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第三十六話 魔斧将軍

「ほざくな!!トカゲ風情がぁぁぁぁ!!!」


怒ったゴーレンは、シーラに向けて斧を振り下ろす。だが、そんな大振りな攻撃が当たるはずもなく、シーラは身体を右に寄せることで回避し、片手で斧を押さえつけ、その手に力を入れて身体を持ち上げ、ゴーレンの顔面に蹴りを入れた。斧は両刃だが、シーラは挟むようにして掴んでいるので、特に手を切ったりはしない。


「ごあっ!!」


斧を持ったまま、ゴーレンは倒れる。さすがに将軍だけあって、得物を離すようなヘマはしないらしい。


「隙だらけだ。」


シーラは指摘する。


「うるさい!!」


今度は横薙ぎに斧を振るうゴーレン。しかし、


「強風流し」


シーラはその攻撃に当たらず、斧に張り付くようにして動き、そして斧に片手を着いて空中で一回転しながら回避し、着地した。再びゴーレンが攻撃するが、同じようによけられてしまう。動きがとても軽く、まるで斧になびいているかのようだ。これは闘竜拳防御の型の一つで、強風流しという技を使っているからである。全身から力を抜き、敵の攻撃になびくようにして回避する技だ。攻撃が大振りであるほど威力を発揮し、回避であるため一切のダメージを受けない。


「ごほっ!!」


そして回避の勢いを利用して反撃もできる。ゴーレンはあまり頭がいい方ではないようで、正直これだけで勝てそうだ。


「こ……のぉぉぉぉぉ!!!」


だが次の瞬間、ゴーレンがシーラから大きく離れ、斧を振り上げた。すると、斧がとんでもない大きさに巨大化する。本来の姿のシーラと同じか、それ以上の大きさだ。


「これは……」


「驚いたか!!俺のタイラントタルカスは、大きさも重さも、自在に変えられる!!」


ゴーレンの斧、タイラントタルカスは、巨大なモンスターや、敵の軍隊と戦う時に適している武器だ。サイズや重量を使い手の意思で自由に変更でき、山より大きな相手も叩き切れるし、海のような数の軍隊も一振りで全滅させられる。


「アックスクラッシャー!!!潰れろぉぉぉォォォォォォ!!!!!」


大きく振り上げたタイラントタルカスを振り下ろすゴーレン。その威力は、余波で大地に何百メートルもの亀裂を刻み付けるほどだ。


「すごい!!さすが剛力無双の魔斧将軍!!」


「いくら緑竜王でも、これをまともに受けて耐えられはしまい!!」


ゴーレンの勝利を確信する帝国軍。


「シーラさん!!」


翠は声を上げた。


「確かに、正面から受けていれば、無事では済まないな。」


シーラは無事だった。タイラントタルカスのすぐ横に立っている。


「武器が斧なら、左右に逃げればいい。悪くない破壊力だが、武器の選択を間違えた、といったところだな。」


斧のみならず、剣や槍といった刃物系の武器は、基本的に左右には攻撃できない。そのため、振り下ろす攻撃なら左右に逃げれば簡単にかわせるのだ。これがもし、面積の広いハンマーだったら喰らっていただろうが、やはりゴーレンは武器の選択を間違えている。


「私は有能な若者を鍛えている最中でな、貴様の余興に付き合っている暇はない。悪いが、早々に決着をつけさせてもらうぞ。」


そう言うとシーラは拳を振りかぶり、


「穿破拳!!」


タイラントタルカスを殴った。あれだけ巨大な斧が、人間の拳一つで粉々に砕け散ってしまう。ゴーレンは武器を失ったが、シーラの攻撃は終わらない。


竜群打りゅうぐんだ!!」


一瞬でゴーレンに近付き、全身に拳の連打をお見舞いする。一撃一撃の速度は、音速の五十倍に達しており、グリーンドラゴン達にも視認できていない。見えていたのは、翠だけだ。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


苦悶の声を上げるゴーレンだが、シーラは容赦なく拳を叩き込み続け、通常の兵士の何十倍も頑丈な、ゴーレン専用の反魔導アーマーがひしゃげ、頑強な筋肉が潰れ、太い骨が砕けていく。


「爆裂掌!!!」


最後にシーラが強烈な掌底を叩き込んだ瞬間に、ゴーレンは弾け飛んで絶命し、遺言の魔石が飛んでいった。瞬殺。帝国の魔斧将軍ゴーレンが、ほとんど何もできないまま、粉砕されて無惨な死体に変えられてしまった。


「この程度の存在を将軍の地位に据えるとは……エレノーグという皇帝によほど人材を見る目がないのか、帝国が人手不足なのか、それともその両者なのか知らんが、いずれにせよ私に挑むとは愚かなことだ。」


シーラにとっては完全な雑魚。しかし帝国軍にとっては、最強戦力の一人。


「お前達はどうする?この無能な将軍と同じ姿になりたいのなら、かかってこい。」


シーラがそう挑発してやると、


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


ようやく帝国軍は逃げ出した。実はこの帝国軍、人間は数人程度しかいない。残りは魔導兵だ。ゴーレンが翠とシーラを倒したら雪崩れ込ませるつもりでいたが、完全に予定が狂ってしまい、足止めに使ってくる。しかし翠が吸魔を使って魔導兵達を停止させてしまったため、グリーンドラゴン側に一切の被害は出なかった。











その後、翠はシーラとの修行を再開し、夜になった。翠はシーラの宮殿に泊まることを許可されたので、ここで寝泊まりしている。


「……すごいですね、シーラさん。僕があの将軍と戦ったら、もっと苦戦してたと思います。」


翠はシーラと違い、あんなに軽く動くことなどできない。それでも負けることはなかっただろうが、きっと何回も自己再生を使わなければ勝てなかっただろう。それを、シーラは容易く葬ってしまった。


「……僕も、あんな風に強くなれるでしょうか?」


「……なれるさ。お前はまだ若い」


「シーラさんも相当若そうに見えましたけど。」


「実質百年程度しか生きていない若造だからな私は。年長者の中には千年以上生きておられる方もいる」


「僕は元々人間だったので、ドラゴンの若いとか年長者とかは、あんまりわからないんですけど……」


「まぁ、人間からすれば私は長寿だろうな。大体百年で人間の大人と同じだ」


「そうなんですか?」


「ああ。もっともあの姿は、私が若く見えるよう調整した結果でもあるが。」


「えっ」


「……」


「……ぷっ、あはは!」


「ふふ……」


翠はシーラの圧倒的な強さを見て、自分もあそこまで至れるか不安だったのだが、シーラと話しているとそんな不安は吹き飛んでしまった。


「さぁ、明日も早い。さっさと寝るぞ」


「はい。シーラさん」


二人は眠りについた。











そして翌日。


「今日は昨日と同じ、穿破拳の練習だ。」


シーラはプロテクションを使い、片手を構える。


「行きます!!」


翠はその手に向けて、穿破拳を放つ。すると、


「!」


プロテクションが砕けて、拳をシーラが受け止めた。翠も見ていた。プロテクションは力を集中させた部分を中心に穴が空き、そこから砕けていたのだ。


「で、できた……!!」


シーラと同じことができて、翠は我が目を疑う。まぐれではないかと思い、もう一度プロテクションを張ってもらって穿破拳を放った。また、同じように砕けた。まぐれではない。


「ほ、本当に……!!」


「言っただろう?お前ならできると。さぁ、次は竜群打の練習だ。どんどん行くぞ!」


「はい!」


穿破拳が成功して、自分に自信を持つことができた翠は、シーラとの修行をさらに進めた。











その頃、メハベル城。


「んぁぁぁぁぁぁいぁいぁぁいぁぁぁぁ!!!!!」


ゴーレンが倒されたことを知ったエレノーグは、発狂して玉座の間でブレイクダンスを踊っていた。


「どうされました皇帝陛下?気でも狂われましたか?」


そこにブリジットがやってくる。だが、いつもより相手を見下す目が鋭い。簡単に言うとすごく引いている。


「どうもこうもない!!ゴーレンが倒されたんだ!!それも櫻井翠にではなく、櫻井翠を守ろうとしたシーラに!!」


ブリジットが来たのに気付いたエレノーグは、ブレイクダンスをやめて喚き散らす。


「やはりあそこに手を出すべきではなかった!!こちらの世界征服が終了するまで、あそこには手を出すな!!うあああああああああああああ!!!!」


喚き散らしながら、ブレイクダンスを再開するエレノーグ。ブリジットはそんな皇帝陛下の様子を無視して、


(シーラめ。余計な真似を……)


と思っていた。

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