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第八話 兄弟

メトの村まで降りてきたサムと翠。翠はインビジブルを使い、村人達に見えないようにしている。


「おお!サム坊!」


と、村の中央広場で休んでいたギュレイが、サムが戻ってきたのを見て駆け寄ってきた。


「ギュレイさん。」


「無事だったかサム坊!よかった!」


「はい。途中で、とても強い方に守って頂きましたから。」


「もしかして、翠か?」


「はい。」


「そうかそうか。うまく鉢合わせたか。よかったよかった」


サムがハードマウンテンに行って無事に戻ってこれたことを、ギュレイは本当に喜んでいるようだ。


「ところで翠は今どこにいるんだ?」


「さあ……インビジブルを使っているので、わかりません。近くだと思いますけど」


「そうか。翠、聞こえてたら返事してくれ。サム坊を連れてきてくれてありがとうな」


「いえ。こっちとしても、手遅れになる前に助けられてよかったです。」


翠はインビジブルを掛けたまま、ギュレイに返事をした。何もない所から声が返ってきてギュレイは少し驚いたようだったが、すぐ嬉しそうに笑った。


「それで、ギュレイさん。アレは届きましたか?」


「ああ。それなら、受付に預けてあるぜ。」


「ありがとうございます。」


本題に入ったサムは、ギュレイから望んだ答えを聞くと、すぐ受付に飛んでいった。翠もそれに付いていく。



サムが受け取ったのは、両手で抱えられる大きさの、木の箱だった。サムはそれを自分の家に持っていき、翠も家の中に招き入れる。リビングのテーブルに箱を置いたサムは、早速箱を開けた。箱の中には乾燥した草が入っており。サムはその草を全部取ると、どこかに行った。翠がそれを追いかけていくと、サムは床板を剥がす。隠し扉だ。そこにきてようやく翠はインビジブルを解き、二人で一緒に地下室を降りる。


「!!」


翠は息を飲んだ。地下室にはベッドが一台あり、その上に一人の男性が寝ていた。全身にびっしょりと汗をかき、とても苦しそうな顔をしている。


「僕の兄の、アレスです。」


サムはそう言ってから、草を近くにあるテーブルに置いた。テーブルには他にも、何かの道具や本がたくさんあり、サムは道具の一つに草を入れ、すりつぶし始めた。


「何をしているんですか?」


「薬を作っているんです。」


サムが作っている薬は、間違いなく兄に飲ませるためのものだろう。


「お兄さんに、一体何があったんですか?」


翠が尋ねると、サムは作業をしながら話し始めた。


「……兄はこの村ただ一人の魔法戦士です。たった一人で、ハードマウンテンから時々降りてくるモンスターや、イルシール帝国の奴隷徴収隊から村を守っていました。」


アレスは魔法の心得を持つ戦士、魔法戦士であり、様々な外敵からたった一人で村を守り続けていた。身体が弱く、学者を目指すことしかできなかったサムにとって、兄は最高の誇りだった。


「奴隷徴収隊って、負けた国に送り込まれるんですよね?ハボンの村には、三日前に送り込まれたんですけど……」


「メトの村とハボンの村は違う国にありますからね。ハボンの村はバグラスという国にありますが、メトの村はイムルという国にあります。イムルは三ヶ月前、帝国と戦って負けました。」


どうやら翠は、知らない間に国境を越えてしまっていたらしい。ずいぶん長いこと奴隷徴収隊に襲われているようなので時期が合わないと思っていたが、別の国だということなら説明できる。


「イムル国のあちこちの村や町で人々が帝都に徴収されましたが、兄さんのおかげでこの村は守られていました。」


メトの村、アレスは理不尽に奴隷を徴収しようとする帝国には断固反対し、何度も送られてくる奴隷徴収隊に長らく抵抗を続けていた。そして一ヶ月前にも、奴隷徴収隊は来たのだ。


「ですが、その時やってきた奴隷徴収隊は、いつもと違いました。魔弓将軍ブリジットを連れていたんです」


「魔弓将軍?」


「皇帝エレノーグに仕える、六人の将軍の一人です。」


皇帝は自分の配下に、六人の将軍を付けている。魔剣将軍ザイガス、魔槍将軍ウィンブル、魔斧将軍ゴーレン、魔弓将軍ブリジット、魔獣将軍ナーシェラ、魔霊将軍サザーグ。強大な力を持つこの六人の将軍は、六大魔将軍と呼ばれ、世界中に恐れられている。そのうちの一人、魔弓将軍ブリジットが来たのだ。ブリジットはその名の通り弓を使って戦う女将軍で、美女だがその戦いには容赦というものが全くない。


「兄さんも懸命に戦いましたが、結局最後は、ブリジットが放った矢に倒れてしまったのです。」


ブリジットは、様々な効果を持つ魔力の矢を瞬時に、自在に生み出して使うことができ、アレスは一瞬の隙を突かれて矢を撃ち込まれてしまった。


「ブリジットはあの時の矢を、ペインデッドアローと呼んでいました。恐ろしい呪いが込められた矢で、この矢を射られた相手は一ヶ月苦しみ抜いた末に死んでしまいます。」


そしてその矢でアレスを倒した後、ブリジットはこう言った。一ヶ月後にまた来ると。ブリジットはかなりのサディストであり、実力が高い者、人望を集めている者にこの矢を使う。そうやってその者を衰弱死させ、周囲の人間を絶望させるのが、ブリジットは大好きなのだ。サムは様々な聖職者にアレスを見せたが、治してもらえず、医者にも見せたが無駄だった。今存在するあらゆる呪いと全く別系統の呪いであり、手の施しようがないとのことだ。仕方なく、サムは自分の学者としての頭脳を生かし、自らの手でペインデッドアローの秘密を解くことにした。


「調べた結果、ペインデッドアローは呪属性と毒属性を高度に融合させた魔力の矢だということがわかりました。呪いと毒を同時に治さなければ、治すことはできません。」


「そんな方法があるんですか?」


「方法は二つ。上位回復魔法のオールキュアを使うか、万能薬を飲ませるかのどちらかです。」


オールキュアは強力な魔法使いでなければ使えず、サムは魔法使いが知人にいなかったため断念した。続いて万能薬は、あらゆる状態異常を瞬時に回復させることができるのだが、こちらは帝都が独占してしまっているため、入手が非常に困難なのだ。こうなると、サムが自力で作るしかない。


「万能薬は今日届いたこの薬草を調合すれば、ほぼ完成します。ですがあと一つ、薬草を加えなければならないのです。」


高い山の山頂にのみ生えるという、ケミスト草。サムが調合している万能薬が完成を迎えるには、どうしてもその薬草を加えなければならないのだ。


「高い山……ハードマウンテン!?」


「はい。高度が高い山ならどこにでも生えると図鑑に書いてありましたから、ハードマウンテンにもあるはずです。」


翠は理解した。サムはそのケミスト草を手に入れるため、ハードマウンテンに登っていたのだ。一人で登っていたのは、単純に戦力になる者が一人もいなかったから。


「タイムリミットまであと四日。もう一刻の猶予もないんです」


そう言って、サムは調合を終えた。あと一種。たったあと一種調合すれば完成するのに、それがとてももどかしい。あと四日以内にケミスト草を手に入れて万能薬を調合し、アレスに飲ませなければ、死んでしまうのだ。


「わかりました。なら、僕はあなたの護衛をします。」


大切な人を助けるため、己の命すら投げ出そうとするサム。そんな彼を捨て置くことなど、翠にはできなかった。


「本当ですか!?」


「はい。それから、帝国と戦わなきゃって気持ち、強まりましたよ。」


あと四日経てば、この村に魔弓将軍が現れる。六大魔将軍の一角を落とせば、帝国の戦力は大きく低下するだろう。それに、こんな極悪非道を働く人間を、許しておくことなどできなかった。恐ろしく強いだろうが、それまでに翠は今よりもっと強くなっている。今の段階でも、しっぽの攻撃で反魔導アーマーが破壊できることはわかっているし、いけるはずだ。


「早速出発しましょう。時間が惜しいですから」


「はい!」


先ほどの戦闘で消費した魔力は、既に回復した。もういつでも戦える。


「あ、ちょっと待って下さい!」


しかし、出発する前に、サムは一階に上がっていった。翠がそれを追いかけていくと、サムは棚からいくつもの薬品入りの瓶を取り出し、大きなリュックに入れていた。


「それは?」


「研究の過程でできた薬です。ライフポーションにマジックポーション、ポイズンキュアポーションにカースキュアポーションに、まだまだいろいろあります。僕に戦う力はありませんけど、この薬で翠さんの援護をすることくらいはできるはずです。」


「……ありがとうございます。」


サムはありったけの薬をリュックに詰め込み、翠と一緒に家を出た。当然翠は、インビジブルを掛け直していく。











『ダークインプ インプの上位種。成長して魔力が高まり、中級クラスの魔法を連発できるようになった。力は相変わらず弱いが、魔法がより強力になっているためやはり侮れない。 使える魔法・ファイアブラスト、サンダーブラスト、ウォーターブラスト、ウインドカッター、アースクエイク。』


『ストライクボア 獣系モンスター。岩のように頑丈な身体を持つ猪のモンスターで、突進を受ければ大型のモンスターも無事では済まない。』


『ウォーキングウッド 植物系モンスター。肉食大樹が成長し、歩き回れるようになった。無数の枝や根が、本体ごと移動しながら獲物を追い詰める。 弱点・火』


再びハードマウンテンに登った翠とサムは、上記のモンスターを蹴散らしながら山頂を目指す。魔力が少なくなると、マジックポーションを飲ませてもらった。マジックポーションはその名の通り、魔力を回復させる薬である。あとは、ダークインプのような高い魔力を持つモンスターを襲って、魔力を回復しながら基礎魔力も上げている。魔力は翠にとっての生命線だ。魔力がなければ魔法も、進化も使えない。だから、常に一定以上に魔力を保っておかなければならないのだ。加えてもっともっと魔力を高めなければ、四日後に現れる強敵には対抗できない。一応、魔力の自然回復速度を高める進化は行った。


「ところで、オーガメイジについて何か知っていることはありますか?全然襲ってきませんけど。」


「オーガメイジはこの山に住んでいるモンスターを全て支配しています。自分はほとんど動かず、モンスター達に指示を出して侵入者を攻撃させているようです。」


サムが説明した直後、目の前から狼のモンスターが群れで襲い掛かってきた。


『ポイズンウルフ 牙に毒を持つ獣系モンスター。獲物に集団で襲い掛かり、じわじわといたぶりながら確実に殺す。』


スーパーサーチで調べた瞬間、翠は少し身体を大きくし、素早くしっぽを伸ばしてポイズンウルフの群れをまとめて叩き飛ばした。それだけでは死ななかったので、一匹一匹噛みついて魔力を吸い取りながら始末していく。あまり吸い取れなかったが、魔力の節約はできた。


「じゃあさっきから続いてるこのモンスターラッシュも、オーガメイジの指示ってわけか……」


そう思いながら進む翠。ケミスト草が生えているのは、ハードマウンテンの山頂。そしてモンスター達の大将であるオーガメイジも、恐らく山頂にいる。オーガメイジとの対決は、まず避けられない。


「もうすぐ山頂です。気を付けて下さい」


「はい。」


ハードマウンテンを登り始めて、そろそろ三時間が経とうとしている。山頂は近いはずだ。サムは注意を促し、翠は警戒しながら進む。




と、開けた場所に出た。目の前には巨大な岩が……いや、岩と見紛うほどに巨大な、黒いモンスターが座っている。


「お前らか。俺の住み処を荒らしてるってのは」


それはそう尋ねてきた。

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