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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
お高い女の落とし方
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幼馴染の苦悩の癒し方

「いやあ、あのロコが焦って弁当を作るなんてな。あいつ、どこかで『全てを操ってるのはこの私だ』って調子に乗っていた感があるからな。それでいざ女の子が増えると焦って弁当作ったりするんだからな、傑作だな」

「仮にも最初から付き従ってくれる恋人の頑張りを傑作だなんて、ひでー奴」

「策士策に溺れるってやつダネ」


 今まで調子に乗っていたロコの代わりに俺が調子に乗り出したらしく、ポテトを口にくわえてケースケのようにタバコをふかすポーズ。惚気話を友人達に散々聞かせた後、この素敵な現象に名前を付けるべく悩み、そして答えを見つけ出す。


「……女の子達が他の女の子に負けないように切磋琢磨して成長して行く……ハーレムインフレーションスパイラル、略してHISだ。英語のHIS、つまり『彼の』女というダブルミーニングもあってだな……」

「うるせえ黙れ。つうか本来の趣旨からずれてねえか? 皆が納得して和気藹々するようなハーレムを作りたかったんじゃないのか?」

「ぐっ……言われてみれば……でも、切磋琢磨し合うことは肯定されるべきだ、そうだろう?」


 俺が作りたいのは皆仲良しなハーレムであって、大奥のようなギスギスしたものではない。男女の友情が成り立たないと言われるのと同じく、競争と平和も両立しないのだろうかと頭を抱える。


「そのうち水面下で女の戦いが始まってしまうのか……ちょっと見てみたいかも……あああああ! 俺は、俺はなんて事を! 俺も、俺も所詮はただの男に過ぎないって言うのか!? 平和を願う俺はまやかしだって言うのか!?」

「そもそもゴッドイーターさんと水草さんは、ロコちゃん程執着してない気がするんだケド」


 ロゼッタの言う通り、元々恋人だったロコとは違って、水草さんは割と友達感覚だし、神狩さんも暇潰しにハーレムの一員にでもなってみるか的な思想を感じる。だからこそ平和でいられるのかもしれないが、男としては全員ロコみたいに純粋に俺を好きでいて欲しい、というのはわがままだろうか、俺の努力不足だろうか。


「他人に嫉妬したり焦ったりしないけど向上心があってなおかつ俺にゾッコンな女の子が理想なんだけど」

「やれやれ……SNEG?」

「そもそもぼっちな女の子はちょろいからゾッコンになってくれるって作戦じゃなかったか……?」


 ハーレムの一員としての理想像を挙げ、ロゼッタにまで呆れられてしまう。そしてケースケの言う通り、最初に水草さんを狙ったのはそんな邪な気持ちがあったからだ。しかし現実はどうだ、告白されるまでは確かに水草さんは俺にゾッコンだったかもしれないし、恋人二号になってからもすぐにお弁当を作ってくれたりしていたが、ロコや神狩さんという俺以外の知り合いという存在が、彼女を焦らせるどころか満足させてしまった。勿論今でも俺の事が好きなのだろうし、二人目の恋人を作れた時点で出来すぎているくらい大成功なのだろうけど。神狩さんは向上心の塊のような女の子だが、俺が好きというよりは『自分の世界に引きこもっていた私に色々気づかせてくれたからお礼も兼ねて恋人やってあげるわ』的な感じだ。そしてロコは現状嫉妬して焦っている。三者三様。


「……ラノベだったら、空回りしてるヒロインみたいで可愛いんだけどな。他人事じゃないんだからどうにかしないとな。なんだかんだ言って、一番大事なのはロコだし。そりゃ理想は全員同じくらい愛してるだけどさ、まあ現実だからな。んじゃな、行ってくる」


 ハンバーガーとポテトを食べ終えて家に戻る。今日は平日なので水草さんも神狩も自分の家に帰っているが、隣に住んでいるロコだけはまるで自分の家のように俺の部屋でベッドに転がって漫画を読んでいた。


「おかえり」

「ただいま。……ロコ。人の漫画のカバーを外すのはやめなさい」

「はいはい」

「はいは一回、って俺はお母さんかっつうの」

「滑ってるよ」

「……」


 まるで倦怠期のカップルのようなやり取り。俺はロコに飽きたからハーレムを作ろうとした訳ではないというのに。ロコの頭の近くに腰かけ、不機嫌そうに漫画を読んでいるロコの頭を何となく撫でてやる。


「……何さ、いきなり」

「ロコ。お前嫉妬してるだろ、焦ってるだろ」


 そのまま直球勝負で指摘してやると、顔をあげたロコがムッとした表情になり、そのままキッと睨み付けてくる。


「はあ? 勘助も大概にしなよ。何を根拠にそんな事を」

「最近不機嫌そうだし、唐突に弁当は作り出すし。図星だろ?」

「……例え事実だとしてもね、指摘されたくないことを言うのは精神的DVだよDV」

「んなこと言ったってお前だけギスギスしてたら周りにも悪影響だろがよ。時間と共にお前が完璧ヒロインになって解決するなら彼氏として黙って見守るけどさ、どうもそうは思えなくてさ」


 心配そうにロコの顔を見つめると、ロコは少し顔を赤らめた後、漫画を投げ捨てて匍匐前進。そのまま俺の膝を枕にし、自嘲気味に笑って大きくため息をついた。


「自信あったんだよ。ヒドラの事一番知ってるのは私だし。ぼっちな女の子なんてロクでもないのばっかりだから、負けないだろうって。私が本妻で、他の女の子がヒドラに心酔してるみたいな、そういう未来になると思ってたよ。嫌な女だろう? まあ、結果としては逆だったわけだけど。水草さんは元気で行動力溢れているし、神狩さんは美人だし。私には、何も無かったね。幼馴染ってだけだったね、甘えてたね」

「ロコ……」


 ロコの脇を掴む。ひゃんという可愛らしい声も気にせずにひょいと持ち上げて、無理やり俺の隣に座らせる。そして優しく彼女を抱きしめる。


「な、何さ、唐突に。とりあえず抱きしめれば機嫌直してくれるだろうだなんて、私はそこまで馬鹿な女じゃないけど」

「ロコ……お前が辛いなら、俺は今すぐにでもハーレムを諦める。水草さんと神狩さんには別れてもらう」

「……何言ってるのさ。ヒドラの夢なんだろう? あの時私に語った熱意を認めたから、私は協力することにしたのに。それともハッタリかい? それほどまでに私の事を愛しているって伝えて、私に納得して貰いたいのかい?」

「違う」


 そのままハーレムを諦めるという覚悟を伝える。ハッタリでも何でもない、最初に俺を好きになってくれたロコを不幸にしてまで、俺は自分の夢を追い求めるつもりはなかった。


「俺が目指すハーレムは、皆が幸せで、納得してくれる、そんな理想郷なんだよ。女の子達が俺を取り合ったり、嫉妬や焦りで必死になる女の子が出たり、そんなギスギスしたハーレムなら、無い方がましだ。今ならまだやり直せる。幸いにも、水草さんも神狩さんも、俺にゾッコンって訳じゃないからな。ちゃんと謝って説明すれば、納得して別れてくれるよ」

「……」

「うおっ!?」


 俺の決断を聞いたロコが、もう一度大きくため息をついて、俺を抱きしめ返したかと思うと、そのまま勢いをつけて押し倒してくる。二人横に並んで抱き合って寝る形に。


「添い寝」

「は?」

「添い寝で、満足するよ。私、ちょろい女だから。ヒドラが私に飽きてハーレム作ろうとした訳じゃないってちゃんと理解できたし。こういう事できるの、幼馴染の特権だし」

「……そっか」


 ロコがそう言うなら、それでいいのだろうと俺は納得する。制服がしわくちゃになるだとか夜じゃないし別に眠くないとかそんな事はゴミ箱に捨てて、俺は彼女の唇をそっと奪うと、おやすみとだけ言って目を閉じた。

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