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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
コミュ障少女の落とし方
3/44

隣の女子との話し方

「……というわけで、隣の席の水草さんを狙ってみようと思うんだけど」

「誰?」


 ターゲットを決めたはいいが隣に座っているにも関わらず、俺は彼女のことをいつも一人、ということくらいしか知らない。なので同じ女であるロコの方がなんぼか詳しいだろうと思って帰り道に報告したのだが、ロコはそれ以前に俺の隣の少女を認識すらしていないという事実が発覚する。


「ええ……? ほら、俺の隣の……お前が俺の席まで来て喋ってる時に後ろにいる……」

「知らないなあ……君しか見てないから」

「照れるぜ」

「……」

「……」

「なんか、ごめん」


 放課後の帰宅中で二人きりということもあり、他人から見れば気色悪いであろう惚気をぶちかます俺達。ぶちかましたはいいが、お互いすぐに客観的になってしまいしばらく無言になる。恋人同士だからって毎回饒舌に会話ができるわけではないということだ。


「とりあえず、隣の席なら話しかけてみればいいんじゃないかな。私の方でも別のクラスの知り合いに聞いてみるなり、調べては見るから」


 完全に手さぐり状態だが、誰も彼女の素性を知らないならばぼっちな可能性は高い。話しかけなければ何も進まないのだから彼女の提案は尤も至極なのだが、言うは易く行うは難し。


「問題は、俺は会話スキルが高くないということだ」

「そう? 私は君と話してて楽しいけど」

「いや、昔からお前とばかり話してるからさ、全体的にお前以外との女の子との会話スキルが高くないと思うんだよね。ましてや向こうは会話慣れしていないであろう女の子だろう? コミュ障とコミュ障の押し問答にならないか心配だよ」

「その言い方だと、まるで私はズレているから、私と会話していてもコミュニケーション能力を養えないみたいな感じに受取れてしまうのだが……そんなに私はズレているか?」

「……」

「……」


 ズレているか? なんて言われたらズレてないよ、なんてフォローをするのが彼氏としての正しい行動なのだろうけれど、彼氏のハーレム作りを手伝うなんて言い出すし、恋人がいるのに3万円で売春しようか悩むし、正直言ってズレているんじゃないか? と真剣に思ってしまい無言になってしまう。結局少しショックを受けた表情と無言で家の前まで歩き、それじゃあまた明日と解散してしまった。コミュニケーションというものはかくも難しい。


「ふむふむ……女の子は話を聞いてもらいたがるから、話す、よりも聞くことが大事か……」


 その日の夜、インターネットで異性との会話の仕方を勉強する俺。既にいる恋人を楽しませるためには特には自己啓発をしていなかったのに、これからハーレムの一員として加えようという人間を楽しませるためには自己啓発をするなんてのは、矛盾しているような気もしてきた。彼女の言う通り、恋人を複数作っても、結局は誰かを蔑ろにするような結末になってしまうのかもしれない。それを認めるのが嫌だったから、このテクニックを明日からロコにも使ってみよう、なんて罪滅ぼしのような事を決意するのだった。


「おはようロコ」

「おはよう」


 翌日の朝。早速昨日学んだことを活かそうとロコと一緒に学校へ向かう際に聞きに徹しようと考えていたのだが、いつまで経ってもロコは何も喋らない。本当にこの二人は恋人同士なのか? と疑問を持たれそうなくらい会話をしないまま半分まで歩いたところで、気まずそうにロコが口を開く。


「な、なんか喋ってくれないかな」

「いやぁ……女の子は大抵お喋り好きだから、聞きに徹することが大事だって」

「いや、確かにそうかもしれないけどさぁ……いつも君の方から話題を提供してたじゃないか、急に態度を変えた挙句、君の方から話すと思っていて、『あれ? ひょっとして機嫌悪い?』なんて彼女を困らせたら駄目だよ。今の彼女と、架空のお喋り好きな女性、どっちを君は大切にするつもりだい」

「ごめんなさい」


 マニュアル通りに事が進むなんて有り得ないわけで、初っ端から出鼻をくじかれてしまう。そして今更だけど、水草さんがお喋り好きな女の子には思えない。俺が昨日必死で習得した、聞きに徹するスキルが今後役立つことがあるのだろうかとげんなりしながら、学校に向かい教室へ。まだ水草さんは来ていないようだ。しばらくロコと二人でお喋りしていると、開いている教室の扉からその当人がやってくる。


「……」


 髪型だけならショートヘアのロコと非常によく似ているというか、ボーイッシュな感じのイメージがする水草さんだが、中身は恐らく全然似ていないだろう。ロコは中身が男みたいというわけでも、男よりも運動ができるというわけでも、ましてやスタイルが女らしくないというわけでもないけれど、割と明るく話す方だし、話し方もちょっとニヒルというか、サブカルっぽいというか、ボーイッシュ系だよと紹介すれば大抵の人が納得してくれそうな感じだ。


「……」


 無言で教室に入ってきて、俺の隣の席にすっと座ってぼーっとし始める水草さん。スタイルは、ちょっと貧相な方だろうか。そして無口。『無口で気弱でスタイルがあんまりよくなく、男の子に見られることすらある』なんて色んな漫画やアニメに出てくるコミュ障系ヒロインのイメージがまんま当てはまってしまう、現時点ではそんな感じの少女だった。


「おはよう、水草さん」

「……? え、あ……はい」


 とりあえず話しかけてみないことには始まらない、俺は恋人生活で鍛えた爽やかスマイルを彼女に向けて元気よく挨拶してみるが、彼女はかなり困惑した様子で、ぼそぼそと、しどろもどろな返答を寄越すと、再び前を向いてぼーっとし始めた。別に仲が良いわけでもないどころか今まで会話すらしたことのない隣の男子が突然挨拶してきたら確かに困惑してしまう、今のは俺もまずかったか。この状況で向こうの方から俺へ話しかけてお喋りをしてくるなんて到底思えないので、こちらから強引に話題を提供して会話を試みるべきなのだろうけど、何を喋ればいいのかさっぱりわからない。無から有へと切り開くのがこんなに大変だとは思わなかったと苦悩しているうちに朝のホームルームが始まってしまい、結局その後も何もできずにあっという間にお昼休憩となってしまった。


「ああ……駄目だ……俺ってコミュ障だったんだ……」

「自分を卑下しすぎだよ、接点がない人と会話するのは難しいんだ、仕方ないさ」

「接点、かあ……そういえば本を読んでいることが多いね、そっち方面からアプローチをかけてみようかな」

「うん、それはいい考えだ……が。相手の趣味に介入する時は気を付けなければいけないよ、相手の興味を引こうと思ってロクに知識もないのに介入したら逆効果になることも多いからね」

「ああ、わかってるさ。まあ、見てなって」


 お昼休憩に空き教室で作戦会議をした後、教室へ。自分の席に座り、隣の席で小さ目のお弁当を平らげて、今まさに読書タイムに入ろうとしている水草さんを見やる。本自体は買った時に本屋さんがつけているような茶色のカバーに包まれているので表紙が見えないけれど、ご丁寧にマジックでカバーの上からタイトルを書いているのでそれだけは見て取れる。『今日から覇王』と書いているけれど、帝王学か何かの本だろうか? それとも項羽や孫策のことかもしれない、最近の女の子は歴史が好きだっていうし。


「あれ? 水草さん、その本……」

「へ?」

「いや、そのタイトル、こないだ本屋で見かけてさ。何だか面白そうだったから読んでみようかなあ、なんて考えてたとこなんだよ。どう? 面白い?」


 彼女の読んでいる本に興味を持っているけれど詳しくは知らない、という体で会話を試みる。これなら知識が無くても何らおかしくはないし、相手だって自分が読んでいる本を他人に勧めることができるのだから上機嫌になってくれるはずだ。彼女が拙い喋りで、それでも懸命に作品を紹介する、そして段々会話も弾んで来る……そんな現実的な展開を想像していたのだが、現実と現実的な、は違うもので。


「はいとても面白いですよこの作品は今14巻まで出ているんですけどね当然第一作から読むのが王道なんですけど私個人の意見としては時系列的につまりは3巻を最初に読んでその次に8巻そして1巻から読むのがいいんじゃないかなと思いますそれとスピンオフ作品も出ているんですけど正直言って質の悪い二次創作のようなものなのでそれは読む必要がないと思いますよ作者は一緒ですけど明らかに文体とかが違いますし多分実際には別の人が書いているんでしょうねあれは罠です罠他にもドラマCDとか出ていますしそのうちアニメ化されるんじゃないかと思ってますけどあそうだよければ明日何巻かお持ちしましょうか」

「!?」


 俺の、そしてクラスメイトの予想を遥かに超えたキレイで大きな声と、ノンストップで駆け巡る早口ながら滑舌もばっちり、アナウンサーでもやった方がいいんじゃないかと思うくらいの饒舌っぷりに、面食らうしかないのだった。

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