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最終話 櫻井翠

「奪うだと!?ふざけるなァァァァァァ!!!」


激怒したエレノーグは、暗黒の閃弾で翠に攻撃をしかける。しかし、暗黒の閃弾は空中でみるみるうちに小さくなっていき、翠に当たる前に消えた。


「闇エネルギーまでも吸収するか……!!」


「言ったはずだ。この宇宙でお前の全ては僕に奪われると」


翠が創った吸奪の宇宙。その世界では、翠が認めた相手以外の力は全て吸収される。翠の能力、吸魔は魔力以外のものも吸い取れる、吸奪へと進化した。吸収できるのは、それが例え魔力から変換された闇エネルギーであっても、例外ではない。


「だったらこれでどうだ!!!」


エネルギー系の攻撃は使えないと見たエレノーグは、直接殴り掛かる。しかし、力の差が同じになってしまえば、皇帝となってから長らく訓練をしていなかったエレノーグの拳など、つい最近まで激しい修練を積んでいた翠にとっては、虫が止まるような攻撃だった。


「がはっ!!」


よってそれをかわし、顔面に穿破拳を叩き込んでやる。吹き飛んだエレノーグ。顔面のダメージは回復していくが、明らかに再生速度が今までより遅い。吸奪の宇宙が、エレノーグの生命力を吸い上げているからだ。反対に、翠の力はどんどん増していく。


「こんなことが、あるものか……私は、神になったのに……私の邪魔になるネイゼンを排除して、ようやく私の支配が完成するはずだったのに……」


「……なぜネイゼンさんを罠に嵌めた?どうしてネイゼンさんを裏切り者に仕立て上げたんだ?」


翠はずっと気になっていたことを訊いた。今、エレノーグはネイゼンが邪魔だったと言ったが、本当にそれだけだろうか。


「今言った通りだ。私は奴がいた時から、ずっと皇帝にのし上がることを考えていた。」


そのためにも、エレノーグはまず将軍になろうと努力を重ねていた。そしていつか将軍になったら、今の皇帝を蹴落として、新たな皇帝になろうと。だが、将軍の座に選ばれたのは、自分ではなくネイゼンだった。エレノーグはずっとずっと、ネイゼンを遥かに上回る努力を重ねていたのに、それなのに誰も彼もがネイゼンを讃え、そして将軍にした。それが許せなかったのだ。


「だから罠に嵌めてやった!!おかげで奴は反逆者となり、そして死んだというわけだ!!」


その功績で将軍になったエレノーグは、すぐに皇帝を罠に嵌め、皇帝の座から失脚させた。そこまで聞いて、翠は言った。


「……お前はどうしてネイゼンさんが将軍になれたのか、わからなかったみたいだな。」


「何!?」


「ネイゼンさんはいつでもたくさんの人のことを考えてた!!死にそうになっていた人がいれば、迷わず助けた!!お前にはそんな優しさや思いやりがない!!自分の幸せしか考えてないじゃないか!!だからネイゼンさんが選ばれて、お前は選ばれなかったんだ!!」


「黙れ!!知ったような口を利くな!!」


エレノーグは激昂して襲い掛かってくるが、翠は軽く蹴り飛ばす。


「それなのにお前は理由がわからず、結局他人を騙すという手段を取った。そのせいでこの世界の人々は疑心暗鬼になってしまったんだ!!」


極論から言えばそうなる。ネイゼンは世界中に知られるとても素晴らしい人間だったが、エレノーグの策略によってネイゼンの信頼は失墜し、誰が本当に優れた人間かわからなくなってしまった。それが最終的に、エレノーグを皇帝にするという最悪の結果をもたらしてしまったのだ。世界樹がデミトラシアの人間を見限り、異世界の人間に助けを求めた理由はそれだ。エレノーグが全てを狂わせてしまったのである。


「お前が犯した罪は重い。ネイゼンさんの魂のため、そしてデミトラシアに生きる全ての人々の平和と幸福のために、僕がお前を裁く!!」


スケイルブレードを生成する翠。これは、今までのような障害を排除するための武器ではない。人を超え、神となった暴帝を裁くための、断罪の刃。


「何が裁きだ!!貴様ごときに、神である私を裁けるものか!!!」


エレノーグは吸収されることを承知で、自分の全エネルギーを解放する。


「神こそ唯一絶対の存在だ!!ゆえに私こそが頂点だ!!だから私以外の存在は必要ないのだ!!!お前もいらない!!!消えてなくなれ櫻井翠ぃぃぃィィィーーッ!!!!!」


翠に向かって突撃するエレノーグ。



しかし、そんな攻撃が通じるはずもなく、



「ジャッジメント、ブレード!!!」



翠もまたスケイルブレードに、己の全エネルギーを纏わせてエレノーグを切りつけた。


「……私の……世界……私……だけの……!!」


エレノーグは最期にそう言い残し、消滅した。翠は吸奪の宇宙を解き、デミトラシアの宇宙へと戻る。


(……エレノーグは他人を信じられなかったのだろう)


ネイゼンは言った。エレノーグがなぜ、神の座を求めたのか。それはきっと、他者を信じることができなかったから。だから他者の存在をないがしろにし、己一人のみの理想郷を、最強の力である神の力を求めた。自分一人しか、信じられるものがなかったから。


(ともあれ、よくやってくれた。お前はすごいな、翠。死人の頼みを本当に引き受けてくれるとは)


何はともあれ、翠はエレノーグを倒した。デミトラシアは守られ、これからは平和が訪れることだろう。


(これでようやく、わしの憂いもなくなったというわけだ)


(……あっ……)


翠は思い出した。今さらだが、ネイゼンは既に死んでいる。死んでしまったネイゼンが、本来自分がやるべきことを代わりに翠に引き受けてもらった。二人はそういう関係だ。やるべきことが終われば、未練がなくなれば、この関係は終わる。


(わしを信じてくれてありがとう翠。これから先は、お前が望む通りに生きてくれ。もうわしの導きは、必要ないだろう?)


(……はい。今まで僕を導いて下さって、ありがとうございました)


(重ね重ね礼を言うぞ。では、さらばだ……)


(はい。どうか安らかに、眠って下さい)


それっきり、ネイゼンの声は聞こえなくなる。一度は道を違えたとはいえ、死してなおデミトラシアの安寧を願った将軍は、冥界で眠りについたのだ。


「……僕も帰ろう。」


振り向けば、そこにはネイゼンが愛したデミトラシアの星がある。自分の帰りを待つ者達のために、翠はこの星に帰ることにした。


(……望む通りに生きる、か……)


エレノーグを倒すという目的を果たし、何のために生きるかわからなくなってしまった翠。いや、よく考えれば、自分にはやらなければならないことがある。


(……僕は……)











救世主櫻井翠の手によって暴帝エレノーグは倒され、後にイルシール帝国動乱と呼ばれることになる戦いは終結した。



フェリア達反乱軍は、帝都に奴隷として徴収されていた人々を世界各国に送り届け、現在は復興支援隊として人々を救っている。ラニア王国ともうまく連携を取っているようだ。



エリーは両親を連れて故郷の村に帰った。奴隷として酷使され、弱りきってしまった両親の療養のため、しばらく親孝行をすることにしたそうだ。しかし、またエレノーグのような存在が現れた時、真っ先に動けるよう魔法の鍛練は怠っていないらしい。



アレスはメトの村に帰り、自分達は帝国に勝利したということを伝えた。サムは救世主とともに戦った兄を誰よりも祝福し、村では三日三晩に渡る宴が開かれたという。



シーラはムルギー渓谷で、相変わらずグリーンドラゴン達を迎え入れている。エレノーグは倒れたが、帝国の戦争で破壊された環境がすぐに再生されるはずもなく、行き場のないグリーンドラゴンが大勢いるそうだ。世間が落ち着き、自然が元通りになるまでは、今の生活を続けるつもりでいる。



クリスは、人々からの強い希望で、イルシール帝国の新たな女帝となった。イルシール帝国は敗戦国だが、クリスが元から反戦派として知られていたのが幸いし、世間の風当たりはあまり強くなく、イルシール帝国は全ての人々に優しい、平和な国家になった。



そして翠は……











「……ふぅ……」


クリスは部屋で、小さく息を吐いた。世界はまだ、帝国が付けた爪痕から立ち直れていない。自分が手を打ち切れなかったせいだと気に病んだ彼女は、毎日夜遅くまでハードな事後処理に自分から徹底して取り組んでいる。今ようやく、今日の分の事後処理が終わったところだ。


「お疲れ様でした。今、紅茶をお淹れしますね。」


「ありがとう。」


クリスの秘書が、紅茶を淹れに部屋から出ていく。


「……ここまで来るのに、本当に長かった。」


クリスは一人呟いた。長く望んだ戦争の終結と、国家の立て直し。ずっとずっと願っていたことが、ようやく叶った。


「まだまだ大変だけど、頑張らなくちゃ。」


この帝国を、そして世界を平和にするため、今まで以上に尽力する。クリスはそう決意した。



その時、



「君なら絶対にできるよ。僕が言うんだから、間違いない。」


窓が開いて優しい声が聞こえてきた。


「翠!」


窓の外から、翠が入ってきていたのだ。疲れが吹き飛び、クリスは翠に駆け寄って抱き着く。翠もまた、優しく彼女を抱き止めた。



翠は世界樹に居を構え、この世界を守る存在となることにした。今は、傷付いた大地を癒すため、世界樹を通して星全体に己の神をも超える力を流し込んでいるのだが、時々こうして、クリスに会いに来る。


「本当によかったの?僕なんかと結婚して。」


あの戦いの後、翠とクリスは結婚した。クリスは人間なのだから、人間と結婚するべきだと翠は止めたのだが、クリスは聞かずに翠と結婚したのだ。


「あなただからこそよ。あなた以外の人と、結ばれたくなんかない。例えあなたが竜でも、私には何の不満もないわ。」


生まれてくる子は、人間と超神竜の血を引き継いだ子になる。だが、クリスに不満はなかった。世界を救った超神竜の子なら、何より自分が好きになった翠の子を生むなら、そこに不満などあるはずがない。


「ありがとうクリス。僕を好きになってくれて」


「こちらこそありがとう翠。この世界を救ってくれて、私を好きになってくれて。」


二人は互いに礼を言い、熱い口付けを交わした。




異世界デミトラシア。魔法やモンスターが存在する、地球と似ても似つかないファンタジーな世界。一時は滅びの危機に見回れたが、この世界は永遠に守られることだろう。




取るに足らない蛇から、神すら超える竜に進化した救世主、櫻井翠がいる限り。




異世界転生ファンタジーを書いたらどうなるか。試験的な意味合いを兼ねて作った作品ですが、これにて完結です。最後に、最終形態の翠の能力を掲載します。


超神竜エクシードドラゴン


ユグドラシルドラゴンに進化した翠が、人々の翠の勝利、エレノーグの支配からの脱却を願う想いの力と、エレノーグの強大な魔力を吸収することで進化した、神すら超える竜。自分が望んだあらゆる宇宙を創り出すことができ、また多数の宇宙を破壊することができる。最終決戦では入り込んだ者の魔力、生命力、その他諸々全てを吸収する吸奪の宇宙を創り、エレノーグの全てを吸い尽くしたので、さらに強くなっている。また、宇宙間を移動する能力も手に入れたため、デミトラシアに危険が及ぶような事態が他の宇宙で起きた時、それを察知してその宇宙に乗り込むことができる。必殺技は、スケイルブレードに己の全エネルギーを込めて切りつける、ジャッジメントブレード。



では、御愛読ありがとうございました!!

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