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第四十六話 最終決戦

「ほう、ずいぶんと大きな口を叩くな。ならば教えてやろう!貴様がいくら進化しようと、結果は何も変わらないということを!!」


エレノーグは翠に向けて、暗黒の閃弾を放った。暗黒の閃弾は翠に命中し、爆発が起こる。


「口ほどにもないやつだ……」


先ほど翠を倒した時の十倍以上の闇エネルギーを込めて放った。あの程度の威力で瀕死の重傷を負う者が、この威力に耐えられるはずがない。



しかしそれはあの時の翠ならの話だ。



今の翠は、暗黒の閃弾を無傷で耐え抜いていた。


「何!?」


「トリニティーバスター!!!」


エレノーグが驚き、動きを止めた隙を狙って、翠が両手を前に向けて新たな魔法を発動する。ファイアバスター、サンダーバスター、ウォーターバスターの三種の上級魔法を同時に発動する、超上級魔法だ。加えて、ユグドラシルドラゴンは物理攻撃から魔法攻撃、初歩的な身体能力に至るまで全てが、エメラルドドラゴンの数百倍以上に強化されている。


「うおおおっ!!?」


進化前の翠の攻撃が一切通じなかったエレノーグも、これには両腕を吹き飛ばされるほどの大ダメージを受けた。


「おのれ……どうやら口だけではないらしいな……!!」


何者にも砕かれることのない絶対的な肉体を手に入れたと思っていたエレノーグは、その自尊心を傷付けられて怒っている。


「……いいだろう。それならこちらにも考えがある」


エレノーグの両腕が修復されていく。そして、


「はぁっ!!!」


エレノーグは全身が鎧のような黒い鱗に覆われた、巨人の姿に変身した。


「貴様が進化するなら、私もそれに合わせて進化すればいいだけの話だ。」


ただの変身ではない。ユグドラシルドラゴンという未知の存在に進化した翠に対抗するための、さらなる進化だ。やろうと思えば、エレノーグはいくらでも進化できる。何しろ、進化に必要な魔力が有り余っているのだ。今の進化でまたかなりの魔力を消費してしまったが、数分もあれば完全に取り戻すだろう。こうしている間にも、魔力は溢れ出てくる。


「さぁ行くぞ!!最終ラウンドだ!!」


エレノーグは片手を振るって、闇エネルギーで大きな円を描く。


「暗黒の閃輪!!」


闇エネルギーは輪状の巨大な刃となり、エレノーグはそれを翠に向けて飛ばした。だが、翠はそれを手刀で真上から砕く。正面からの攻撃には強い攻撃だが、側面からの攻撃には弱いのだ。


「サウザンドジャベリン!!!」


間髪入れず、翠は反撃に出る。エレノーグの真上に千本もの魔力の槍が出現し、それが一斉に降り注いできた。エレノーグは頭を覆ってガードし、無傷でやり過ごす。しかし、その間に接近していた翠が、エレノーグのみぞおちを殴り飛ばした。


「グハァッ!!調子に乗るなモンスター風情が!!!」


またしてもダメージを受けたエレノーグは、自分の周囲にいくつもの暗黒の閃弾を出現させ、滅茶苦茶に放った。それを飛び回り、かわしていく翠。逃げながらも、上級魔法で反撃していく。


「どうした!!逃げるだけか!!」


しかし、トリニティーバスターのような超上級魔法ならまだしも、上級魔法程度では、威力が強化されているといっても、エレノーグに十分なダメージを与えるには足りない。半端な攻撃では、すぐダメージを再生されてしまう。翠が普段何気なく使っている能力だが、敵に回るとここまで厄介なのだということがよくわかった。


「ちょこまかちょこまかと!!絶望の殺界!!」


エレノーグが手をかざした瞬間、翠は黒い箱のようなものに閉じ込められる。


「そこだ!!」


動きを封じられた翠に向けて、暗黒の閃弾を飛ばすエレノーグ。閃弾は殺界に直撃し、大爆発が起こる。


「ようやくこっちの攻撃が当たったな。だが、今の攻撃に耐えたか。」


姿を現したのは、ぼろぼろにされてしまった翠。すぐにダメージを再生させて、エレノーグとの戦闘を再開する。


「ハァァァァァ!!!」


今度は口からエネルギー波を吐く翠。


「暗黒の閃光!!!」


それに合わせて、エレノーグも闇エネルギーの光線を放つ。二つのエネルギーは互いに激突し、そして爆発した。


(せっかくネイゼンさんと世界樹の力を借りたのに、これでも倒しきれないのか!!)


ユグドラシルドラゴンとは、そもそもエメラルドドラゴンが世界樹のバックアップを受けることで、進化した存在である。これによって翠の力は、エメラルドドラゴンの時とは比較にならないほど強くなった。そこまで強くなってなお、エレノーグを倒しきることができない。力の差は互角になったまま、動かないのだ。


「どうすれば……!!」


とにかく、エレノーグに力を使わせることを、やめさせてはならない。もし魔力を貯める余裕を与えて、今以上の存在に進化されでもしたら、それこそ打つ手がなくなる。


「ホーリーフラッシュ!!!」


翠は次の魔法を使った。ホーリーフラッシュは、光魔法の上級魔法だ。ホーリーライトを上回る大きさの、光属性の光線を放つ。


「ぐおっ!?」


それを食らったエレノーグは、バスター系魔法を受けた時以上のダメージを受けた。そこで翠は、以前にもこれと似たようなことが起きたと思い出す。そう、魔霊将軍サザーラとの戦いの時だ。サザーラが操るアンデッドモンスター達は、通常の魔法よりも光属性の魔法の方がダメージが大きく、再生も遅かった。それはアンデッドモンスター、そしてアンデッドモンスターを操る魔法が、闇属性魔法の弱点属性である光属性魔法だったからだ。エレノーグが造った人工の超進化の実は、闇魔法の産物であるらしい。それを使って進化したエレノーグも、闇属性に類する神に進化したのだ。つまり、エレノーグの弱点は、光魔法。


(よし!!エレノーグの弱点がわかったから、これで少しは楽に……)


翠がそう思った時だった。エレノーグがダメージを回復させ、今より二回りも巨大で、さらに屈強な姿に進化したのだ。


「なっ!?」


エレノーグに魔力を回復させる暇は与えていない。弱点属性の魔法を食らったのだから、その分魔力も低下したと期待したのだが、なぜかエレノーグは進化した。


「このマヌケが。私に魔力を使わせ続ければ、進化に必要な魔力は貯まらず現状を維持できるとでも思ったかぁ~?」


「ま、まさか……!!」


「そうだ!!さっき進化した時、消費を上回る速度で魔力を貯められる身体に進化したんだよ!!お前みたいなガキの手の内が、神となった私に読めないとでも思ったか!?この無能がぁ~!!」


翠の考えは完全に読まれていた。膠着状態に持ち込まれる前に、エレノーグはもう手を打っておいたのだ。


「神を出し抜こうとした者には、厳罰を与えねばなぁ~?」


エレノーグは片手を伸ばし、


「暗黒の閃雷」


手から大量の電撃を飛ばした。


「ぐあああああああああああ!!!」


翠はかわすことができず、それを食らってしまった。











(なんということだ……)


翠の身体を通して戦いを見ていた世界樹は焦っていた。エレノーグは世界樹の想像を遥かに超える存在に進化していたのだ。翠を強化しようにも、もうありったけの力を与えてしまって余力がない。これ以上自分の力を与えれば、世界樹は枯れてしまう。それでも恐らく足りない。ともなれば、あとはデミトラシアの大地から力を吸い上げて与えるしかないが、そうなったら今度はこの星の寿命を縮めてしまう。


(……そうだ!!)


妙案が浮かんだ。


(シーラ!!シーラよ!!聞こえるか!?)


まずは、帝都で倒れているシーラに呼び掛ける。


「せ、世界樹、様……?」


シーラは目を覚ました。


(そうだ。今翠がエレノーグと戦っているが、状況は圧倒的に不利だ。このままでは、遠からず敗れてしまう。彼が倒れれば、この世界はエレノーグに破壊される)


「……何か私にできることは?」


世界樹はシーラに、逆転の方法を伝えた。シーラはそれを実行する。


「フルリカバーラ!!!」


まず最上級回復魔法を使い、倒れている者達を回復し、目覚めさせた。そして、現在の状況を伝える。


「翠は苦戦している。いつ敗れるともわからぬ状況だ」


「何ですって!?」


「そんな……俺達に、何かできることはありませんか!?」


エリーとアレスが尋ねる。


「……皆の力を貸して欲しい。皆の魔力を、魔力を持たぬ者は祈りを、私に捧げてくれ。それを私を通して、世界樹様に送る。」


送られた魔力や祈りを、世界樹が力に変えて翠に送る。エレノーグの魔力が無限に沸き出す以上一時しのぎにしかならないが、その間に翠が逆転の糸口を掴んでくれることに賭けるしかない。


「私にもお手伝いさせて下さい!」


そこへ、クリスが現れる。


「クリス殿……」


「私もまた、彼に救われた一人です。戦う力はありませんが、魔力だけはありますから、必ずお役に立てるはずです!」


クリスは戦う力を持たないし、魔法も使えない。だが、魔力だけはかなりの量があるのだ。


「……わかった。では、皆頼む!!」


シーラの合図で、全員が一斉に力を、祈りを、シーラに注ぎ込む。そして、シーラがそれを世界樹に送る。


(凄まじい力だ。お前はこれほどまでに、想われていたのだな)


想いには、時として考えられないほどの力が宿る。世界樹はその可能性に賭けた。そしてその賭けは成功し、世界樹がネイゼンと協力して翠に与えた以上の力が集まったのだ。


(この力を、お前に届ける!!受け取れ、翠!!)


世界樹は呼び掛けながら、翠に力を送った。











「!!」


エレノーグの閃雷に蝕まれ続ける翠。だが次の瞬間、翠はその閃雷を振り払った。


「何!?もうお前にそんな力はないはず!!」


エレノーグは驚いている。確かに、もう翠にエレノーグをどうこうする力は、残っていない。これは、みんなの想いの力だ。それが、翠に力を与えている。


「わかる。わかるよ、みんなの想いが。」


翠は自分に力を与えてくれる者達の想いを感じていた。


『翠!!あんたそんなバカ野郎に苦戦なんかしてるんじゃないわよ!!もし負けたら死んでも許さないから!!』


エリーの想い。


『翠さん!!どうか俺と弟の分も、エレノーグにぶつけて下さい!!』


アレスの想い。


『君に全てが懸かっているんだ。勝ってくれ!!』


フェリアの想い。


『お前なら勝てる。お前は私の弟子なのだからな』


シーラの想い。


『翠、負けないで!!』


クリスの想い。たくさんの人々の想いが、力となって流れ込んでくる。


「僕は、お前には絶対に負けない!!」


翠はエレノーグとの戦いを再開した。


「この大馬鹿者め!!お前がどれほどの力を得ようと、私はそれ以上の力を持つ存在に進化すると言ったではないか!!」


しかし、現実は甘くない。翠がみんなの想いでパワーアップしても、エレノーグはそれ以上にパワーアップしてしまう。どうしても、エレノーグのパワーアップを上回ることができない。


(せめて奴の進化を止めることができれば……奴の魔力無限増幅を止めることさえできれば……!!)


そんな存在に進化することができればと、翠は考えた。みんなの力を受け取ってもなお、エレノーグを超える存在に進化することは叶わないのだ。



と、閃いた。進化のためには魔力がいる。進化、魔力無限増幅。


(……何だ、あるじゃないか。最高の魔力補給源が!!)


閃く、逆転の秘策。翠はそれを実行するため、危険を承知で突撃した。


「スケイル、ブレードッ!!!」


まずスケイルブレードを生成し、それに光の魔力を纏わせる。エレノーグが攻撃してくるが、構わない。


「はぁっ!!!」


そのまま、スケイルブレードをエレノーグの腹に突き刺した。それからすぐ、吸魔を発動する。


「貴様……私の魔力を吸い尽くす気か!!」


ユグドラシルドラゴンに進化したことで、吸魔の速度も上がっている。それに遠距離から吸うより、相手に突き刺して吸った方が早い。しかし、


「大マヌケめ!!さっきやって失敗したばかりだろうが!!」


エレノーグの魔力を吸い尽くすことはできない。まだ、魔力増幅の方が勝っている。今のエレノーグは、一秒あれば魔力を完全回復させられるのだ。


「離れろ!!穢らわしい!!」


結局エレノーグの魔力を吸い尽くすことはできず、引き剥がされてしまった。ダメージも治ってしまう。だが、膨大な量の魔力を吸い取ることはできた。これだけ吸い取れば、十分だ。逆転の布石は整った。


「僕の勝ちだ。」


勝利宣言をし、翠は進化する。翼の数が八枚に、尾が四本に増え、身体がさらに三回り大きくなった竜へと。


「……」


翠が片手をかざした時、二人の姿が、この宇宙から消えた。











「こ、ここはどこだ!?」


気が付いた時、二人は地面に立っていた。いや、地面ではない。白く輝く、どこまでも果てなく続く光の足場。空には満天の星だけが広がっている、明らかに先ほどとは違う世界。


「超神竜エクシードドラゴン。それが僕が進化した存在」


翠は説明する。


「ここは僕が創り出した宇宙。今の僕とお前が戦えば、確実にデミトラシアを宇宙ごと消滅させてしまうから、あそこを巻き込まないよう別の宇宙を創って、そこに移動した。ここは普通の宇宙の百倍の強度があるから、絶対にデミトラシアを巻き込むことはない。」


「……なるほど、それは凄まじい力だな。だが、お前の学習能力のなさも凄まじいぞ。」


確かに宇宙を創造する力は凄まじい。神を超越する竜の名に恥じない力だ。だが、翠がどれほど強大な存在になろうとも、エレノーグはそれを超える存在に進化できるのである。


「すぐにお前を超える神に進化し、この宇宙を破壊してデミトラシアに戻ってやろう!!」


そう言って進化しようとするエレノーグ。



だが、エレノーグは進化できなかった。



「……」


いつまで経っても何も起きず、翠はそれを黙って見ている。


「……馬鹿な……これは……!?」


ようやく自分に起きている異変に気付いたエレノーグは、焦りの声を漏らした。



エレノーグの魔力が、吸収されているのである。エレノーグの回復速度を超える速度で。しかも、吸収されているのは魔力だけではない。単純な力も、生命力さえも、吸収されているのだ。翠の説明は、まだ終わっていなかった。


「僕は自分が望んだ宇宙を創ることができる。今僕が創ったのは、吸奪の宇宙。この宇宙に入り込んだ者の魔力、生命力、それ以外のものも全てを吸収し、僕の力に変える宇宙だ。」


これが、翠がエレノーグの魔力無限増幅を止めるために編み出した方法である。自分一人の力で吸いきれないなら、空間全体で、宇宙全体で吸い取れるようにすればいい。これだけ大規模で強力な吸魔が相手では、さすがのエレノーグも回復が追い付かない。


「お前はたくさんの人から全てを奪ってきた。富も、地位も、家族も、人生も、命も。」


エレノーグは略奪者だ。あらゆるものをあらゆる人から、無慈悲に奪ってきた。そんな彼は今、略奪される側に回ったのだ。


「今度はお前が奪われる番だ。お前に己の全てを奪われてきた人々の痛みを知れ」


翠が創った宇宙で、真の最終決戦が始まった。

ユグドラシルドラゴン


エメラルドドラゴンが世界樹のバックアップを受け、進化した姿。全てがエメラルドドラゴンの数百倍に強化されており、宇宙空間での戦闘も可能。だがこの進化は一時的なもので、この進化が必要となる状況が終了すれば、力は世界樹に返却され、エメラルドドラゴンに戻ってしまう。

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