第二十七話 竜vs竜
ジェイクは強かった。せっかくグリーンドラゴンに進化したというのに、全く勝てる気がしない。翠は確かに普通のグリーンドラゴンより遥かに強かったが、それでもジェイクの方が強かったのだ。
「どうした?俺が本気を出したらもうそれか?」
「私がいることも忘れないでもらおう。」
ナーシェラも攻撃してくるこちらの攻撃力はないに等しいのだが、翠の気を引くには十分だ。その間に、メインアタッカーであるジェイクが攻撃してくる。その上、この二人はソウルコントラクトで互いをカバーしている。魂の契約。破る方法は、契約している者同士を、同時に倒すこと。グリーンドラゴンに進化して火力は得たが、二人を同時に倒すタイミングに合わせるのはとても難しい。
「ハァァァ!!」
翠はナーシェラとジェイクに向かって、緑色の炎を吐く。だが絶妙なタイミングで二人はよけてしまい、ナーシェラの左半身とジェイクの右翼を焼くのが精一杯だった。
「グリーンドラゴンにブラックドラゴンを焼けるだけの炎は吐けないはずだが。」
「この辺りも、やはり普通のグリーンドラゴンではないな。」
ジェイクとナーシェラが瞬時に回復する。同時に攻撃したが、こんな程度のダメージでは駄目だ。一撃で、確実に二人を絶命させる。そんなダメージを負わせなければならない。だが、一応収穫はあった。ナーシェラとジェイクを同時に倒すために一番効率のいい攻撃方法は、炎だ。炎は攻撃範囲が広いので、もっと二人を密着させればいい。
(でもそのためには……)
しかし、まだ火力が足りない。今の炎ではナーシェラを灰にすることはできても、ジェイク相手では良くて黒コゲにする程度だ。もっと確実に、二人まとめて消滅させられる程度の火力が欲しい。そのためには、もっと進化しなければならないのだが、今の翠はグリーンドラゴンに進化した反動で、魔力が尽きてしまっていた。今全速力で回復してはいるが、完全回復しても火力を上げる進化をするには足りない。
(何とかして、魔力を得ないと!!)
「はぁぁっ!!」
翠は両腕のスケイルブレードを振るい、ジェイクに深手を負わせた。
「何度同じことを繰り返すつもりだ?」
しかし、ダメージは即座に回復してしまう。いや、今の一撃はジェイクから魔力を吸い取るために放ったのだが、ジェイクに魔力はないらしく、吸い取れなかった。
(だったら!!)
今度はナーシェラを狙う。ソウルコントラクトという強力な魔法を使ったのだから、ナーシェラは魔力を持っているはずだ。幸いにも、翠は遠くにいる相手からも魔力を吸い取れる。
「っ!!」
翠はナーシェラに手をかざし、吸魔を発動した。だが、
「ガァァァ!!!」
「ぐああああ!!」
魔力を吸い取る前にジェイクが炎を浴びせてきて、吸魔は中断させられてしまった。
「お前の狙いはわかっているぞ。ナーシェラの魔力を吸い取るのだろう?」
「残念だがそうはさせん。お前の手の内は、先ほどの魔導兵との戦いで見せてもらったからな。」
魔導兵。あの戦いで、翠は確かに吸魔を使っていた。ナーシェラとジェイクは、あの戦いを見ていたのだ。
「吸魔は使わせんぞ!!」
二人は再び翠を攻撃してきた。
*
ナーシェラとジェイクは帝国兵達を、砦から出撃させていない。単純に邪魔だからだ。いくらでも再生できる二人ならまだしも、帝国兵達はそうはいかない。余計な犠牲を出さないために、わざと出撃させていないのだ。一方、王国兵も手が出せない状況だった。王国兵側に、ソウルコントラクトを破ってナーシェラとジェイクを倒す方法はない。
「くそっ!俺達には何もできないのか!」
「このままじゃ翠さんが……」
王国兵達は次第に追い詰められていく翠を助ける方法を、必死で考える。
「ならせめて、こいつで奴らの気を引き付ける!!」
「よし!!俺も行くぜ!!」
「おっ、おい!!よせバカ!!」
その時、二人の銃兵が魔石銃を持って砦から飛び出し、
「喰らえ!!魔獣将軍!!」
「おらぁっ!!」
ナーシェラとジェイクに向けて撃った。
「むぅっ!?」
片方の銃兵が撃った魔石はナーシェラに命中し、火の魔法を発動して弾け飛んだ。
「ぐっ!!」
もう片方が撃った魔石はジェイクに刺さりこそしなかったものの、弾かれた瞬間に氷の魔法が発動し、氷の塊がジェイクを阻む。
「っ!!」
ようやく訪れたチャンスを無駄にはすまいと、翠はナーシェラの魔力を、さらに魔石の魔力を吸収する。さらにその勢いで進化し、ジェイクを殴り飛ばした。炎の火力が上がると、翠の能力も強化されるようである
「おのれ……だがまだ魔力を吸われただけのこと!!」
結局吸魔を使われてしまったが、倒せば問題ないと開き直り、再びジェイクとともに攻撃してきた。
「な、なぁ、今の、見たか?」
「ああ。今翠さん、魔力吸ってたよな?魔力を吸ってからいきなり強くなって……」
ここで、二人の銃兵は思い出す。そういえば、さっきも翠は魔導兵相手に魔力を吸収していた。魔力は目に見えるものなので、遠距離から魔導兵の魔力を吸収していたのを見ていたのだ。
「もしかして、もっと魔力があれば……」
「翠さんは、もっと強くなれる!?」
二人の頭に、打開策が浮かんだ。
「みんなーっ!!魔石銃と魔石を全部持ってきてくれーっ!!」
銃兵達は、残った銃兵と魔石銃、魔石全てを集めさせた。
「翠さん!!魔力です!!受け取って下さい!!」
「!!」
銃兵の声を聞いた翠はナーシェラとジェイクを殴り飛ばし、片手を銃兵達に向ける。銃兵達は魔石銃を一斉に掃射し、翠は発射された魔石全てを魔力に分解して吸収した。ナーシェラとジェイクはそれを妨害しようとするが、翠は邪魔してくる二人をことごとく殴り飛ばし、魔力を吸収していく。
「もう魔石はないのか!?」
「駄目だ!!全部使いきった!!」
やがて、魔石が尽きる。しかし、もう翠がパワーアップするには、十分な魔力がたまっていた。
(これで!!)
さらに進化した翠はナーシェラを掴みあげ、ジェイクに叩きつける。
「これで終わりだ!!!」
二人がまとまっているところに、最大火力の炎を吹き掛ける。
「馬鹿なぁぁぁぁぁ!!!」
「うおおおおおおお!!!」
ナーシェラとジェイクは断末魔を上げ、灰すら残らず消滅した。しかし、ナーシェラの持つ遺言の魔石だけは消滅せず、帝都に向かって飛んでいった。
「はぁ……はぁ……勝った……」
とはいえ、翠は戦いに勝利したのだ。魔獣将軍が、敗れ泡をくって逃げていく帝国軍が見える。
「はぁ……はぁ……」
疲れがどっと出た翠は、その場に崩れ落ちた。
*
次に翠が目覚めたのは、城下町の外だった。王国兵達が荷車に乗せて運んでくれたのだが、大きくて町の中までは入らず、仕方なく町の外に置いたのだ。それでもそのまま放置するということはせず、兵士が見張っていてくれた。目覚めた翠は自分のサイズを人間より少し大きいくらいまで小さくし、城に入って報告する。
「そなたのおかげで、魔獣将軍という巨大な戦力を落とすことができた。感謝する。それで、そなたさえ良ければ、このまま国に留まってはくれんか?」
「……いえ。僕はまだ、エレノーグを倒していません。エレノーグを倒すまで、僕は立ち止まれないんです。」
「……そうか……」
クライズは残念そうだった。せっかく翠という実力者が来てくれたのだから、国を守るために留まって欲しい。しかし、クライズは思い直した。
「……そうだな。そなたには、エレノーグ皇帝の打倒をやり遂げてもらいたい。ここで足止めしてはならん」
自分の国は自分の手で守るべき。そう考えて、クライズは翠を引き留めるのを諦めた。
「ところで、これからどうするかは決めておられるか?」
「……とりあえず、竜王種に進化したいと思っています。なので、魔力が豊富にある場所など教えて頂ければ幸いですが……」
グリーンドラゴンに進化した翠だが、これでもまだ全力のブリジットに勝てるとは思えない。ならば、やはり竜王種を目指すべきだと考えていた。そこまで一体どれだけの魔力が必要になるかわからないので、たくさん魔力が得られる場所に行きたい。
「……実は、こういう話を聞いたことがある。ドラゴン系モンスターは、自分の色に対応する色を持つ竜王種の鱗を取り込むことで、その竜王種になれると。」
「ほ、本当ですか!?」
これは驚いた。この話が本当なら、翠は魔力を集めなくても、竜王種に進化できる。翠はグリーンドラゴンなので、対応する竜王種はエメラルドドラゴンといったところか。竜王種の最弱種というのは少し気になるが、時間が惜しい今は贅沢を言っていられない。
「エメラルドドラゴンがどこにいるかわかりますか?」
「それなら、ムルギー渓谷にいるシーラを頼ってみるのはどうだろうか。」
「シーラ……」
その名前には聞き覚えがある。ネイゼンが言っていた、エメラルドドラゴンだ。竜王種は数が少なく、自由奔放に生きているため、どこかに留まったりはしないそうだが、シーラだけはムルギー渓谷に住みかを作り、そこにグリーンドラゴン達を招いて群れを作って生活しているらしい。
「じゃあ、そのムルギー渓谷に行きます。場所を教えて下さい」
目覚めた時にバッグは返してもらった。翠はバッグの中から地図を出し、クライズに場所を教えてもらう。さらにスーパーサーチを使うことで、どこにあるかわかった。
「ここって……」
「そう。ムルギー渓谷は、帝国の支配領にある。」
シーラはエメラルドドラゴンでありながら、竜王種最強のオニキスドラゴンを上回る力を持つ、全ドラゴン系最強のモンスターらしい。その強大な力と、グリーンドラゴン達を集めて築き上げたコミュニティーを使い、ムルギー渓谷や近隣の町村を守っているとのことだ。ムルギー渓谷とその近くは、既に帝国領内にありながら、帝国が支配できていない場所。つまりシーラに会いたいなら、敵陣の真っ只中を突っ切っていくことになるわけだ。
「……わかりました。でも、僕は行きます。」
「そうか。やはり、行かれるのだな。」
しかし、それでも翠は立ち止まらなかった。
「じゃあ、もう行きますね。たくさんの魔力、ありがとうございました。」
「こちらこそ、国を救って頂いて感謝する。」
魔獣将軍を退けたのだから、この国は当分大丈夫だ。翠はエメラルドドラゴンに進化するため、現在のエメラルドドラゴンであるシーラに会うために、ムルギー渓谷に向かって出発した。
グリーンドラゴン ドラゴン系モンスター。六種類存在するドラゴン系モンスターの中では最弱種だが、それでも人の手には余るほどの力を持つ。ドラゴン系モンスターは、さらに上に竜王種と呼ばれる六種類のドラゴンが存在しており、グリーンドラゴンに対応する竜王種は、エメラルドドラゴンである。




