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第六話 馬車

頭の中にシナリオがあるうちに書きます。

翠の周辺を、青いブニブニした液体の怪物が包囲していた。翠はスーパーサーチを使って調べる。


『スライム スライム系モンスターの代表種。液状のモンスターで、獲物を自身の体内に取り込んで消化する。動きは鈍く、魔法が弱点だが、コアを潰さなければ時間を置くと再生してしまう。弱点・火、または雷 吸収・水』


「前に戦ったメタモルスライムの劣化種ってところか。」


メタモルスライムとの戦いの時は死ぬかと思ったが、今の翠はあの時とは比較にならないくらい強くなっている。翠は天高く跳躍すると、


「ファイアシューター!!!」


スライムの群れにファイアシューターを浴びせかけた。ファイアシューターの威力はさらに向上しており、コアを狙い撃ちはしなかったが、魔法の余波でスライムのコアは全て破壊されていた。


「この辺りのモンスターと戦うのも、かなり飽きたな。」


着地した翠は、旅を再開する。




翠がハボンの村から旅立って、三日が経った。今頃村人達は、奴隷徴収隊の再来を警戒して逃げているだろう。


(エリーはうまく逃げられたかな……)


どうかエリーだけは無事であって欲しい。そう思いながら、草原を進み続ける。今彼はネイゼンの導きに従い、北のハードマウンテンという山を目指していた。ただ目指すだけではつまらないので、道中のモンスターと戦いながら腕を上げているが、スライムやゴブリンなどの弱いモンスターしか出現しないため、あまりはかどっていない。やはり、ハードマウンテンでなければ駄目なようだ。


「弱いモンスターと戦うのはもうやだよ。早くハードマウンテンに行って、強いモンスターと戦いたい。」


しかし、弱いモンスターの方から寄ってくるので、翠にはどうしようもない。と、


「ん?」


大きな木の近くに、一台の馬車が停車しているのが見えた。


「何だろうあの馬車?」


これだけモンスターがたくさん出る草原なのに、馬車なんか走らせて大丈夫なんだろうか?翠はそう思って、スーパーサーチで馬車を調べる。


『モンスター避け』


「えっ?」


馬車の右側に、銀色のよくわからない飾りがぶら下げてあり、そこにモンスター避けという表示が出現した。気になって、そのモンスター避けとやらを調べてみる。


『モンスター避け 教会で聖なる力を施された守り。これを持っていると、弱いモンスターには襲われなくなる。』


「へぇ、モンスター避けかぁ……」


便利なものがあると思った。もしかしたら、奴隷徴収隊の馬車にも同じものがあったかもしれない。だったら危なかったなと思ったが、表示をよく見てみると、弱いモンスターには襲われなくなると書いてあった。つまり、強いモンスターには襲われる。強いモンスターが出現する確率が高くなる夜は、やはりモンスター避けがあっても出歩くべきではない。と、翠は閃いた。


「あの馬車に乗って行けば、モンスターに襲われずにハードマウンテンまで行けるんじゃないかな?」


弱いモンスターを寄せ付けない守りなので、襲われたとしても強いモンスターに限定される。ハードマウンテンに行きながら、強いモンスターと戦えるのだ。問題はあの馬車がハードマウンテンに行くのかどうかだが、ハードマウンテンに関する情報がないかと調べた。


『あの馬車はメトの村に向かいます。メトの村はハードマウンテンの麓にある村です』


素晴らしい。あの馬車に乗って行けば、ハードマウンテンの麓の村まで行けるのだ。馬車のすぐ近くには中年の男性がいたが、木陰で寝ている。翠は気付かれないようにインビジブルを使って透明になると馬車に乗り込み、身体のサイズを小さくして荷物の中に紛れた。これで翠の存在が知られることはない。


「んん~!さぁて、そろそろ出発するかぁ!」


間もなくして男性は目を覚まし、馬車に乗り込むと出発した。


(タダ乗りしてごめんなさい。代わりに強いモンスターに襲われたら助けますから)


心の中で詫びながら、翠は馬車の荷台から顔を出す。見ると、ゴブリンが四匹馬車を見ているのが見えたが、すぐ焦ったように逃げていってしまった。


(……効果はてきめんだな)


本当に、弱いモンスターは近寄れないことがわかった。同時に、強いモンスターには効果がないこともわかった。翠が何も感じずに馬車に乗り込めたことだ。翠の中身が人間であることも理由かもしれないが、既に翠の力は下級モンスターなど相手にならないくらいに高まっている。こうなると、自分は強くなっていると実感できて、嬉しくなった。


(っと。優越感に浸ってばかりもいられないな)


もっともっと強くならなければならない。ハードマウンテンまでかなり時間がかかりそうだし、それまでに少し進化しておくことにした。


(今度は少し防御寄りの進化をしてみよう)


今まで能力や攻撃力を強化する進化ばかりしてきたので、今度は防御的な進化をしてみようと考えた。しかし、魔力さえあればどんな進化もいくらでもできるという選択肢の多さが、逆に翠を迷わせていた。


(……そうだ。自己再生を付けてみよう)


思い付いたのは自己再生という新しい能力。というのも、回復魔法に魔力を割くのが、もったいなかったからだ。それなら攻撃魔法に回した方がいい。しかし回復が疎かになると困ったことが起きそうだ。というわけで、自己再生である。ただ自然治癒力を高めるのではなく、できることなら手足や目のような、破壊されたら完全には治せない場所も治せる、強力な回復が欲しい。そう強く念じたところ、ごっそり魔力が持っていかれた。強力で複雑な進化ほど、必要な魔力も多くなる。ハボンの村を出てから、人間に進化しようと何度も念じたが、結局無理だった。今の魔力総量では、存在がまるで異なる種族への進化は不可能らしい。翠の魔力は敵を襲って吸収することで増大し続けているが、いつになったらそこまで強大な魔力になるやら。


(……気を取り直して、次の進化いってみよう。次は防御力の強化だな)


とりあえず人間への進化は当面考えないようにし、今自分にできる進化を行うことにする。次は、防御力の純粋な強化だ。今のままでも、一対一でなら帝国兵相手でも勝てることがわかったが、不意を突いたらだ。正面から挑んでも、剣で斬られたりしてしまう。正面から挑めるよう、翠は自身の防御力を強化した。


(あと次は何だ?状態異常の無効化とか……)


他にどうしようか考える。状態異常の無効化は強力そうなので、残りの魔力で進化できるかわからない。と、あることを思い出した。


(……まぶただ)


蛇にはまぶたがない。なので、強い光を出す攻撃を、まぶたを閉じて防ぐことができない。翠は進化でまぶたを作り、そこでちょうど魔力が尽きた。ただ強化するだけならさほど魔力は消費しないが、体構造を大きく変えるような進化は消費魔力が多いようだ。


(……まだ着かないみたいだし、少し寝ようかな……)


魔力を使いきったからか、今までずっと這ってきたからか、眠くなってきた。少し眠ろうと、作ったばかりのまぶたを閉じる。











「うわぁぁぁぁぁ!!!」


「!?」


翠は男性の悲鳴を聞いて目を覚ました。辺りはすっかり暗くなっており、今は夜なのだとわかる。


(ずいぶん寝てたんだなぁ……いやそうじゃなくて!)


今男性の声が聞こえた。翠はスーパーサーチを使い、馬車の中から様子を探る。道の真ん中に七人ほどの柄の悪い男が立っており、全員武器を持っている。男性は馬車から落ちて、腰を抜かしているようだ。男達の内、鎧を着たリーダー格の男が、剣を向けて男性に言う。


「命が惜しかったら荷物を全部よこしな!そうすりゃ助けてやるよ!」


どうやら相手は追い剥ぎか何からしい。まぁ追い剥ぎとして、馬車の荷物を奪おうとしているようだ。


(あ、そうか。対モンスターのお守りだから、人間は普通に近付けるんだ)


今さら気付いた。敵はモンスターだけでなく、人間もだということに。


「そんな!この荷物の中には、すごく大事なものがあるんだよ!」


「んなこたわかってんだよ!」


「だからよこせって言ってるんだろ!」


御者の男性は抗議し、荷物を渡すまいとしているが、追い剥ぎ達は聞くつもりなどないらしい。翠は思った。もしこいつらにモンスター避けを奪われでもしたら、また弱いモンスターと戦いながらハードマウンテンを目指さなければならない。冗談ではなかった。帝国兵でもない相手と戦うのは不本意だが、こちらの歩みを邪魔されても困るので、翠は追い剥ぎ達と戦うことにした。


「ウォーターボール!!」


まずは威嚇から。荷台から頭を出した翠は、追い剥ぎの一人に狙いを定めて、威力を加減したウォーターボールを放つ。


「うわっ!!」


ウォーターボールは追い剥ぎの顔面に命中し、追い剥ぎは気絶した。


「な、何だ!?」


「見ろ!!グリーンスネークだ!!あいつが魔法を使ったんだ!!」


「グリーンスネークが魔法を!?あり得ねぇだろ!!」


翠の存在に気付いて慌て始める追い剥ぎ達。グリーンスネークとして規格外な力を持つ翠を前にして、かなり動揺している。翠は荷台から降りて追い剥ぎと男性の間に割って入り、追い剥ぎ達に警告する。


「悪いけど、この人に何かされると困るんだ。大人しく引き下がってくれるなら、命だけは助けてあげるよ。」


「グリーンスネークが喋った!!」


「くそっ化け物め!!やっちまえ!!」


しかし、翠の警告はかえって追い剥ぎ達を興奮させてしまい、追い剥ぎ達は襲い掛かってきた。仕方なく相手をすることにした翠は、しっぽで追い剥ぎ達の剣を弾く。防御力を強化された翠の身体は、錆びてなまくらと化している剣では傷一つ付けられない。翠は身体を少し大きくし、追い剥ぎを三人ほど、まとめて叩く。軽く叩いただけで、三人は吹っ飛んで気絶してしまった。


「ウォーターシューター!!」


続いて残った追い剥ぎを一気に倒そうと、ウォーターシューターを放つ。だが追い剥ぎ達はリーダーの後ろに隠れ、ウォーターシューターがリーダーに命中しようとした時、



魔法の水弾が、全て消滅してしまった。



「えっ!?」


今まで見たことのない現象に、翠は驚く。御者は呟いた。


「今のは……まさか、反魔導アーマー!?」


リーダーは笑いながら答える。


「その通り!この前一人でうろついてた帝国の兵士をぶっ殺して頂戴したお宝さ。」


翠がよく見てみると、確かに帝国兵の反魔導アーマーと同じ鎧だ。今まで反魔導アーマーに魔法を使ったことがなかったので、少し驚いてしまった。


「お前の魔法は俺には効かねぇんだよ!!死ねオラァ!!」


追い剥ぎリーダーは剣を振りかぶり、翠に斬り掛かってきた。しかし翠はそれより速くおもいっきりしっぽを振り、リーダーを弾き飛ばした。翠の全力の一撃を受けた反魔導アーマーは砕け散り、リーダーは気絶する。


「「お頭ァッ!!!」」


「……反魔導アーマーって、こんなに簡単に壊せたんだ……」


何だか拍子抜けである。ハボンの村では強い冒険者達が成す術もないまま捕らえられてしまったので、恐ろしく強力な鎧だと思っていたが、しっぽで殴るだけで壊せるとは思っていなかった。剣が錆びていたので、反魔導アーマーも老朽化していたのかもしれないが。


「くそぉ覚えてろ!!!」


残った追い剥ぎ達は、気絶した者達を急いで起こすと逃げ出した。


「……あの、すいません。何もするつもりはなかったんですけど……」


翠は御者に話し掛ける。


「……いや、あんたのおかげで助かったよ。強いんだな」


御者は、翠が友好的な態度を見せているからか、少しずつ警戒を解いていっている。翠は御者に自分の素性と、自分がハードマウンテンを目指していることを話した。


「なるほど、それでか。」


「タダ乗りしてたことは謝ります。ですが、よかったらハードマウンテンまで乗せていってもらえませんか?」


「ああ。こっちからお願いするよ。あんたみたいな強いやつがいてくれるなら、俺も安全だ。」


御者は翠が馬車に乗ることを許可した。気を取り直して、再びハードマウンテンを目指す。


「ところで、どうしてハードマウンテンなんかに行きたいんだ?」


翠を荷台の上に乗せながら、御者は翠に訊いた。


「簡単に言うと、腕試しです。ハードマウンテンには、強いモンスターがたくさんいるって聞いたので。」


「……やめといた方がいいと思うけどねぇ。あそこにはオーガメイジがいるから」


「オーガメイジ?」


「魔法を使うオーガさ。腕っぷしも他のオーガより強いし、あいつのせいで誰もあの山に近付けねぇ。」


現在ハードマウンテンは、オーガメイジというモンスターが山の全てのモンスターの頂点に君臨していて、かなり危険な状態らしい。


「おっ、夜明けだ。」


翠が起きたのは明け方だったようで、御者と話しながら馬車を走らせる間に、夜が明けて朝日が昇ってきた。



朝日に照らされて、ようやく見えてきたものがある。巨大な、とてつもなく巨大な、黒い山だ。明るい朝日に照らされてなお、その山は黒かった。


「やっと見えてきたな。あれが、ハードマウンテンだ。」


御者は説明する。強いモンスターと過酷な環境が、人間の来訪を拒否する山、ハードマウンテン。別名、魔の山。


「あの山の麓に村が見えるだろ?あれがメトの村だ。この馬車はあそこに行くんだよ」


確かに、山の麓に村が見える。ハボンの村と同じくらい、小さな村だ。


「絶対にたどり着かなきゃいけねぇんだ。あの村に住んでる学者に頼まれた、すっげぇ大事なもんを積んでるからな。」


「学者?」


翠は御者に尋ねる。御者は笑って答えた。


「そう。学者だ」

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