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第二十一話 森神

ヒルクの森の奥には、古ぼけた石造りの祭壇がある。森神は半年毎に真夜中、生け贄を木でできた棺に入れ、この祭壇に置けと指示してきた。生け贄を捧げたあとはすぐに立ち去り、自分の姿を決して見てはいけないとも言っているため、村人達は誰も森神の姿を見たことがない。今回はメイプルを棺に入れて祭壇に捧げるはずだったが、代わりに翠が棺の中に入り、村人達に担がれ、祭壇に来た。村人達は祭壇の上に棺を置くと、速やかに立ち去る。


(まず、第一段階クリア)


翠は息を潜めて、森神が来るのを待った。ここで気付かれては、せっかくの作戦が台無しになる。と、


(……来たな)


翠は何かが棺に近付いてくるのを感じた。モンスターなので、普通の人間より感覚が鋭敏なのだ。




棺の外では、人間より少し大きい三つの影が、祭壇の上に降り立っていた。


「くくくっ!今回もうまくいったな!」


「ああ。うまくいったうまくいった!」


「馬鹿な連中だ。守られたいがために生け贄を差し出すとはな」


三つの影は口々に言う。


「しかし、半年に一人じゃやっぱり少ないな。」


「少ないな。なぁ兄者、半年に一人じゃなくて、三ヶ月に三人の方がよかったんじゃないか?」


「そうじゃな。明日村長が祠に願掛けにきたら、そうするよう言ってみるか。」


翠の予想通りだった。森神であるらしい存在達は、生け贄の数と捧げるペースを上げるつもりでいる。


「しかし、そんなペースで食っとったら、村人を食い尽くしてしまうぞ?」


「構うもんか。そしたらまた別の村に行けばいいだけの話だ」


「それもそうか。今はイルシール帝国とかいう連中のおかげで、どこの村も同じようなものだからの。」


「では、そろそろ今夜分の生け贄を頂くとしようか。」


影の一つが、生け贄が納められている棺に手を伸ばす。



だが次の瞬間、翠が棺を破壊して飛び出し、近くの切り立った岩の上に飛び乗った。


「何だお前は!?」


「メイプル・トレイシーではないぞ!?」


「だましおったな!!」


困惑し、口々に叫ぶ三つの影。それらはやはり神などではなく、人間より少し大きい猿のモンスターだった。


「一人だと思ってたけど、まさか三人だったとはね。」


月光を背にして言う翠は、すぐスーパーサーチを使ってモンスター達の正体を調べた。


『フォレストバブーン 大量の魔力を浴びた猿が、モンスターへと進化した。非常に知能が高く、人間と会話したり、魔法を使うこともできる。雑食だが、一番好んで食べるのは人肉。使える魔法・ストロング、インビジブル、カオスウェイブ。』


生け贄を要求するわけだ。このフォレストバブーンというモンスター、好物は人肉である。


「けど守ってやるから生け贄をよこせだなんて、ずいぶんと汚い手を使うんだな。」


フォレストバブーンがやったことを批判する翠。だが、フォレストバブーン達は態度を改めるつもりなどなかった。


「汚い?人間どもが馬鹿なだけだ。」


「人間は愚かだ。多くを助けるために、少数を犠牲にすることが必要だと思っている。そこから集合体というものが崩れていくというのに」


「俺達はそこに漬け込んだだけだ。生きるために、愚かな連中を利用して何が悪い?」


「……お前らとことん外道だな。」


「黙れ!!」


フォレストバブーン達は翠を取り囲んだ。


「俺達の正体を知った者は生かしておけん。」


「お前には死んでもらう。」


「明日から村長に一月十人の生け贄を要求してやる。だました罰だとな」


「「「村を食い尽くしたら別の村に行けばいいだけだ。」」」


目撃者を消すため、フォレストバブーン達は翠に戦いを挑んできた。


「「「インビジブル!!」」」


次の瞬間、フォレストバブーン達の姿が消えた。


「「「カオスウェイブ!!!」」」


それから、謎の魔法を発動する。カオスウェイブは、特殊な魔力の波動を浴びせ、相手を混乱させる魔法だ。インビジブルで撹乱し、カオスウェイブで混乱させ、ストロングで自分達を強化して殴り倒す。一応フォレストバブーン達が村を守ってきたのは本当で、やってきた奴隷徴収隊やモンスターをこの連携で仕留めていたのだ。まぁ、奴隷徴収隊には反魔導アーマーがあるのでカオスウェイブは効かないが、インビジブルとストロングだけで何とでもなる。


「「「ストロング!!」」」


翠にカオスウェイブが効いたと思ったフォレストバブーン達は、三方向から一斉に飛び掛かる。



だが次の瞬間、翠は一回転し、しっぽの一撃でフォレストバブーン達を弾き飛ばした。



「なっ!?」


「がっ!!」


「ぐあっ!!」


地面に叩きつけられる三匹。


「スケイルブレード」


翠はそのうちの一匹の心臓にスケイルブレードを突き刺し、動かなくなってから引き抜いた。


「ば、馬鹿な!?」


「カオスウェイブが効いていないのか!?」


驚く二匹に、翠は答える。


「吸魔を使ったんだよ。」


翠はカオスウェイブという見慣れない魔法を見た瞬間、進化を行ってスーパーサーチを強化し、魔法や特殊能力などの詳細も調べられるようにした。強化したスーパーサーチを使ってカオスウェイブの特性を知った翠は、吸魔を全身に掛けてカオスウェイブを吸収し、無効化したのだ。当然今フォレストバブーンの一匹を攻撃した時も吸魔を使っており、魔力を吸い尽くされたフォレストバブーンはインビジブルもストロングの効果も切れてしまった。敵の動きも、スーパーサーチを使えば見ることができる。


「魔力を持つ者は僕にとって餌だ。どうかな?搾取される側に回った気分はさ!!」


翠は二匹目のフォレストバブーンもスケイルブレードで切り裂き、魔力を吸い取って倒す。


「俺達は、村を守っていたというのに……!!」


「そういうのは守るって言わないんだよ!!」


翠は残った一匹にもスケイルブレードを突き刺し、


「横取りって言うんだ。お前らは帝国が奪おうとしてた村人達を、横取りしてただけだよ」


魔力を吸い取って殺害した。











翌日、翠は無事ヒルクの村に帰還した。しかし、手ぶらではない。夕べ仕留めたフォレストバブーン三匹を、引きずっている。人々の目が集まる中、翠は既に絶命しているフォレストバブーン三匹を、村の中央に投げ捨てた。


「これがあなた達に生け贄を要求していた森神の正体です。あなた達はこいつらに自分の仲間を食わせていたんですよ!」


翠の言葉を聞いて、村人達は驚いている。


「あれが森神様の正体!?」「なんて恐ろしい……」「俺達はあいつらに生け贄を捧げていたのか!」


翠は続ける。


「これでわかったでしょう!?生け贄を要求するような存在にすがるのは間違いなんです!!こんな連中に頼らなくても、もっと信用できる人を僕は知ってます!!」


自分が一番信頼できる存在のことを、村人に言う。


「これから皆さんを、反乱軍に保護してもらいます!!」




翠は昨夜、長老から地図をもらい、反乱軍が奪回した砦とヒルクの村は、あまり離れていないということを知った。森神を倒した後は、この砦に保護してもらおうと考えたのだ。今砦に滞在しているフェリアと、翠は顔見知りである。翠の頼みなら、きっと聞き入れてくれるはずだ。間もなくして村人達の移住が始まり、一日掛けて砦にたどり着いた。砦はとても大きかったので、無事村人全員を収容することができた。


「フェリアさん、ありがとうございます。」


「いやいや。君がすぐ戻ってきた時は何事かと思ったけど、あんな事情があったのではね。」


翠の話を聞いたフェリアは、すぐ村人達を迎え入れてくれた。しかし、村人全員が入れる余裕があったのは幸いだった。


「翠お兄ちゃん!」


「翠さん!」


そこへ、イリスとメイプル達家族がやってきた。


「お姉ちゃんを守ってくれてありがとう!」


「私を家族のもとへ帰して下さって、本当にありがとうございます!」


「みんなが無事でよかった。」


その後、村人達の強い希望で、翠は一日だけこの砦で休むことになった。出発の前に、翠は小さなバッグをもらう。中には地図と薬草、それから干し肉などの食料が入っていた。村人達と反乱軍からの、せめてもの礼だそうだ。それから、次はどこへ行くべきかも聞いた。今回は行き当たりばったり走っていたことがいい方向に働いたが、いつもそうとは限らない。やはり、明確な目的地が欲しいのだ。次の目的地は、ラニア王国。今イルシール帝国との戦闘が一番激しいと言われている場所で、強い力を持つ者をたくさん欲している場所だ。


「こんなにたくさんもらってしまって、なんかすいません。」


「お礼がしたいって言っただろう?我々は協力を惜しまない。」


「……ありがとうございます。」


「最後に一つ聞かせてくれ。君はどうしてそこまで戦おうとするんだ?」


無償で人のために戦おうとする翠に、フェリアは尋ね、翠は答えた。


「人に信じてもらえる人になりたい。それじゃ駄目ですか?」


答えた翠は地図を見ながら、ラニア王国に向かって出発する。


「……信じるよ、私達は。」


その後反乱軍は、様々な国や町、村に翠のことを話して回ったという。



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