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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
お高い女の落とし方
18/44

お高い女の畳みかけ方

「あら、おはよう」

「おはよう神狩さん。今日は降水確率50%って天気予報でやってたけど、全然雨が降る気配がないね」

「あれは所詮統計ですもの。でも、それなりにじめじめしてる気がするわ。午後には降るんじゃない?」

「午前に降って欲しいなあ、体育の授業あるし」

「男の癖に軟弱ね……」


 デートの効果はばっちりあったようで、翌日正門の前で彼女と鉢合わせした際、彼女の方から先に挨拶をしてくれた。その後残念ながら午前に雨は降らずに体育の授業に駆り出される。今日の授業はサッカー、降らなかったものは仕方がない、カッコイイところを彼女に見せてやろう。


「サッカーなんてたいぎいね、一緒にサボろう」

「悪いなロコ、今日はサッカーで活躍して彼女にアピールするから応援してくれ」

「え? やだよ、面倒くさい。水草さん一緒にサボろう」

「サボりですかなんだかんだ言って今まで一度も体育の授業をサボったことはないんですよねネトゲのイベントのために学校をサボったことは何度かありますけどあこれオフレコですよ何事も経験するのが一番ですねよーしサボりますよ」


 皆まとめて好感度をあげてやろうとやる気を出しながらロコ達に応援を頼むが、彼女達はなんと彼氏のサッカーよりもサボタージュを選んでしまった。頻繁にサボっているだけに彼女達を非難できないのが悲しい。


「よし、というわけでケースケ、ロゼッタ。サポートよろしく」

「しゃーねーな……パス優先的に回してやるよ」

「メンドクセー」


 退屈そうな女子達が見守る中、男子のサッカーが始まる。いつもはサボるか適当にディフェンスでウロウロしていたが、今回は活躍する必要があるので自らオフェンスを名乗り出て、ミッドフィルダーとなった二人のサポートを受けながらゴールを狙う。息の合った絶妙なトライアングルを止められるのは、敵チームのオフェンスとミッドフィルダーとディフェンスとゴールキーパーしかいない。結論から言うと全然活躍できませんでした。


「……く、くくくっ、あははははっ」


 こんな情けない姿を見せてしまって千年の恋も冷めるだろうなと神狩さんの方を見ると、俺の醜態を見てケラケラと笑っているではありませんか。塞翁が馬とはいえ虚しいものがある。


「……やっぱやめとけよ、男が失態を晒すのをゲラゲラ笑ってる女だぞ?」

「でもロコちゃんもこないだヒドラが野球でフライを落とした時腹を抱えて笑ってたヨ」

「あの後散々『CCヒドラ』とか『クソライト』とか煽られたんだよなぁ……水草さんもロコに影響されるだろうし、このまま行けば俺は三人の女の子に失敗を笑われるのか」

「マゾだな」


 昔の出来事を思い出しアンニュイになっているうち、男女交代で女子がコートの中に入っていく。ロコも水草さんもいないし、神狩さんの応援でもするかと思っていたところへ、ロコが体育教師に引きずられながらやってきた。


「いーやーだー! サッカーなんていーやーだー! 水草さんめ教師見た途端無言で逃げ出しやがって覚えてろよー!」


 ぶつぶつと文句を垂れながら仕方なくコートに入るロコ。どちらも頑張れーなんて月並みな事を思いながら、クラス対抗女子サッカーがスタートした。やるからには活躍したいのか、オフェンスに名乗りを挙げるロコ。ヤケになった彼女の快進撃を止められるのは、敵チームのオフェンスとミッドフィルダーとディフェンスとゴールキーパーとスタミナ切れよる自滅しかいない。すぐにバテてしまい、無理矢理ベンチの女子にバトンタッチして俺の横にやってくる。


「あー疲れた。皆、私の活躍見てくれた?」

「お前がボールを触ってるシーンを見てないんだけど」

「なんか見当違いのとこにいてヘイパスヘイパス騒いでるだけだった印象だな」

「とてもコッケーだったヨー。コッケーコッケーウコッケー、ケラケラ」

「お前ら全員死ね!」


 立ち上がって砂を蹴り、俺のジャージを砂まみれにして再びサボタージュするのか逃げていくロコ。どうして俺はあんな女と仲良く付き合っているのだろうかと疑問に思いながら、神狩さんの応援に専念する。


「……」


 彼女は運動もできるし、ロコみたいな失態は犯さないだろうと思っていたのだがそういえば彼女は性格が悪くてクラスメイトから好かれていなかった。当然チームの女子と連携なんて取れるはずもなく、相手のボールを一人で奪って一人でゴールに突っ込む個人プレー。運動ができるからそれでも十分活躍はできているのだが、なんだかなあと思う体育の授業であった。


「やあ神狩さん、流石の活躍だったね。……ロゼッタ」

「へーい」

「? どうしたロゼッタ、俺をどこに連れていくつもりだ」


 試合が終わり、授業が終わるまで自由時間となったところで、俺は神狩さんとの接触を試みる。その際に邪魔にならないように予めケースケを退避させておく名采配。褒められて悪い気になる女の子はいない、俺はとにかく彼女のサッカーでの活躍ぶりを褒め称えた。


「ふふ、お世辞がうまいわね。……でも、所詮は女にしては運動ができるってだけよ。肉体的な面で女が男に劣っているという事実を、しっかりと受け止めなければいけないし、だからこそ努力しなければいけないのよ。頭の良さだって、別に男より優れているわけではないしね。優れている面があるとすれば、Y遺伝子がないことかしら。あれがあると暴力的になるらしいわよ、だから男は犯罪を起こしやすいの」

「努力家だねえ、神狩さんは。でも、もう少しクラスメイトと仲良くした方がいいんじゃない? さっきのサッカーも、正直独りよがりだったよ」


 上げて落とすというわけではないが、ただ褒めるだけではなく、こうやって相手を心配している、想っているということをアピールしてみる。単に俺がバカで、思ったことをついつい口に出してしまうというのもあるが。俺のおせっかいにくすりと笑うと、近くにあったサッカーボールを拾ってリフティングをし始めた。


「協力しなければ成し遂げられないなら、協力するわよ。でもそうでないなら、私は一人で頑張りたいの。サッカーだって、独りよがりでも活躍できたでしょう。私が頑張ったからよ、女子が真面目にやってないってのもあるけれど。それとも何? サッカーやる気のない女共に合わせて、だらだらとサッカーすればよかったの? そんな仲良しごっこ、私は嫌よ」


 それだけ言うと、リフティングに集中する彼女。数回やっては地面に落とし、それを拾い上げての繰り返し。その辺の女子よりは確かに上手なのだろうけど、凄いかと言われるとそうでもない。10回の壁を突破できないようで、苛立った彼女はボールを思いきりトーキックし、あらぬ方向へぶっ飛ばした。


「ふう、悔しいわね……まあ、私は撫子を目指しているわけじゃないけれど」

「……まあ、スポーツへのモチベーションの差はともかく、せめて『性格悪い女子』って評判は何とかした方がいいと思うけどなぁ」

「ご忠告どうも。でも、そもそも貴方、私が性格悪くない女子で友達も普通にいたらアプローチかけてこなかったんじゃないの?」

「……」


 真理をつかれてしまい、目を逸らす俺。そうでした、俺は孤立している女の子を狙う屑野郎でした。そんな俺の情けない姿を見て、ニヤニヤと性格の悪そうな笑みを浮かべる彼女。


「ふふふ、いいのよ。やっぱり時代はベンチャーよ。隙間産業よ。恋のライバルは少ない方がいいし、チョロインの方がいいに決まってるわ。馴れ合うのは好きじゃないけど、求められることは案外嫌いじゃないって気づいたしね。……でもそうね、貴方の言う事も一理あるわね。たまには女の子とも交友を深めましょう。というわけで、今週末デートに行きましょう、あの二人も一緒にね」


 唐突にデートのお誘いをかけると、素敵なプランを楽しみにしているわと言い残し、チャイムの音と共に去っていく。週末は騒がしくなりそうだ。

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