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第三十四話 緑竜王シーラ

「はい。ぜひともシーラ様にお会いしたいと」


グリーンドラゴンはシーラに向かって頭を下げた。シーラは翠に尋ねる。


「私はシーラ。このムルギー渓谷に、グリーンドラゴンの居住区を作った者だ。お前、名は何という?」


「翠です。櫻井翠」


「ほう、お前が櫻井翠か。聞き及んでいるぞ。イルシール帝国と戦っている、モンスターがいるとな。私が聞いた話ではリザードソルジャーだったが」


シーラは翠がグリーンドラゴンだったとは思わなかったようで、かなり驚いていた。


「超進化の実を使って、グリーンドラゴンに進化したんです。」


「ほう、それでか。超進化の実を得られるとは、お前は運がいいな。」


シーラは感嘆している。そして、翠に聞いた。


「して、お前は何をしにここに来た?ここに住みたいのか?それならば歓迎しよう。」


グリーンドラゴンがたくさんいるという環境は確かに魅力的だが、翠がここに来たのは安住を求めてではない。


「あなたの鱗をもらいに来ました。」


「!」


シーラが顔を、わずかにしかめた。


「お、お前なんてことを!!自分が何を言っているのかわかっているのか!?恐れ多くもシーラ様の鱗を……!!」


次いで、グリーンドラゴンの声。このムルギー渓谷においてシーラの存在はとても神聖なものであり、翠の言う鱗をもらうなどというのは暴挙も同然である。シーラの庇護下にある者達が、怒らないはずがない。


「いい。静まれ、ノルトス。」


シーラはグリーンドラゴンの名を呼び、落ち着くよう言った。


「シーラ様しかし……!!」


反論するノルトス。だが、シーラから少し睨まれると、


「し、失礼しました……」


慌てて黙った。シーラは翠との話を再開する。


「私の鱗が欲しいということは、エメラルドドラゴンになりたいのだな?」


「はい。」


「なぜだ。なぜお前はエメラルドドラゴンになりたい?お前は何をするために、竜王種の力を欲している?」


翠は自分がなぜエメラルドドラゴンになりたいか、なぜ帝国と戦っているかを話した。


「……ネイゼン将軍がな……」


「信じられませんか?」


「いや、信じよう。帝国がこの世界を支配しようとしているのは事実だし、お前の功績は私にも伝わっているからな。」


どうやら信じてもらえたようだ。ネイゼンが死んだと伝えた時、シーラはとても残念そうな顔をした。ネイゼンと会ったのは一度きりだったが、それでも将軍に相応しい人間だと思っており、人間達が彼を信じず死なせてしまったことを嘆いている。


「言ってくれれば、いくらでも匿ったのだがな……大方、私を巻き込みたくなかったのだろう。その程度、どうということはなかったのに。」


「シーラさん……」


「……よしわかった。お前に私の鱗をやろう」


「シーラ様!よろしいのですか!?」


シーラは翠に自分の鱗を与える決意をした。ノルトスが異を唱える。


「ただし、ただでくれてやるわけにはいかん。これはとても神聖な儀式なのでな、お前が本当に竜王種となるに相応しい存在かどうかを、見極めねばならんのだ。」


やはり、条件付きだった。シーラ曰く、竜王種は例え最弱のエメラルドドラゴンであろうと、世界のバランスを容易く崩してしまえるだけの力を持っている。もし竜王種同士で戦争を起こせば、今帝国が起こしている戦争以上の被害が降りかかり、世界は確実に滅ぶそうだ。そのため、翠が本当にエメラルドドラゴンになっても大丈夫か、その審査をする必要があるという。


「わかりました。それで、僕は何をすればいいんですか?」


「私と戦い力を示せ。生半可な覚悟で私は倒せんからな」


なるほど、わかりやすい。そう思った翠は、シーラに挑戦することにした。











岩の宮殿を出て、翠とシーラは開けた場所に行く。


「さぁ、どこからでもかかってこい。無論本気でな」


シーラは両腕を広げ、翠の攻撃に備える。


「……行きます!!」


シーラに言われた通り、翠は先手を取ってシーラに挑む。まず拳を放った。だが、片手で止められる。


「くっ!」


すぐにもう片方の拳で、両足で、しっぽも使ってシーラを攻撃する。


「動きは悪くない。どうやら今までは超進化の力で己の能力を強化し、それのみで戦ってきたようだな。」


しかし、全て最小限の動きで、容易く止められてしまった。


「どうした?それで終わりか?もっと打ち込んできて構わんぞ。」


翠は一度離れる。信じられない話だが、シーラの動きはとても精練されていて、まるで武術のようだ。竜が武術を使うなど、あり得ない話である。だが、シーラの動きはそうとしか思えないものだった。となれば、シーラの意表を突くような攻撃をしなければならない。


「ファイアブラスター!!!」


翠はその意表を突く攻撃として、魔法を使った。ファイアブラスターの熱線は、全てシーラに命中した。もちろん、これが効くとは思っていない。あくまでもシーラの意表を突くことが目的だから、効かなくてもいいのだ。


「スケイルブレード!!」


炎に紛れてスケイルブレードを生成し、シーラに切りかかる。


「魔法だけでなく、リザードソルジャーのスケイルブレードまで使えるとはな。」


しかし、翠の攻撃は全く当たらなかった。間違いなく意表は突いたはずだが、シーラの対応速度が早すぎて、すぐにかわせてしまえているのだ。


「ストロング!!」


なら、シーラが対応できなくなるくらい速くなればいい。


「ストロング!!」


ストロングを二回重ね掛けし、身体能力を上げる。だが、シーラはまだ対応してくる。


「ストロング!!ストロング!!」


四回まで重ね掛けしたが、それでもシーラは対応してきた。


(嘘だろ!?)


こうなったら、進化をするしかない。幸いにも翠は、ブリジットとの戦いでかなりの魔力を得ている。その魔力を使って、シーラが対応できなくなるくらい強くなれば、



そう思った瞬間、翠の胸板にシーラの拳が叩き込まれた。



「ぐあっ!!」


たった一撃喰らっただけなのに翠は大きく吹き飛ばされ、すぐ後ろにあった岩に叩きつけられた。うかつだった。攻めることばかり考えていて、攻められることを考えていなかった。それにしても、凄まじい威力である。今の一撃で、翠は意識を刈り取られかけた。だがどうにか立ち上がり、自己再生でダメージを回復させる。


「プロテクション!!」


一撃だけでもあれだけの威力があったのに、何発も喰らったら自己再生も間に合わずに戦闘不能にされる。そう思った翠は、プロテクションを唱えて守りを固めた。


「守りを固めたか。だが、唱える回数は一回でいいのか?その程度の防御、私は簡単に打ち抜けるぞ。」


「……プロテクション!!プロテクション!!プロテクション!!」


なら望み通りにやってやる。そう思って、翠はプロテクションを重ね掛けする。それから再び、シーラに挑んだ。翠は反撃を考えず、ひたすら攻める。魔法を、炎を、スケイルブレードを使って。途中で何度か反撃を喰らったが、どうにか戦闘不能にはならず、自己再生が間に合っている。だがシーラには攻撃がかすりもせず、完全にじり貧だ。途中で魔力の限度一杯まで進化して能力を上げたが、それでもシーラには当たらない。空を飛んで空中戦を演じても、同じだった。


「……これ以上は無駄だな。」


「何!?」


「これ以上続けても無意味だと言ったのだ。」


そう言ったシーラが一瞬で接近する。踏ん張りがきかない空中だというのにとてつもなく速く、翠は反応できなかった。


穿破拳せんはけん!!!」


プロテクションが、透明なガラスが割れるように砕け散り、翠のみぞおちに拳が叩き込まれる。


「ぐぁぁぁぁっ!!!」


翠はそのまま叩き落とされ、墜落した。戦いの音を聞きつけて見に来ていた他のグリーンドラゴン達が、驚いている。


「う……ぐぅ……」


呻く翠。それでも意識は失わず、自己再生で傷を治す。


「闘竜拳の技を受けて気絶しなかったか。」


そこへ、シーラが悠々と降りてくる。


「とう……りゅう、けん……?」


「シーラ様が独自に開発された武術だ。」


翠に話し掛けたのは、あのノルトスというグリーンドラゴンだ。やはり、シーラのあの動きは武術だったのだ。


「あの闘竜拳こそ、シーラ様が全竜王種最強たるゆえんなのだ。オニキスドラゴンであっても、シーラ様に勝つことはできん。」


シーラはエメラルドドラゴンだが、天性の格闘センスを持ち、そこからさらなる強さを求めて独自の武術を編み出した。それが闘竜拳だ。世界中を探しても武術が使えるのはシーラのみであり、そしてこの闘竜拳こそがシーラを最強たらしめていた。


「結論から言えば、お前は不合格だ。お前にはまだ、自覚が足りない。グリーンドラゴンやエメラルドドラゴンなど、さらなる強さを得るための通過点としか見ていない。己が進化した存在への想いや誇りがない。そんな低俗な者に鱗を与えるなど、将来何をするか恐ろしくてできん。」


辛辣な言葉だ。確かに翠は、エメラルドドラゴンを最強のオニキスドラゴンになるための通過点としか見ていない。ただ強さのみを求め、自分という存在に誇りがない。痛いところを突かれてしまった。


「……だが、お前の使命を達成させてやりたいという思いはある。そこで、お前をエメラルドドラゴンになるに相応しい存在として、鍛えようと思うのだ。」


だが、それで終わりというわけではなかった。シーラは救済措置として、翠を鍛えると言ったのだ。


「お前に私の闘竜拳を伝授しよう。」


「闘竜拳を?」


「他の者にも教えようと思ったのだがな、誰も習得できなかった。しかし、元人間のお前なら、できるかもしれん。どうだ?やってみんか?」


どんな教え方をしたのか知らないが、シーラがここにいるグリーンドラゴン達に教えた時は誰も習得できなかったそうだ。しかし、翠はそれを習得してみたいという気になった。


「……はい!教えて下さい!」


「よし、では半年だ。半年でお前を使えるようにしてやる」


そう言ったシーラは、とても嬉しそうだった。こうして櫻井翠の、半年間に渡る修行の日々が始まった。











翠がシーラと修行している頃、メハベル城。


「それは本当か?」


「は。まず間違いないかと」


ブリジットはエレノーグに、翠がムルギー渓谷に向かったことを報告していた。


「よりによってなんという所に……」


シーラが相手では手が出せない。出すとしても、全軍を出撃させるレベルだ。と、


「皇帝、陛下。」


ゴーレンがやってきた。


「ゴーレン。どうした?」


「俺が、行きます。ついでに、シーラも、一緒に潰して、きます。」


「大丈夫なのか?」


「大丈夫、です。」


「……わかった。ムルギー渓谷に行って、櫻井翠とシーラを倒してこい!」


「はい。」


エレノーグから許可をもらったゴーレンは、ムルギー渓谷に向かって出発していった。


(魔斧将軍ゴーレン、か……)


ブリジットは心中呟いた。やはり、他の魔将軍を動かした。これでまた、翠は強くなる。


(せいぜい私の獲物を育てる餌になれ)


ブリジットは心中、ほくそ笑んだ。

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