第二十二話 方針
メハベル城。
「ええい!まだ櫻井翠の居場所は掴めんのか!」
エレノーグは玉座の間に、ひどくイラついた状態でいた。方々に軍や奴隷徴収隊を放って調べさせているが、翠の足取りは全く掴めていなかった。
「申し訳ございません。全力で手を尽くしているのですが……」
大臣がエレノーグを落ち着かせようとするが、エレノーグの苛立ちは増していくばかりだ。と、
「皇帝陛下。よろしいですかな?」
そこにナーシェラがやってきた。
「ああナーシェラ。どうした?櫻井翠の居場所がわかったのか?」
「いえ、それは全く。今日参ったのは、ラニア王国に出撃する許可を頂くためです。」
「……ラニア王国か……」
エレノーグは考えた。櫻井翠が見つからないのは気になるが、あの王国のことも気になる。ラニア王国。今帝国と戦争を繰り広げている国の中では間違いなく一番大きく、こちらの侵略も遅々として進んでいない激戦区。
「わかった。許可しよう」
だが魔将軍を、それも魔獣将軍ナーシェラを投入すれば、戦局は一気に帝国側が有利になるだろう。いい加減叩き潰そうと思っていた相手なので、エレノーグはナーシェラの出撃を許可した。
「ありがとうございます。」
「ああそうだ。魔導兵が三百人まで量産できたから、一緒に連れていってくれ。」
「三百人?二百人ではありませんでしたか?」
「量産が思ったより容易だったらしい。とにかく頼んだよ?私に逆らう馬鹿どもを、一人残らず叩き潰してくれ。」
「かしこまりました。」
出撃の許可をもらったナーシェラは、玉座の間を出ていった。
「量産が成功した魔導兵と魔獣将軍の投入。これはもう決まったかな?」
ニヤニヤと笑うエレノーグ。しかし、大臣はとても笑う気になどなれなかった。
(先代皇帝の時はこんなことになどならなかったのに、我々はなんということを……)
ネイゼンに続いて皇帝まで失ってしまった。大臣は自分の愚かさを恨むことしかできなかった。
*
ラニア王国に向けて旅を続ける翠。途中で現れるモンスターを瞬殺しながら、王国に向かって歩みを進める。
(僕もかなり強くなったよね)
先日倒したフォレストバブーンは、かなり強力なモンスターだったはずだ。それを難なく倒せたし、今なら帝国の兵士が何人かかってきても、負ける気がしない。そう、帝国の兵士なら。
(でも、ブリジットにはまだ勝てないだろうな……)
全力を出したブリジットと戦って、勝利を収めることができるだろうか。それに、魔将軍はまだあと四人いる。四人とも、きっと恐ろしく強いだろう。今の翠では、まだ勝てない。
(となると、もっともっと進化する必要があるよね)
それもただの成長ではなく、リザードソルジャーを遥かに超える基礎ポテンシャルを持つ種族への、存在進化。というわけで、この世界で最も強大な存在についてネイゼンに聞くことにした。
(それはやはり、ドラゴン系のモンスターだな)
(出た、ドラゴン系)
ファンタジーものの定番、ドラゴン。力の象徴。それは翠の世界においても、このデミトラシアにおいても同じだったようだ。
デミトラシアにおいて、ドラゴンは緑のグリーンドラゴン、黄のイエロードラゴン、紫のパープルドラゴン、青のブルードラゴン、赤のレッドドラゴン、白のホワイトドラゴン、黒のブラックドラゴンの七種類の色に種族分けされている。そしてその上に、さらに竜王種という存在がいる。この竜王種もまた、エメラルドドラゴン、トパーズドラゴン、アメジストドラゴン、サファイアドラゴン、ルビードラゴン、ダイヤモンドドラゴン、オニキスドラゴンの七種類に分けられている。
(その色の順番でいくと、黒のブラックドラゴンが最強ってことですか?)
(ああ。竜王種なら、黒のオニキスドラゴンが最強ということになる)
(……よし!)
翠は意を決して、強く念じた。
(オニキスドラゴンに!!)
何に進化したいか、その具体性さえあれば、翠はそれに進化することができる。オニキスドラゴンに進化したいと願えば、それに進化できるのだ。
だが、何も起きなかった。
(……うーん、まだ無理か……)
願うだけでなく、進化に応じた魔力がなければ、進化できない。ましてや今翠が進化しようとしたのは、デミトラシアの最強種だ。
(いきなり最強の竜王種になるなんて、そりゃ無理だよね。じゃあブラックドラゴンに!!)
次はブラックドラゴンに進化しようとするが、それも無理だった。それから次々に進化を試してみるが、どれも無理だった。
(じゃあ、グリーンドラゴンに!!)
最後に最弱のグリーンドラゴンに進化しようとしたが、それすらできなかった。
(今の僕じゃ、まだそこまで進化できないってことか……)
(気を落とすな。焦ってはならない)
足りないのなら、集めればいい。ドラゴンに進化できるように、翠自身がもっと成長すればいいのだ。
(じゃあとりあえず、今後の目標は竜王種ってことで!)
(うむ。あと言い忘れたが、竜王種は人間に変身することもできる)
(そうなんですか!?)
(昔エメラルドドラゴンに会ったことがあってな、名前はシーラというのだが、わしの目の前で人間に変身してみせた)
これはますます進化したくなった。人間を超える力を持ちながら、人間の姿になれるというのだ。目指さない理由がない。
(む……そろそろラニア王国に着くぞ)
ネイゼンに言われて見てみると、正面にとても大きな城が見えてきた。城下町もある。あれが、ラニア王国だ。
(ネイゼンさんは、あの国に行ったことがありますか?)
(うむ。王も民も善良な、とても良い国だ。そんな国が、帝国と戦争をすることになるとはな……)
(……エレノーグの暴挙は、僕が必ず止めます)
(頼んだぞ)
(はい)
翠は歩き続け、インビジブルを使ってから、城下町に入った。




