だってないだろうな、かといって友達以上恋人未満の状態を続けていくのは耐えられそうにない……こんなに辛いなら、逃げた方がマシだ……と、こんな感じじゃねえの?」

「恋する乙女の気持ちがわかるケースケちょっとキモイヨ」

「ああキモイな、だがケースケがキモイおかげで状況が把握できた、サンキューな。善は急げだ、逃げてどこかに隠れて飯を食っているであろう水草さんを探してくるよ」

「……」

「グッドラックアンドファック!」


 他人に聞かれたくはない会話なのでこそこそと作戦会議をする。キモイと言われて凹むケースケと、外人っぽいノリなら危険な言葉を使ってもいいと思っている節のあるロゼッタを後目に、再び教室を出て水草さんを探す。友達がいないのにお弁当を持って学食に行くようなタイプではないだろうし、かといって今更便所飯をするとも思えない。だったら屋上だろうかと向かってみるが、屋上には何組かのカップルが生徒に親切な学校がわざわざ用意してくれたベンチで食事を採っていた。そうだった、俺達も屋上は既に他のカップルが蠢いているという理由で空き教室を選んだんだった。


「……他の空き教室か? いや……」


 普段使われていない教室は他にもいくつかあったはずだが、探すのは大変だしあまり時間に余裕があるわけではない。次で決めなければこのチャンスを逃してしまうし、そうなると距離が出来てしまうだろうとケースケのように乙女の気持ちになりきって考えてみる。一人になりたい時は屋上のような場所がいい、けれど屋上にはカップルがいるから一人になれない、カップルから見られない場所なら……?



「ここだ!」

「ひゃあっ!?」


 俺の勘がばっちり働いたようで、ベンチに座っているカップルから見られることのない、大きな空調機の陰で水草さんは少しベソをかきながらお弁当を食べていた。戸惑う彼女に構うことなく、俺は強引に彼女の隣に座る。


「探したよ水草さん」

「……っ、近づかないでください私はどうにかなってしまいそうです」

「どうして俺を避けるのさ」

「私気づいたんですよ自分の気持ちにそうです蛟さんの事を好きになってしまったんです私自分でもちょろいってわかってますからこんな一方的に喋るような自己中心的な女ですから友達もロクに作れずに趣味の話もできずにいたから優しくされたらすぐに意識してしまってでも冷静になって考えたら蛟さんには彼女いるじゃないですか私彼女がいる男の人と何嬉しそうにお喋りなんてしてたんだろうどれだけ自己中なんですかって話ですだから私の事なんてほっといてください辛いだけなんです前みたいに猫狩さんと仲良くお喋りしながらお弁当を食べればいいじゃないですかそれが一番誰も傷つかない道なんですよ」


 感情が高ぶっているのか、立ち上がり今までよりも更に早口で、怒涛の勢いで喋る水草さん。俺の事を好きになってしまった水草さんだが、既に俺には彼女がいることをようやく思い出し、身を引くことを決意する――本当にそれが誰も傷つかない道なんだろうか? 


「……わかった、俺と付き合おうよ、水草さん」

「……え?」


 誰かが無理矢理恋心を封印して、誰も傷つかない道なんてちゃんちゃらおかしい話だ。本当に誰も傷つかない道ってのは、皆が愛し愛される、まさしくハーレムのような道のはずなんだ。俺はその考えが正しいことを証明するために、水草さんに告白するのだった。

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