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第二十八話 運命の出会い

「…がぁぁぁぁぁ!!!」


エレノーグは目の前の魔力文字の文を、手刀でかき消した。


「ナーシェラと……ジェイクが……!!」


魔獣将軍も翠に敗れた。これで六人いた魔将軍の半数が、翠に倒されたことになる。自分にとっての最高戦力が次々と落とされていくのは、エレノーグにとって耐え難い苦痛だった。


「くそっ!!櫻井翠め!!舐めた真似を!!モンスターの分際で!!」


悔しくてたまらない。相手は名の知れた英雄でも、決起した村民でもない。モンスター。人間以下の存在だ。しかし櫻井翠は、ただのモンスターではなかった。魔将軍を落とすことができる常軌を逸する力を持ち、なおかつ帝国に対して明確な敵意を持つモンスターだったのだ。


「くそぉ……!!」


せっかくラニア王国を潰せると思ったのに、逆にナーシェラを潰されてしまい、エレノーグはひたすら悔しがっていた。




同時刻、とある戦場。


「……」


魔弓将軍ブリジットはアブソリュートザミエルを構え、魔力の矢をつがえて放った。放たれた矢は空中で三十もの数に分身し、三十本とも全て敵の兵士に突き刺さり、絶命させた。と、ブリジットの背後から、敵のアサシン兵が音もなく忍び寄り、ブリジットに飛び掛かる。しかし、ブリジットは目にも止まらぬ速さでアブソリュートザミエルを振るい、アサシン兵を斜めに真っ二つにした。


「……足りない。」


自分に接近戦を仕掛けてきた不届き者を始末してから、再び戦場に視線を戻し、矢を放つブリジット。今度の矢は巨大な光線となり、着弾した瞬間に大爆発を起こして、敵を一掃した。


「足りなすぎる。」


ブリジットの強さに恐れをなし、敵兵はほうほうの体で逃げていく。戦う意思をなくした相手に興味をなくしたブリジットは、夜営地に戻っていった。


「いや~、さすがブリジット将軍!あなた様のおかげで我が軍は圧勝です!」


戻ってきたブリジットを、軍師が褒め称える。


「貧弱な連中だ。私が戦わずとも、お前達だけで制圧できた。」


「それはブリジット将軍が強すぎるからでございます。我々だけでは、制圧にあと何日掛かっていたか……」


今帝国が戦っている場所はラニア王国の次に敵の抵抗が激しく、早期制圧のためにブリジットが帝都からかり出されたのだ。結果は、見ての通りである。


「ところでブリジット将軍。そろそろ、妹様の婚礼が近いのではありませんかな?ご家族ですし、一度カーウェイン邸に戻られては?」


「……あれは強い子だ。私の存在などなくとも、うまくやるだろう。」


「そうおっしゃられずに。妹様、喜ばれますよ?ここはもう我々に任せて、お戻りを。」


「……仕方ない。お前達がそう言うのなら、戻ることにしよう。」


軍師に言われて、ブリジットは腰を上げる。


「……ここにいてもいい獲物には会えそうにないからな。」


そう呟き、ブリジットは馬に乗って一人、実家に帰る。











「ひゃっほぉ~!」


ラニア王国を出発した翠は、新しく手に入れた翼を広げて、空の旅を満喫していた。前世でも飛行機に乗ったことなどなく、ましてその身一つで空を飛ぶなど前世でも不可能だ。


「この分なら、すぐに着いちゃうかも!」


(浮かれるのはいいがな翠、そろそろ帝国領だ。気を引き締めろ)


(あ、はい)


ネイゼンに言われて、翠は気を引き締めた。エメラルドドラゴンのシーラがいるムルギー渓谷は、帝国領の真っ只中である。そこまでたどり着けばもう安心だが、たどり着ければの話だ。とはいえ、もう翠に勝てるような帝国兵は、魔将軍ぐらいなものだろうが。


(でも油断は禁物だよね)


巨大な弓で射られでもしたら、ひとたまりもない。翠は周囲を厳重に警戒しながら、見つからないようにできる限り低く飛ぶ。




そのまま飛び続けること一時間。


(遠いなぁ……このまま真っ直ぐ進めばいいはずだけど……)


目的のムルギー渓谷は、まだ影も形も見えない。ムルギー渓谷の近くには町があるので、着けばわかるそうなのだが……。


「ん!?」


と、翠は空中で急停止した。悲鳴のようなものが聞こえた気がしたからだ。それから、悲鳴が聞こえた方向に向かって飛んでいく。もしかしたら悲鳴を上げたのは帝国兵かもしれないが、確認をしておいて損はない。まずそうなら戦えばいいだけだ。




翠が見つけたのは、馬車だ。その周囲には、帝国兵と思われる鎧を着た兵士達がいる。思われるといったのは、帝国兵の反魔導アーマーと、少し形状が違っていたからだ。その帝国兵らしい連中は、スライムに襲われていた。しかし、ただのスライムではない。色は普通のスライムと同じだが、とてつもなく大きいのだ。馬車の三倍はある。翠はスーパーサーチを使い、そのスライムを調べてみた。


『ジャイアントスライム スライム系モンスターの突然変異種。高い再生力を持ち、巨体なため魔法攻撃も効きにくい。非常に獰猛で、大型のモンスターも取り込んで捕食してしまう。 弱点・火、または雷 吸収・水』


(突然変異種か……)


こんなモンスターは初めて見る。珍しさにまじまじと見ていると、


(あっ!)


翠は気付いた。既に、このジャイアントスライムというモンスターに、一人の女性が取り込まれていたのだ。脱出しようと必死でもがいているが、ジャイアントスライムが引き込んでいるからか手も足も出せず、口からは気泡が溢れている。周囲の兵士達は女性を助けようとしているが、いくら剣で切りつけようとすぐ再生してしまい、助けられずにいた。あのままでは、じきに窒息死するか溶かされて死ぬかするだろう。


(……うーん……)


翠は、女性を助けようか助けまいか、滞空しながら考えた。あの女性、間違いなく帝国関係者である。そう思ったのは、まず女性の格好からだ。ドレスを着て、アクセサリーを身に付けている。かなり高貴な服装だ。きっと身分の高い人間だろう。そしてそばにいる兵士達は、ほぼ確実に女性の護衛である。兵士達の鎧は、帝国兵の反魔導アーマーにあまりにも似すぎている。そして何より、ここは帝国の支配領だ。ともなれば、自分の敵を減らすためにも、あの女性は見殺しにするべきである。


(……)


しかし、本当にそれでいいのかと翠は考えていた。


(女だからって、甘く考えちゃ駄目だ。ブリジットっていう例があるじゃないか!)


女性はとても苦しそうだ。しかし、ブリジットという女性でありながら、恐ろしい性格の持ち主もいる。それを考えたら、やっぱりあの女性は見殺しにするべきだ。でも……


(翠、頼みがある。彼女を救ってくれ)


(ネイゼンさん?)


悩んでいた時、ネイゼンが話し掛けてきた。


(心配するな。彼女は敵ではない。わしの知る彼女のままなら、な)


(もしかして、知り合い?)


(ああ。だが、時間がない。とにかく、まずは彼女を助けろ。詳しいことは、彼女自身の口から聞けばいい。それでもしも、彼女までエレノーグに同調してしまっているようなら、殺してくれ)


(……わかりました)


何やら、訳ありのようだ。とりあえずネイゼンから指示を受けたので、実行することにする。翠はジャイアントスライムのそばに降り立った。


「うわっ!!グリーンドラゴン!?」


「何でこんな所に!?」


兵士達は驚いているが、構わない。さて戦う方法だが、ジャイアントスライムは女性を人質にしているので、炎で焼き払うということはできない。


(なら!!)


翠はジャイアントスライムの体内に右腕を突っ込み、女性を掴んで引きずり出した。バッグは首輪のようにピッタリはまる大きさになるように翠が自分を合わせているが、女性を片手で掴むだけの大きさは十分にある。それからスーパーサーチを使ってジャイアントスライムのコアの位置を見抜き、


「スケイルブレード!!」


スケイルブレードを左腕に生成し、正確に切った。コアを破壊されたジャイアントスライムは肉体を形成できなくなり、蒸発する。さて、これで敵は倒した。次は、女性の番だ。ジャイアントスライムの体液を飲み込んでしまったからか、かなり衰弱している。翠は女性を地面に寝かせて、身体に手をかざし、


「リカバリー!!」


中級回復魔法を唱えた。


「かはっ……!!」


女性は口から体液を吐き出し、少しの間咳き込んだ後、潤んだ目で翠を見た。


「お嬢様!!」


「待って!!」


兵士が女性を助けに入ろうとした時、女性が兵士を制し、自分で起き上がった。


「……助けて下さったんですね。」


「あ、いえ、まぁ……」


「ありがとうございます。」


翠はかなり歯切れ悪く返事をする。いつ攻撃されるかと、内心ヒヤヒヤものだ。


「モンスターとはいえ、お礼をしなければいけませんね。ここでは無理ですから、近くにある私の屋敷に来て下さい。」


「お嬢様……」


「大丈夫です。この方は、大丈夫。」


こうして、翠は女性の家に案内されることになった。女性は馬車に乗せられ、翠はその横を歩いてついていく。


「あなた、お名前はあります?」


「僕ですか?櫻井翠です。」


「まぁ。あなたがあの……」


どうやらこの女性、翠についていろいろ知っているようだ。


「あの……あなたは?」


「これは失礼しました。私はクリスティーナ・カーウェインと申します。」


翠が聞くと、女性は名乗った。と、名字に聞き覚えがあることに気付く。


「ん?カーウェイン?カーウェインってもしかして……」


カーウェインという名前。それにとても不吉な予感を感じ、クリスティーナは答えた。

「はい。イルシール帝国の魔弓将軍、ブリジット・カーウェインの妹です。」


翠は唖然とした。不吉な予感が、見事的中してしまったのだ。



しかし翠は知らなかった。彼女とネイゼンの、深い関係を。

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