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第三話 魔法

「は?魔法を?」


「うん。攻撃手段は多い方がいいでしょ?」


翠も、強大な帝国相手に無策で突っ込むほど、馬鹿ではない。戦うなら、少しでも強くなってから。そのための手段として、魔法の習得を選択した。すぐに再生されはしたが、エリーが使った魔法は、モンスターを一撃で吹き飛ばすほど強力なものだ。習得することができれば、間違いなく翠にとって強力な攻撃手段となる。ぜひとも習得しておきたい。


「あんた、あたしの邪魔しないって言ったじゃない。」


「だから、魔法の使い方さえ教えてくれればいいんだ。そうすれば、あとはこっちで勝手に覚える。それなら大して邪魔にはならないでしょ?」


「……仕方ないわね……」


翠が必死に食い下がると、エリーは渋々承諾した。これで魔法を教えてもらえる。と、その前に、翠は魔法が使えるようになりたいと強く念じた。すると、翠の頭が、魔法が使えるようになったと閃く。同時に、翠の魔力が底をついた。予想できていたことだ。メタモルスライムからかなりの魔力を吸ったとはいえ、二つも劇的な進化を遂げれば、間違いなく魔力は尽きる。そういう意味でも、使い方だけ教えて欲しいと言ったのだ。どうせ他から魔力を補給しない限り、魔法は使えるようにならない。なら補給し次第エリーに聞きに来るより、先に全て聞いておいた方がいい。これでも記憶力は結構いい方なのだ。


「じゃあ、本当に簡単に教えるわよ?魔法っていうのは、イメージなの。自分が起こしたい現象をより強く頭の中でイメージして、それから集中。精神を集中させて……」


言いながらエリーは、精神を集中させる。すると、杖の上に火の玉が出現した。


「解き放つ!!」


それから、火の玉を上空目掛けて投げ付ける。火の玉は空中で爆発した。


「今のは火属性の初級魔法ファイアボールよ。他にも雷のサンダーボールや、水のウォーターボール。回復魔法のヒールなんかも、初心者用ね。どう?わかった?」


「うん。十分だよ」


翠にとって、エリーから教授された魔法講座は、予想通りのものだった。彼は結構なゲーム好きで、似たような説明をよく目にしたのだ。この世界でもそれは変わらないとわかったので、今の説明で魔法についてのメカニズムは十分理解できた。


「じゃああっちで練習してくるよ。ありがとうね」


「まぁせいぜい気を付けて。」


翠は魔力を補給するため、エリーと別れて森の中を再び徘徊することにした。











獲物を求めてさまよう内に、翠はあることに気付いた。先ほど進化した時に消費した魔力が、ゆっくりだが少しずつ回復してきている。この現象について知るため、翠はネイゼンを呼び出した。


(それは進化の影響だな。恐らく魔法が使えるようになりたいと念じた時、お前の中に魔法を使うための器官ができたのだ)


魔法使いを目指す者は、修行する間に魔法を使うための器官ができていくのだという。この器官はただ魔法を使えるようにするだけでなく、失った魔力を自然回復させる機能もある。つまり、その器官が今まで吸収し、そして失った分の魔力を回復させているのだ。そしてこの器官は、鍛えれば鍛えるほど貯蔵できる魔力、回復する魔力の量が増える。これから翠が獲物を襲って魔力を吸収し続ければ、翠の器官の絶対量、すなわち基礎魔力が増えていくのだ。これはありがたい。そうなれば、進化がもっと楽になる。自分の選択は大正解だったと、翠は喜んだ。


(浮かれるな。相手が現れたようだぞ)


ネイゼンが注意を促す。翠の前に、一匹の棍棒を持った小鬼が現れた。ネイゼンが教える。


(ゴブリンだな。常人よりは力が強く、簡易的ではあるが武器を使うだけの知恵もある。だが、魔力の方はないに等しい。食っても大した魔力は得られんだろう)


(なら、魔法を試してみます)


(ふむ……確かに、ゴブリンは初心者向けの相手だ。魔法の練習台にもちょうどいい。だが、魔力の方はどうだ?)


(一発撃つ分には回復してますよ)


翠の魔力の回復力は想像以上に早く、一発程度なら魔法を使えそうだ。


(よし。ではやってみろ!)


(はい!)


最初に使う魔法は、もう決めてある。ファイアボール。エリーが見せてくれた魔法だから、一番イメージがしやすい。


(火の玉……火の玉……)


強くファイアボールをイメージする翠。やがて彼の頭の中で、ファイアボールのイメージが固定された。


(これだ!!)


「ファイアボール!!!」


翠はファイアボールを唱えた。すると、翠の口から火球が発射される。大きさも威力もエリーほどではないが、ゴブリンを仕留めるには十分なパワーだった。


「ギャアアアアアア!!!」


ゴブリンはけたたましい悲鳴を上げると一瞬で火だるまになり、丸焦げになって絶命した。


「やった!」


(上出来だ。下級のモンスターなら、今ぐらいの魔法でも簡単に仕留められるぞ)


翠は初めて魔法が成功したことに喜び、ネイゼンからも称賛の言葉をもらった。いきなり成功するとは思っていなかったし、予想を下回ってはいたがかなりの威力だ。無事強力な武器を手に入れることができた。


(よし、次の相手に!と言いたいところですけど、魔力がすっからかんです……)


(少し眠って休め。眠りやすいようにわしもしばらく黙るとしよう)


魔力は一発分しか回復していなかったので、これ以上魔法を使うなら魔力を回復させる必要がある。翠は再び魔法が使えるようになるまで、近くの木陰に隠れて眠りについた。











数時間後、翠は目を覚ました。魔力は満タンだ。いつでも魔法を使える。一度進化しようかとも考えたが、やめた。こういうのは、数をこなして練習あるのみだ。余計な魔力の消費で、魔法の使用回数を減らしたくはない。再び徘徊を始める翠。ファイアボールは先ほど使ったので、今度はサンダーボールやウォーターボールなど、別の魔法を使ってみたい。と、


「!」


翠は進むのをやめた。この先に何があるかを、思い出したからだ。草むらに姿を隠しながら、注意して進む。やがて見えてきたのは、一本の大きな木。しかし、ただの木ではない。地面からあの木のものと思われる根っこが何本も突き出し、枝がせわしなくひとりでに動いている。今度はネイゼンに頼らず、スーパーサーチを使って木の正体を探った。


『肉食大樹 自分の近くに寄ってきた動物や人間を、根や枝を使って捕食する植物系モンスター。 弱点・火』


やはり、あの木の正体はモンスターだった。次の練習台は、あの肉食大樹に決めた。翠は草むらから頭を出すと、頭の中で強くイメージし、


「サンダーボール!!!」


口から雷の玉を放った。あのモンスターの弱点は火だと表示されたが、火の魔法はもう使ったので雷の魔法を使う。今度は見せてもらっていない魔法なのであまり強くイメージできず、ファイアボールほど強力ではないが肉食大樹にはきっちり命中した。


「ガァァァァァァ!!!」


すると、肉食大樹の幹に、巨大な目と口が出現する。肉食大樹は枝や根を使って獲物を捕らえると、あの口で食うのだ。無知時代からあの木のことは知っており、危険なので近付かないようにしていたが、今は状況が違う。


「グルルルァァァァァァァ!!!!」


翠に魔法をぶつけられて怒った肉食大樹は、その根と枝を伸ばし、翠を捕らえようとしてくる。


「ウォーターボール!!!」


翠はそれらに向かって、ウォーターボールを吐き出した。水の玉はイメージしやすいので、恐らく威力はファイアボールよりも上だろう。伸びてきた根や枝を全てへし折ったのだから。そのまま幹にも命中し、肉食大樹が苦悶の声を上げる。


「ウォーターボール!!!ウォーターボール!!!サンダーボール!!!サンダーボール!!!」


それから翠はウォーターボールとサンダーボールを何発も何発も放ち、肉食大樹を粉々に打ち砕いてしまった。


「やっぱり魔法ってすごいな。」


弱点属性ではないサンダーボールとウォーターボールでも、あんな大きなモンスターを倒してしまえた。初心者向けとは思えない威力だ。が、連発した代償は大きく、翠は魔力のほとんどを使い果たしてしまった。


「今僕が使えるのは、十発が限界か……」


肉食大樹を倒すのに使った魔法は、サンダーボールとウォーターボールをトータルして十発。それが、今翠が使える魔法の限界数。


「まぁこんなもんかな……」


魔法を連発したら、何だか疲れてしまった。そういえば、エリーは今どうしてるかな?魔宝樹の実でも取ってるのかな?そう考えながら、翠は眠りに落ちた。











再び目を覚ました時、翠は厄介な問題に悩まされていた。


「……お腹へった。」


空腹だ。そういえば、今日はいろんなことがあって、ご飯を全く食べていなかった。しかし、辺りは夜ですっかり闇の中。こうなると夜行性の生物を狙うしかないが、正直言ってかなり危険だ。この森は、昼間より夜の方が危険なモンスターが出る。無知時代も、夜ウロウロするのはできる限り避けていた。さてどうしたものかと考える。そして、思い出した。昼間ファイアボールで倒したゴブリンがいる。あれを食べよう。そう思った翠は、スーパーサーチを使って周囲を警戒しながら、ゴブリンを探しに行く。と、視界に、ゴブリンの死骸、と表示された。ようやくたどり着いた。無知時代があるため、肉食についてあまりグロいとかそういうことはない。ただこんな大きな獲物は初めてだったので、腕一本だけ食いちぎって飲み込む。美味かった。人間の頃なら無理だったろうが、焼き肉を食べている気分だ。まぁ、実際焼けているのだが。


(そういえば、基本生だったもんなぁ)


火など使ったことがなかった。そう思うと、自分は短期間でずいぶん成長したんだなと翠は思った。超進化の実、恐るべしである。


「ん?」


と、翠は気付いた。周囲に、何者かの気配を感じる。見てみると、翠は十匹を超えるゴブリンに囲まれていた。恐らく、仲間が戻ってこないので様子を見に来たのだろう。ゴブリン達は、全員が強い殺意に目をぎらつかせている。困ったことになった。十匹までなら、魔法で対処できるだろう。だが十匹以上だ。残ったゴブリンに、袋叩きにされてしまう。


(魔法じゃ無理だ!何か方法を……!)


翠はこの危機を打開する方法を必死で考える。魔法を使わず、ゴブリンを一網打尽にする方法を。


(……毒ガス?)


翠は、なぜこんなことを思ったのかわからなかった。しかし、なぜか敵を一掃する方法として、毒ガスを思い浮かべたのだ。迷っている暇はなかった。自分の直感を信じ、毒ガスが使えるようになりたいと強く念じる。


「ガァァァァァァ!!!」


飛び掛かってくるゴブリン達。全員が手に棍棒を持っている。あれで殴られたら、耐久力が普通の蛇レベルしかない翠はまず一撃で死ぬ。だが、その前に翠は進化を完了させた。


「ハァァァァァ……」


翠が息を吐くと、周囲に紫色の煙が立ち込める。それを吸ったゴブリンは、口から泡を吹きながら次々と倒れていき、一匹残らず全滅。思った通りの結果になった翠は、すぐに包囲から脱出する。その後ネイゼンを呼び出し、自分の能力について訊いた。


(毒の吐息だな。土壇場でそのような進化を思い付くとは、やるではないか。お前には戦いのセンスがあるようだ)


今使った技は毒の吐息と言うらしい。思い付いたのは本当に偶然だが、それでも翠には戦いのセンスがあるとネイゼンは褒めた。ちなみに今毒ガスの真ん中を通ってきたのだが、自分の毒で死ぬことはないということなのか、翠は何の苦痛も感じていない。だが、自分が毒ガス戦法を使われると困るので、毒に耐性のある身体に進化しておいた。そこで、翠の魔力が尽きる。何だかすぐ魔力がなくなってしまうが、翠は元々魔力など持たないグリーンスネークというモンスターだ。それに比べたら、翠の魔力はかなりある方だ。それに、全体攻撃技の習得と、体質強化というかなり強力な進化でもある。魔力は尽きて当然だ。


(もっとたくさん魔力が使えるようにならなきゃなぁ)


そう思いながら、翠は眠りについた。











翌日。翠は進化を使ってスーパーサーチの範囲を強化し、エリーを探し出した。新しい魔法の教授を乞うためである。


「やぁ。修行ははかどってる?」


「……まぁそれなりかしらね。それで?今度は何の用?」


「新しい魔法を教えて欲しいんだ。名前とイメージさえ教えてくれれば、あとは自分でやるからさ。」


「はぁ……いいわよ。それじゃあ今度は……」


エリーはめんどくさそうにしながらも、翠に魔法を教えてくれた。教えてくれた魔法は、プロテクションとリフレクションだ。防御魔法である。プロテクションは物理攻撃を防ぐバリアを身に纏い、リフレクションは魔法攻撃を防ぐバリアを身に纏う。この森に魔法を使ってくるモンスターはいないようだが、覚えておいて損はない。ゆくゆくは森の外に出て、もっとたくさんの未知なるモンスターと戦うことになるのだから。中級魔法も教えてやると言ってくれたが、魔力の消費が多そうなので今はやめておいた。再び魔法の練習相手を探して、森を徘徊する翠。リフレクションにはあまり世話にはならないだろうが、プロテクションには間違いなく世話になる。そう思っていた時、


「何だ、あれ。」


翠は奇妙なモンスターを見つけた。人間の子供くらいのサイズで、小さな羽を背中に付けた手足のひょろ長い醜悪なモンスターが三匹、踊っているかのように飛び回っている。翠はスーパーサーチを使い、この初めて見るモンスターを調べた。


『インプ 悪魔系モンスター。悪魔系モンスターの中では下級で力も弱いが、魔法を使うため常人にとっては脅威となる。使える魔法・ファイアボール、ファイアビーム、サンダーボール、サンダービーム、ウォーターボール、ウォータービーム。』


なんと、魔力持ちモンスターだ。しかも、使える魔法が結構多い。どうやら、リフレクションのお世話になりそうだ。相手は空を飛んでいるので、毒の吐息を使って落としたいところだが、まずはリフレクションの効果を試したい。翠は一番地面近くを飛んでいたインプに飛び掛かり、噛み付いて魔力を吸い取りながら、毒を送り込む。インプは数秒痙攣した後、息絶えた。翠の毒はモンスター相手でも有効らしい。これで残った二匹のインプが、翠を敵と定めて襲ってくる。


「キキッ!」「キキキィーッ!」


インプは片手の人差し指を翠に向け、光線を放った。一匹目は赤い光線で、二匹目は黄色い光線だ。あれが、ファイアビームとサンダービームなのだろう。しかし、ただで受けはしない。


「リフレクション!!」


魔法を弾く衣を纏う自分をイメージしながら、翠は魔法を唱える。すると、ファイアビームとサンダービームが、あらぬ方向に弾かれた。プロテクションやリフレクションの効果は一定時間で切れるが、それまでは高い防御機能を発揮し、重ね掛けすることもできるとエリーは言っていた。ともあれどれだけ強力かは理解できたので、翠は毒の吐息を使って早々に残りのインプを狩る。魔宝樹の実のように、死ぬと魔力が抜けてしまうかもしれないので、死ぬ前に素早く魔力を吸い取って、すぐその場を離れた。


「この森に魔法が使えるモンスターがいるなんてなぁ……」


ラッキーだった。メタモルスライムに比べると少ないが、翠にとっては自身の強化に必要な、貴重な魔力である。


「このまま進化しちゃおうか。」


気分がいいので、進化することにする。どうせ休めば、今吸収した魔力も含めて、総魔力がとんでもないことになるのだ。なら、進化した方がいい。それも、魔法に関する進化を。


(やっぱり、こういう進化がいいよね)


翠が選択したのは、魔法の消費魔力を少なくし、それでいて威力を向上させる進化。それから、魔法の精度を上げる進化だ。進化を果たした後、魔力にまだ余裕があったので、残りは自分の基礎能力を上げる成長に回しておく。すると、身体が一回り大きくなった。


「よし。これでまた少し強くなったぞ!」


もう少し進化したら、この森から出ようかな。そう考えて眠った翠だった。

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