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第十九話 迷子

ウインドカッター 空気に干渉し、風の刃を飛ばす風属性の上級魔法。


アースクエイク 大地に干渉して地面を隆起させる、地属性の上級魔法。

「な、何だと!?」


メハベル城玉座の間。遺言の魔石の文を見て、エレノーグは驚愕していた。文の内容は、魔剣将軍ザイガスが翠に倒されたというもの。


「くそっ!櫻井翠め……!!」


またしても、エレノーグは会議を開くことになった。


「ザイガスが櫻井翠に倒された。」


「……ザイガスも……死んだ……?」


相変わらず間延びした声を出すゴーレン。ナーシェラがブリジットを睨み付けた。


「ブリジット、お前が悪いのだぞ。お前のせいで、櫻井翠を生け捕りにしなければならなかったから……」


つまり、ザイガスは手加減して戦いに臨んだわけだ。そんな戦いをして、超進化能力を持つ者を倒せるわけがない。本当は全力で戦って負けたのだが、ブリジットの悪癖を治すためにも、責める。


「私の獲物に手を出すからだ。それに、元々私はあの男が気に入らなかったから、死んでくれてせいせいしている。しかし櫻井翠、そこまで強くなったか……」


当のブリジットはザイガスの死などどこ吹く風で、むしろザイガスが死んだことを喜んですらいた。彼女の興味は既に、あの男にはない。興味があるのは、短期間でザイガスを討ち取れるほどに成長した、翠にあった。着実に自分にとって極上の獲物になっていっている翠のことを聞いて、ザイガスの死以上に喜んでいる。


「喜んでいる場合か!!こんな短い間に、帝国魔将軍が二人も討ち取られたんだぞ!?六大魔将軍が、四大魔将軍に減ったんだ!!お前はそのことについて何も思わないのか!?」


だがエレノーグにとっては、当然のことながら喜ばしい事態ではない。ザイガスまでも敗れ、帝国の戦力は大きく減少したのだ。


「だから何だというのですか。他国の有象無象など、私と他の魔将軍がいればそれで十分。」


「しかし」


「それより、あなたは自分の研究を優先すべきです。例の物が完成さえすれば、あなたはこの世界の神になれるのでしょう?なら他のことなど放置して、研究に打ち込めばいいではありませんか。」


エレノーグは黙らされた。今エレノーグは封印された闇魔法を復活させ、ある物を作っている。それさえ完成すれば、もう帝国すら必要なくなるのだが、それまでは帝国が必要だ。だから魔将軍が倒される度に、一喜一憂しているのである。


「相変わらずぶれん女だな貴様は。帝国の力が崩されているというのに」


ウィンブルはどこまでも自分の趣味を優先させるブリジットに、正直嫌気が差していた。


「文句があるならかかってこい。私は元々、帝国の繁栄などのために来たのではない。狩りがいのある獲物を、思う存分狩るために来たのだ。お前達では既に私の獲物足り得ない」


しかしブリジットが帝国最強であることも間違いではなく、戦えば誰も敵わないことは明白だった。


「時間の無駄だ。私にはまだ、他国を制圧するという仕事が残っている。老人会ならお前達だけで勝手にやっていろ」


付き合いきれなくなったブリジットは席を立ち、円卓の間を出ていった。


「……本当に自分勝手な女だ。」


「皇帝陛下。我々は櫻井翠を見つけ次第、即刻抹殺するということでよろしいですかな?」


ウィンブルは悪態を吐き、ナーシェラがエレノーグに確認を取る。


「ああ。私も急ぐので、櫻井翠がこれ以上進化する前に仕留めてくれ。」


結論を告げ、今日の会議は終わった。











メハベル城地下。ここには黒衣を着た研究者や魔法使いが多数集められ、ある研究が盛んに行われていた。会議を終えたエレノーグは、ここを訪れる。


「進行具合はどうだ?」


「皇帝陛下、お喜び下さい。魔導兵が完成しました」


「それは本当か!」


「はい。こちらへ」


研究者の一人がエレノーグを導く。その先にはベッドがあり、ベッドの上には一人の、恐らく人間が寝かされていた。ただの人間ではない。全身の肌が真っ黒で、生物の気配というものが全く感じられないのだ。


「皇帝陛下がお越しだ。起動せよ」


研究者が言うと、人間の姿をした何者かは目を開け、起き上がってエレノーグを見た。


「おはようございます、皇帝陛下。」


「ああおはよう。」


それは挨拶し、ベッドから降りる。研究者はそれに命令を下した。


「戦ってみせろ。」


「了解。」


研究者の命令に従ったそれは、近くにある剣を手に取り、素振りや激しい動きをしてみせる。それにエレノーグは感動していた。


「素晴らしい!これが魔導兵か!」


「はい。三日頂ければ二百人は量産できますし、皇帝陛下の命令には絶対服従します。」


「これで兵士不足は解消されるな。」


魔導兵。闇魔法の研究過程で生み出された、人造人間。現在帝国は世界中と戦争しているが、やはり兵力が足りない。それを補うため、エレノーグは魔導兵を再現させたのだ。


「ところであれは……超進化の実はどの程度完成している?」


エレノーグは本題に入った。


「……申し訳ありません。まだ三十パーセントほどしか……」


「……そうか……」


答えを聞いたエレノーグは、それがある部屋に行く。部屋の中央には小さな果実が一つ浮いており、それに向かって大量の魔力が注がれていた。


「超進化の実。櫻井翠が使うことで証明された。これさえあれば、私は神になれる……!!」


エレノーグは空中に浮かぶそれを見て、野心を燃え上がらせた。











エレノーグがこの世界を支配することに向けて、着々と準備を整えている一方、翠はというと……


「……どこだここ。」


迷っていた。速く走れるのが嬉しくて嬉しくて、考えもなしに走り回っている間に、翠はどこかの森で迷子になってしまっていたのだ。


「いや、土地勘なんてないから迷子もなにも、全然道とか知らないんだけどさ……」


それでもちょっとやりすぎたと、翠は反省している。


「しかし森かぁ……ずいぶんと懐かしいなぁ……」


翠はしみじみと思った。よくよく思い出してみれば、彼は森で蛇として生まれたのだ。それから自我を取り戻し、超進化の実を食べて戦う力を得、ネイゼンの啓示を受けて旅を始めた。そして今や、帝国魔将軍も倒せるリザードソルジャーだ。一ヶ月と少ししか経っていないのに、ずいぶんと成長したものである。


「……感傷に浸ってる場合じゃないよね。どこかに帝国に苦しめられてる村とかないかな?」


思い直し、翠は森の中を進む。今度はゆっくり歩いてだ。やみくもに走り回っても、迷うだけだと思ったからである。と、


「ん?何だ?」


何かの声が聞こえる。声を頼りに進んでみると、女の子がホブゴブリンに襲われていた。怪我をしているのか、逃げられないようだ。声はホブゴブリンの声だった。


「スケイルブレード!!」


翠は駆け出し、スケイルブレードを一閃、ホブゴブリンを真っ二つにした。


「あ……え……?」


女の子は何が起きたのかわからず、ただ泣きべそをかいている。そんな彼女に、翠はスケイルブレードを元の鱗に戻してから声を掛けた。


「もう大丈夫だよ。」


「ひっ!」


女の子は驚いて後退りするが、やはり足を片方怪我している。これでは逃げられない。


「こんな姿をしているけど、僕は君を食べたりなんてしないから。」


「……本当……?」


「本当だよ。僕は櫻井翠。君名前、教えて?」


「……イリス。」


「イリスちゃんだね。ヒール!」


「あっ……」


翠はイリスと名乗った女の子の足に手をかざすと、回復魔法を使った。他人に使ったのは初めてだが、うまくいった。


「おうちまで送るよ。」


翠はイリスを背負う。だが、はたと思った。


「……ごめん。僕、君の家知らなかった。」


翠は今絶賛迷子中だ。それなのに、他人の家なんて知るはずがない。と、


「……あっち。」


イリスは背負われたまま、正面を指差した。


「オッケー。じゃあすぐ着いちゃうから、しっかり掴まっててね……!!」


翠はイリスが指差した方向に、走り出す。


「わあ……!」


感じたこともない速さを身に感じて、景色がすごい速さで変わっていくのを見て、完全に警戒をといたのかイリスが声を上げる。


「ひゃっほー!!」


翠もまた、声を上げていた。

プロテクション 物理防御力を上げる補助系初級魔法。


リフレクション 魔法防御力を上げる補助系初級魔法。


ストロング 身体能力を上げる補助系中級魔法。

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