二人の彼女とのデートの仕方
「……今週末、デートしよう」
気が付けば俺も夢中になって、『こんな男いるわけないだろ』とか、『この主人公ちょっとウザくね?』とか、ゲームにケチをつけてその度に『ゲームのキャラに何言ってるんだい君は』とか、『乙女ゲーの主人公はこうでなければいけないんです素人が口を出さないでください』と恋人達に呆れられてしまう、そんな乙女ゲームのスタッフロールの途中、呆れられてしまった汚名を返上だと二人にデートのお誘いをかける。
「へえ、デートか。いいんじゃないかな」
「デートですか私は初めてなんでドキドキです」
「私も誘われたのは初めてだけどね。何で彼女の私が毎回デートしようって誘わないといけないんだい、これじゃあまるで私が必死みたいじゃないか。で、プランは?」
ロコにプランを聞かれ、土曜日はロコと一緒に映画を見た後ゲームセンターで遊び、日曜日は水草さんとオタク系のお店をぶらぶらして執事喫茶に行こうというプランを披露する。週末は二日ある、一日一人なら公平だろう。
「執事喫茶いいですねいいですね私も行って見たかったんですけどやっぱり一人じゃ恥ずかしいんで今まで行けなかったんですよ流石です蛟さんわかっていらっしゃいます」
友達と遊びに行くという経験の乏しい水草さんは俺のプランに目をキラキラさせて頷くが、ロコはどうにも不満そうだ。
「……甘い、甘いよヒドラ。甘い上に単調だ。そう、てんぷらもみじのようにね」
「何で猫狩さんはいつも変な例えをするんですか?」
「さぁ……? 本人はギャグのつもりなんだろう、生暖かい目で見守ってあげようよ」
「人の話を聞け!」
俺のプランに不満があるからなのか、ギャグセンスを否定されたからなのか、いつもよりも感情的になったロコが威嚇した猫のような睨みをきかせてくる。
「いいかいヒドラ……これは、ただの二股かけてる人のデートプランだ!」
「……!」
「たしかにそうですねそれは盲点でした」
ロコの発言にハッとなる。確かにそうだ、これではまるで二股かけてるクズ男が、ばれないように個別にデートをしているみたいじゃないか。俺は決して二股をかけてるわけではない、皆が納得してくれるようなハーレムを作っているんだ。だからデートも個別ではダメなのだ。
「お前の言うことも一理あるな。つまり、三人で一緒に遊びに行こうってことか」
「惜しい、広島県。友達以上恋人未満なハーレムの女達と皆で遊びに行ってキャッキャウフフなんてものは質の悪いラノベだけで十分。ハーレムを形成する男ってのは、時間を常に女の子のために費やすべきだ。というわけで、土曜日は私とデートした後水草さんとデートして、日曜日は三人で遊びに行くんだ。公平かつ女の子が十分に愛情を受けられる、これくらいやってもらわないとね」
「……わかった、男を見せようじゃないか。日曜日は三人で遊園地に行こう」
「遊園地ですか修学旅行で行った時以来ですね世の中には一人で遊園地に行く剛の者がいるみたいですけど女の子二人と一緒に行くのもある意味剛の者なのかもしれませんね」
こうして土曜日は個別に二人とデートして、日曜日は遊園地で皆で遊ぶというスケジュールに。二日で三回デートするだけと言えばそこまで難しいことではないかもしれないが、デートというものは気を遣うし、異なる性格の女の子達を同時に相手にするのだ、簡単なことではないだろう。それを乗り越えてこそ、真のハーレムが見えてくるというわけだ。
「おはようヒドラ。さあ、映画館に行って来るんだ」
「……おはよう。まだ早いぞ、しかも行って来るんだって俺だけかよ」
「デートの待ち合わせは男が早く行って女が遅く行って、男がそわそわしながら待つけど約束の時間になっても来なくて、『すっぽかされた……?』みたいな不安を感じたところに女の子がやってきて、『ごめーん、待ったー?』『いや、今来たとこだよ』ってのが理想だね」
「一緒に行けるという幼馴染の利点をかなぐり捨ててまでそんな茶番をやる必要があるのか……?」
そして土曜日の朝。滅茶苦茶な理論で予定よりも早くロコに目覚めさせられ、早めに映画館に向かって遅めにやってくる彼女を待つというどこか悲しいデートの幕開け。三十分も早く映画館に着き、言われた通りそわそわ待つこと一時間、おめかししたロコがひょいと俺の前に姿を現した。
「ごめーん、今日のデート楽しみだったから、服を選ぶのに時間かかっちゃった。待ったよね?」
「いや、今来たとこだよ」
「え……? 約束の時間より三十分も過ぎてるのに……? 私が遅くきたから結果オーライだけど、デートに遅刻するのはどうかと思うな」
「もう茶番はいいだろ……」
たまに訳わかんなくなるなこの彼女は……と少々げんなりしながら映画館の中に。事前に見る映画を決めるなんて事はせず、リストの中から直感で選ぶという若さ故の行動力をデートでも表現していく。
「……これだ! ハーレムラブコメの実写版! これを見るしかない!」
「まあ、今の俺達に一番関係ありそうだけど……凄まじいネタ臭だな……」
俺達の今後を考えるにあたっての参考書にはなりそうだと、普段の俺達ならばまず見なかったであろうそんなゲテモノをチョイスし、意気揚々とシアターの中へ。そして二時間後、俺達は喫茶店で虚無にまみれた表情をしていた。
「……私達も、周りからはああいう風に見られるのかな……」
「いや、あそこまで極端なことしないだろう俺達は……そもそも髪の色が駄目なんだよ。実写でああいう髪の色は流石に不自然すぎてきついわ」
「あれは反面教師として君の心に刻んでおくことだね」
「お前が朝やったやりとりも似たようなもんだと思うけどなぁ……ちょっと周りの人引いてたような」
「さあ、口直しにゲーセンだ!」
客観的にハーレムのような何かを見てしまい軽く凹みつつも、恋人とのデートを満喫する。ゲームセンターでしばらく遊び、『たまに学校帰りに寄ってるからデートって感じがしないね。次はもっとデートっぽいことを考えておくれよ』と言い残して帰宅するロコを見送った後、そのまま水草さんが待つオタク系ショップへ。
「ごめんごめん、待った?」
「いえ今来たところですというのは嘘です本当は楽しみで一時間くらい前から来た上に一人でショップ満喫してました何のためのデートかって話ですよねすみません」
「いやその気持ちはわかるよ。俺も遅刻するロコを待つ間に一人で映画見てやろうかななんて思ってたから」
「あははそれは駄目ですよそれじゃあ早速中に入りましょうこういうお店って女の子が一人で入るのは抵抗があるんですよねだから蛟さんがいてくれると安心して満喫できそうです」
「さっき満喫してましたって言ってなかったっけ……?」
お店の中で水草さんオススメの漫画やらゲームやらの解説を受ける俺。彼女は普段から何の抵抗もなくこういうお店に入っていて満喫しているようだが、今日は俺という付き添いのおかげかいつもよりテンションが高めだ。
「いやあついついたくさん買ってしまいました蛟さんのせいですよさあそれじゃあいよいよメーンイベントですね執事喫茶行きましょう」
「わかりましたよお嬢様」
「あはは何言ってるんですか」
オタクってやつは一体どこからそんな資金が湧いてくるのか疑問に思いながら、彼女の買ったオタッキーなグッズの袋を持ち、執事気分で執事喫茶へ。メイド喫茶はメイド服が珍しいから新鮮味があるけれど、執事服は基本普通のスーツだからどうにも新鮮味がない。
「はーやっぱり執事っていいですねカッコいいですねあでも大丈夫ですよ蛟さんも凄くカッコいいと思いますよそうだ今度執事服着てみませんか実は福袋に入っていた一着があるんです」
「お、おう……」
興奮しながら人にコスプレをさせようとする水草さんに温度差を感じながらも、その差を時間をかけて埋めることができるよう努める意識を持つのだった。




