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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
コミュ障少女の落とし方
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クラスメイトからの評価の下げ方

「おはよう水草さん」

「おはようございます蛟さん昨日貸した本は読んでいただけましたかサクサク読めるタイプの本なので2時間もあれば読破できると思うのですがでも急いで読んでも仕方がないですし休日にゆっくりと読み進めるのもいいかもしれませんね私なんかはせっかちなので買ったその日のうちに読んでしまうタイプなんですけど」


 彼女に借りた本をその日の夜に読破した俺は、翌日の教室で彼女に挨拶をする。無口なかつてのイメージなどどこへやら、朝っぱらから彼女はペラペラとフレンドリー? に大きくて澄んだ声で話しかけてきた。


「ああ、読んだよ。面白かった。特にクラリネット伯爵がいいキャラだったね」

「クラリネット伯爵ですか通ですね大半の人間は主人公のバルトロが好きって言うんですけどクラリネット伯爵はまさに名脇役ですよクラリネット伯爵が好きって人は大抵女の人なんですけど男の人で好きだなんて珍しいですねああそういえば蛟さんは猫狩さんと付き合っているんですねなるほど女の人と付き合うことで女の気持ちがわかるということですか」

「あ、ああ、うん」


 正直言ってよくわからなかったので、インターネットで玄人向けのファンサイトを探し出し、マニアっぽい水草さんが喜びそうな感想を構築するという割とせこいことをしていたのだが、効果は覿面なようで水草さんはとても嬉しそうに作品の解説をし始める。


「……というわけですよまあ百聞は一見にしかずともいいますしこんなこともあろうかと既に続きの数巻は持ってきているんですよかったら土日に読んでください」

「うん、ありがとう」


 朝礼までの時間をほとんど彼女の解説で消費し、彼女から残りの数巻を受け取ってカバンにしまい込む。朝から滅茶苦茶疲れた、物凄い勢いで喋るから内容を理解するだけで一苦労どころか十苦労。へとへとの状態で授業を受けて、三時間目の体育の授業もやる気が出なかったので、友人達を誘ってサボタージュ。


「しかしまあ、水草さんには驚かされたな。あんなキャラだったとは」

「ほんとにネー、何言ってるのかさっぱり聞き取れなかったヨ」

「お前も大概片言だったりアクセント変だったりで何言ってるのかわからないけどな」

「ドイヒー」


 三人仲良く体育館の裏に座って、水草さんについて話し始める。俺に協力してくれるという言葉は偽りではなかったらしく、『高校一年の時も話しかけてくれた時にあんな対応してたからすぐに話しかけられなくなったらしいぜ』とか、『オタク女子のグループから追い出されたみたいだヨ』とか、ロコの推測を裏付けるような情報を集めてきてくれた。


「この調子なら『ああ蛟さんは私の話も効いてくれるし作品に対する理解も深いし素晴らしい人ですでも恋人がいますしあまり仲良くしない方がいいですよね辛いだけですし』って彼女が悩む日も近いんじゃないかなと俺は思ってるんだが」

「あはは、真似がうまいネ」


 俺の声真似にロゼッタがケラケラと笑うが、逆にケースケは煙草に火をつけながら深刻な表情をし始める。


「さあ、どうだかなあ……俺はそう簡単には行かないと思うぜ。いや、友達いない女が友達多い女よりも落としやすいってのは真理だと思うがよ、問題は友達いない女と辛抱強くコミュニケーションを取り続けられるかってことだ。俺には無理だね。お前と同じ似た考えを持って結局諦めた奴もたくさん見てきた。そしてお前が辛抱強くコミュニケーションを取るのを邪魔する奴だっているかもしれねえ」


 煙草を吸いながら深そうな事を言い始めるケースケ。確かに彼の言う通り、『あの子ぼっちだからコロっと落ちそうだ』なんて安易な気持ちで女の子と関わって『うわ、無理だわこの女』と逃げ去っていく男はたくさんいるだろう。ハーレム作りのためには、女の子の様々な欠点を寛容な精神で受け入れる必要があるのだ。


「偉そうなこと言いやがって」

「タバコやめてヨ」

「わかったわかった……タバコと一緒なんだよ、本人だけの問題じゃすまねえんだよ、そこんとこ理解しておかねえと、お前のクラスでの立ち位置危うくなるぜ」


 一本しか吸わなかった煙草を地面に捨てて足で消火し、身体を動かしてくると授業に戻って行くケースケ。チンピラの癖に真面目な事を言いやがって……と残りの授業の時間をロゼッタとお喋りしながら過ごしていたのだが、彼の予想は奇しくも次の休憩時間で当たることになる。



「あ、蛟君。ねえ、ちょっといいかな」

「あ? どったの」


 サボりを終えて教室に戻る途中、同じクラスの、カースト的にはトップクラスの、目立っている女子3人に声をかけられる。『なんだなんだ3人まとめて告白かやったねハーレム完成だ』と思う程俺は馬鹿ではない。けれども、


「水草さんと話すのやめてくれない? 彼女凄くうるさいんだよね、会話内容もなんか気持ち悪いし。今日の朝も彼女の声でアタシ達会話できなかったし」

「私同じ中学だったけど、あの時は彼女無視されても一方的に喋るレベルだったから酷かったよ」

「せめて教室では控えて欲しいな……大体蛟君って猫狩さんと付き合ってるんでしょ? 猫狩さんとはそんなに仲良くないけれど、彼女がいるのに他の女の子に手を出すのは同じ女としてどうかと思うな」

「あ、ああ……考えておくよ」


 水草さんとコミュニケーションを取ることでこんな事を言われると予想できなかったくらいには馬鹿だった。確かに彼女の声はかなり大きい。俺は彼女の話を理解しようと集中して聞いているから声が大きいのはむしろ大歓迎だけど、周りの人からすればたまったものじゃないだろう。本人だけの問題じゃすまない、とはこういうことだったのだ。そして彼女に不満を持っていたのは、他にもいたようで、


「あまり水草さんと関わらない方がいいと思うよ。高校一年の時は、オタク仲間ってことでそれなりに交流あったんだけどさ。彼女のペースのせいでオタクグループが崩壊寸前だったよ」

「……あいつのおかげでオタクに対する偏見が更に酷くなる」


 カースト的には下の方のオタク男子共にまでそんな事を言われてしまう。教室の隅っこでぼそぼそと会話しているような連中が、彼女がいてチンピラみたいな奴とつるんでいる俺に話しかけることなんてほとんどないというのに、それだけ彼等も水草さんに不満を持っていたというわけだ。水草さんに同情すると共に、このままじゃ俺の教室内での地位も、ついでにロコの地位も大変なものになるな……とケースケの言葉を反芻させる。その日のお昼休憩、いつものようにロコと作戦会議をしている際にその件を伝えると、彼女はやはりそうなったか、と言わんばかりにやれやれと肩を竦めはじめた。


「まあ、予想できていたよ。協調性のないぼっちな人ってのは、周りからしたら迷惑なんだよ。悲しいかもしれないけどね、これが現実だよ。いじめられっ子と仲良くすれば、その人もいじめのターゲットになるんだよ」

「何だかなあ……しかし困ったな、どうするべきか」


 水草さんと仲良くなってハーレムの一員にしたいけれど、クラスメイトから嫌われたくもない。やっぱり彼女を更生? させた方がいいんじゃないかと俺の提案を、ロコはハンと笑って一蹴する。


「甘い、甘いよヒドラ。東洋菓くらい甘い。浮気や二股が発覚した芸能人を見てみろ、フルボッコだろう? 君は更にその上を行くんだよ? 『ハーレムは女の子達が納得してるんだから二股や浮気よりも世間に認められるはずだ』なんて芋背最中くらい甘いよ。人間ってのはね、基本的に珍しいものは排除するんだよ。理解できないと否定するんだよ。この作戦が成功してハーレムが出来たとしてもね、『こいつら頭おかしい』『洗脳でもやってんじゃないの』って世間に冷ややかな目で見られるんだよ。でも君はそれでもいいはずだろう? 私達を、彼女達を愛することができて、彼女達から愛されればそれでいいはずだろう?」

「……俺はそれでもいいけどさ、お前は」

「私の身を案じているんだね、嬉しいよ。そんな君だからこそ私は協力しているんだ。私を『周りの人に嫌われたくないからハーレム作りなんてやめて』なんて言うような女だと思っていたのだとしたら、過小評価もいいところだ。私はそれなりに覚悟ができているつもりだよ、君は私以上に覚悟を持たないといけないけれどね」


 私としては、世界中を敵に回しても愛に生きる人の方が魅力的だと思うよ、主観的な考えだけどね……なんて言いながら俺を奮い立たせるロコ。彼女の好意と覚悟を無碍にするわけにもいかないか、と俺は気にせずに水草さんと交友を深めることを決意するのだった。


東洋菓……桐葉菓。もみじ饅頭で有名なやまだ屋が売っている隠れた名菓。

芋背最中……妹背最中。地元で売っている名菓。

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