第十六話 反乱軍
ロルウェイに到着した反乱軍の援軍は、帝国軍に破壊された町の復興作業に掛かっていた。火が点けられた建物には水の魔法を使って火を消し、壊された施設は力を合わせて組み上げ、離ればなれになってしまった家族の捜索もし、戦死者達は手厚く弔った。翠も復興作業を手伝った。リザードソルジャーということで最初はみんな驚いたが、意志疎通ができるということ、復興を手伝ってくれるということで、快く迎えてくれた。
丸二日掛けて作業を続け、ようやく反乱軍の協力なしで町の復興ができるようになったところで、翠はボルドーと一緒に反乱軍のアジトに通された。
「フェリア!」
「ボルドーさん!よくぞ無事で!」
フェリアと呼ばれた青年はボルドーと握手し、生きて再会できたことを喜んでいる。
「幽霊船にも遭遇せず、うまくロルウェイにたどり着けたみたいだな!」
「そのことなんだが、君に話がある。」
ボルドーは、幽霊船騒動を引き起こしていたのが、イルシール帝国の魔霊将軍サザーラだったということ。翠のおかげで定期船が無事だったということ。サザーラが翠の手で倒されたということを話した。
「魔霊将軍を倒した!?不死のアンデッドモンスター軍団を、突破したというのか!?」
フェリアは驚き、アジト内がざわつき始める。六大魔将軍の一角が落とされたという話は、大きな波紋を生んだ。
「それで私は、彼を君に紹介したいと思う。彼も帝国と戦っているようだし、魔霊将軍を倒したのだから実力も十分だと思うんだが……」
ボルドーは本題に入り、翠をフェリアに紹介した。フェリアは翠に自己紹介する。
「私はフェリア・アルフェス。一応反乱軍のリーダーを務めている者だ」
「僕は櫻井翠。わけあってイルシール帝国と戦っている者です」
「なぜ帝国と戦っている?私が見る限り、君はモンスターだ。モンスターが帝国と戦うメリットは、ないと思うのだが?」
翠は少し黙った。反乱軍になら、聞かれると思っていたことだ。帝国の侵略と支配から人々を解放しようとしている者達だから、強い理由が必要になるだろう。並大抵の理由で協力したいと言っても、取り合ってはもらえないだろう。人助けがしたいから、と言ったら怒られそうだ。なので、彼が帝国と戦っている真の理由を語ることにする。
「……話す前に、約束して頂けますか?」
「何?」
「僕が今から話すのは、まともな人なら到底信じられないことです。作り話なんじゃないかと、疑われても仕方ないくらいに。ですが、全て真実です。あなたは僕の話を信じると、約束できますか?」
翠は念入りに確認した。エリーの時は信じてもらえたが、フェリアはどうかわからなかったから。フェリアは答える。
「ここにいる者は、全員が真剣に、命懸けで帝国と戦っている。そして君もまた、命懸けで帝国と戦ってくれた。その君が言うことなら、私は信じよう。他の者も、いいな?」
『はい!!』
フェリアは他の兵士全員に確認を取り、その上で信じると言ってくれた。そして翠は、自分が戦う理由の全てを語った。自分が元人間だということも、ネイゼンから啓示を受けたことも。
「……確かに、君が念を押してくれなければ、作り話としか思えないような話だな。だが、約束は約束だ。信じよう」
翠は一瞬不安になったが、フェリアは信じてくれた。
「しかし、やはりネイゼン将軍は亡くなられていたか……直接会ったことはないが、謀反などとても企てるような方ではない、良い将軍だったと聞いている。」
「今の皇帝が、エレノーグが仕組んだんです!」
「十分に考えられることだ。奴が本性を現した今ならな」
だが気付くのが遅すぎたし、今となってはもはやエレノーグを倒すしかない。
「早速入団テストを……と言いたいところだが、我が軍は今疲弊しているためあまり余裕がない。君がロルウェイを救ってくれたという功績で、合格としよう。」
「反乱軍には入れなくていいですよ。僕はただのいち協力者として、この世界を救いたいだけですから。」
「……感謝する。」
反乱軍に入るつもりはない。これはあくまでも、ネイゼンから啓示を受けた自分一人の戦いだと、そう思っているからだ。
「では、我々が次に攻める場所を攻略するための作戦を立てたい。」
「わかりました。」
「では、私はこの辺でおいとましよう。戦えない私がいても、邪魔にしかならないだろうからな。」
「いろいろお世話になりました。ありがとうございます」
「頑張ってくれよ。君のような存在は、私達の希望だからな。」
翠はここまで連れてきてくれたことに礼を言い、ボルドーと別れた。間もなくして、作戦会議が始まる。テーブルの上に地図を広げ、フェリアは指差した。
「ここがロルウェイの町。ここから北に十五キロほど離れた場所に、砦がある。」
この砦は以前反乱軍が所有していた場所だが、帝国軍に敗れて奪われ、捕虜となった者も三十人ばかりいるらしい。ここを敵の手から奪回したいそうだ。
「砦は重要な戦闘拠点だからな。兵士も結構いるし、新型の装備もかなり配備されている。」
翠はまだ行ったことがないのでわからないが、警備はかなり厳重そうだ。反乱軍としては捕虜を一刻も早く救いたいのだが、これでは思うように手が出せない。
「だが、もう一つ手が出せない理由がある。明日この砦に、魔剣将軍ザイガスが訪れることがわかったからだ。」
「!!」
翠は衝撃を受けた。魔剣将軍ザイガス。魔弓将軍ブリジットや、魔霊将軍サザーラに並ぶ、イルシール帝国六大魔将軍の一角。それが明日、この砦にやってくる。
「目的は軽い査察ぐらいのものだろうが、こちらとしては六大魔将軍の一角を落とすチャンスだ。」
反乱軍は、この魔剣将軍を倒すために、時期を待っていたのだ。砦の奪回と、ザイガスの撃破を同時に行うために。
「このザイガスの撃破を、君に行ってもらいたい。」
フェリアは翠に、ザイガスの撃破を任せたいと言った。ザイガスは六大魔将軍の一角らしく、戦闘力が非常に高い。質でも量でも帝国に劣っている反乱軍では、この魔将軍撃破が最大の壁となるのだ。
「同じ魔将軍のサザーラを倒すことができた君なら、ザイガスも倒すことができるはずだ。やってもらえるか?」
しかし、反乱軍は希望を得た。魔霊将軍サザーラは、不死身の軍団を操る。サザーラが生きている限り、アンデッドモンスター達は何度でも蘇る。不死の軍団を突破し、サザーラを倒すことが唯一の手段だが、今まで誰も成し遂げることができなかったからこそサザーラは脅威だったのだ。が、翠はそれを突破してサザーラを討った。サザーラに勝てるなら、ザイガスにだって勝てるはず。そう思ったのだ。魔霊将軍を倒してすぐ、魔剣将軍の相手をしなければならない。翠はそう思ったが、翠にとっても悪い話ではない。エレノーグに挑めば、必ず魔将軍とは戦うことになる。一度に全員相手にするより、一人一人確実に倒した方が効率的だ。
「わかりました。やらせて下さい」
なので、翠は引き受けた。
数時間後、翠を仲間に加えた反乱軍は、捕虜の奪回と魔剣将軍撃破のため、準備を整えて砦に出発した。