二人の彼女との付き合い方
彼女が二人いるということは、二倍愛されるということであり、二倍愛さなければならないということである。割と簡単に二人目の彼女を作ることには成功したが、問題はどう彼女達と向き合っていくかだ。
「おはようヒドラ。さあ、着替えた着替えた」
「おはようロコ。……いや、何普通に朝から人の部屋に来てんの」
「冷静に考えて幼馴染なのに朝起こすイベントをやっていなかったなあと」
「そういうのってギャルゲー脳って言うんじゃね? ……ああ、彼女が増えたから焦ってるんだね」
「……煽りの技術を鍛えるくらいなら女の子を喜ばせる技術を覚えるんだね」
朝っぱらから人の部屋に無断で上がり込み、着替えを促すと部屋を出ていくロコ。朝起きて学校に行くまでの間は、ロコの独壇場だ。制服に着替えて顔を洗いにリビングに降りると、ロコが朝食を啄みながら俺の家族と談笑していた。
「ごめんなさいねー、うちの息子がいつも馬鹿で」
「いえいえ、馬鹿な子程可愛いって言いますから」
「ははは、ロコちゃんは大物になるな、うちの息子には勿体ないくらいだ」
「皆少しはお兄ちゃんをフォローしてあげてよぉ……それじゃああたしはもう行くね」
唯一俺の味方をしてくる妹の言葉にうんうんと頷きながら顔を洗い、食卓に混ざる。俺はグルメではないが、今日の朝食がいつも母親が作っているものとは違うことくらいは理解した。卵焼きを食べると、体中に染み渡る辛さ。
「……! ぐおおおおお! ……ロ、ロコ、はっきり言うぞ。お前料理のセンスないわ。砂糖と塩を間違えるなんてわざとやってるのか?」
「酷いな。朝から目が覚めるようにと心を鬼にしてハバネロを混ぜてあげた私の愛情をそんな言葉で片付けるなんて。大体卵焼きは砂糖を入れる人も塩も入れる人もいるんだからその突っ込みはおかしい」
「わざとな上にダメ出しするのか…・・・」
なんて彼氏想いな恋人だろうと、体中から汗を流しながら朝食を食べ終えると出発に丁度いい時間帯。口がヒリヒリしてまともにいってきますも言えない俺を余所に、ロコは元気よくいってきまーすと、自分が俺の家族に受け入れられていることを表すような挨拶をかますのだった。
「何でお前は俺の家族とあんなに仲がいいんだ? 俺はお前の父親には嫌われている気がするんだが」
「息子と娘の違いじゃないかなあ、あまり気にすることはないよ。どうせ今後は、堂々と何股もかけるようなゴミ男として君の家族にも私の家族にも認識されるだろうから。そんな日がくるのも遠くないだろうねえ、頻繁に水草さんが家に来たりすれば」
「ぐっ……家が隣ってのも恐ろしいな……すぐに悪事がバレる」
水草さんに関しては、本人がペラペラ喋ったりしなければ家族にはバレることはないだろうが、家が近所のロコは話が別だ。すぐにロコの家族にバレて、家族がどうにかしようと動くだろう。クラスメイトの冷ややかな視線と共に、自分や他人の家族からの冷ややかな視線にも耐えなければいけないという現実が重くのしかかってくる。
「さあ、ついたついた。学校だ」
「可愛い彼女二人と、馬鹿な友人と、その他大勢に囲まれる楽しい楽しいハーレムスクールだね」
「そんな言われ方をされると行きたくなくなるな、クラスに味方は数人程度か……」
「ははは、不登校の男女が寄り添ってラブコメするなんて質の悪いラノベじゃあるまいし」
教室での立ち位置を考えると素直に楽しい学校だなんて言えない俺ではあるが、ロコは特に気にすることなく堂々と学校へ入っていく。いい加減慣れないとなあ、とため息をつきながら俺も後に続き、教室へ。
「おはようございます蛟さん猫狩さん昨日は盛り上がりましたね蛟さんも初心者の私のためにわざわざ手を抜いてくださってありがとうございます」
「いや、ヒドラは普通に下手なんだよ」
「本気でやったはずなのに手加減した扱いされるって割とショックだな……」
「えそうだったんですかごめんなさいあまりにも下手だったのでわざとやったのだと思いましたでも対戦ゲームだと実力に差があったりして蛟さんが楽しめなかったりしますねそうだ今度私の家から乙女ゲーム持っていきますからそれを皆でやりましょうよ男の人でも楽しめるんですよ乙女ゲーム」
「へえ、乙女ゲームかあ。私はヒドラの影響でギャルゲーしかやったことないんだよね。うんうん、女の子なんだからやっぱり乙女ゲーをやらないとね」
「恋人が乙女ゲーやるのを眺めるってのはどうなんだろうか……」
登下校中はロコの独壇場だが、校内では水草さんに軍配があがる。というか、水草さんが物凄い勢いでペラペラ喋るのであまり俺もロコもついていけていないというのが現状だが。たまに感じるクラスメイトの冷ややかな視線。視線を感じているのは俺だけではないようで、水草さんがそのうちそれに気づいて少し悲しそうにしゅんとする。彼女も自分の話し方が普通の人を苛立たせてしまうことは理解しているのだが、そう簡単に人は変わることはできないのだ。そんな彼女を見ていると、なんだか俺も悲しくなってくる。癒してあげたいと思うようになってしまう、馬鹿な男の心情だ。
「今日は頑張って自分でお弁当を作ってみたんです恋人に作ったお弁当を食べさせるのって女の子の憧れなんですよ別に美味しくもないですけどまずくもないはずですさあ食べてください」
「ありがとう……うん、美味しいよ」
「……私もお弁当を作ろうかなあ。でも私、ヒドラに作ってあげようとするとわざと変な味付けにしちゃうんだよね。恋人に意地悪したいっていう可愛い女心ってとこか」
「意地悪どころか嫌がらせに思えるんだが」
お昼休憩はいつもの空き教室に向かい三人で仲良くお昼ご飯。今日は水草さんが俺のためにお弁当を作ってきてくれたらしい。恋人にお弁当を作ってもらえるなんて彼氏冥利に尽きる。幼馴染なのに一度もお弁当を作ってきてくれなかったばかりかたまにお菓子やらを作ってくれると思えば無駄に辛口にしたりと嫌がらせとしか思えないことをしてくるどこかの恋人も見習って欲しいくらいだと言わんばかりに、お弁当を堪能しながら目を逸らして鼻歌を歌うロコを見やる。こいつがまともな料理を作ってくれるのはいつになるやら。
「それじゃあ私は一旦帰って自転車で向かいますね」
「うん、乙女ゲーよろしくね」
「え、乙女ゲーやるの決定事項なの?」
放課後になり、家が少し離れている水草さんとは一旦お別れ。ロコと一緒に帰りながら、俺に引いた友達が一人減っただの、二股かけたくらいで友達付き合いやめるような奴はそもそも友達じゃなかっただの、そんなどこか悲しい学校生活の会話をするうちに我が家へ到着。すると丁度後ろから私服に着替えて自転車に乗った水草さんがやってきた。
「お待たせしました!」
「あれ、随分早いね。学校から水草さんの家まで行って自転車でこっちに来るのってそれなりにかかると思ってたけど」
「居ても立ってもいられなくなって走ってきました」
俺やロコと遊ぶのが楽しみだからなのか乙女ゲーが楽しみだからなのかはあえて聞かないけれど、学校では居心地悪そうにしている水草さんが活き活きとしていて何よりだ。そのまま俺の家に三人でなだれ込み、部屋につくと我が物顔でロコがゲーム機をセットし始める。幸いにも両親も妹も不在だったので、表向きは恋人ではない知らない女を家に連れてきている不純な息子の姿は見られていない。
「どうですかこのストーリーこの世界観聞いているだけで抱腹絶倒ですよね」
「あは、あはははは、何これ、キャラデザもおかしいし、こんなの絶対に面白いに決まってる。水草さん、いいセンスしてるよ」
「俺にはいまいちわからんが……乙女ゲーに出てくる男のようになれってことか?」
「いえいえゲームに出てくるようなハイスペックだけどどこかおかしな男なんて現実では地雷ですよ蛟さんは今のままでも十分カッコいいと思います」
「そうそう、ストーリーだけでも楽しめるよこれ絶対、映画みたいなものだと思って楽しもうじゃないか」
男の俺にはいまいち乙女ゲーの面白さがわからないが、女の彼女達にはかなり来るものがあるようで俺を差し置いて興奮しながらゲームをプレイしている。ちょっとゲームの中のアゴがやたら尖がった男に嫉妬しながら、今週末あたりデートにでも誘うかとゲームを参考に交際プランを練るのだった。




