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第十四話 魔霊将軍

グリーンスネーク 爬虫類系モンスター。何メートルにも成長し、力も強く、巨大な獲物でも巻き付いて締め上げ、噛み付いて毒を送り込み倒してしまう。

定期船から少し離れた幽霊船の甲板。


(アンデッドモンスターどもの再生が遅い……?)


サザーラは、アンデッドモンスターが一掃され、しかも復活が遅いことに気付いていた。彼女はソウルマスターと一緒に、フィアーズミストという闇魔法を発動している。これもソウルマスターと同じく範囲型の魔法で、周囲に濃霧を発生させる魔法だ。無論ただの霧ではなく、霧を発生させた術者からは周りの風景が丸見えで、しかも霧の中で起こったことは何でも知覚できる。撹乱と空間把握の魔法であり、よくソウルマスターと重ねて使う。霧の中からアンデッドモンスターの集団に襲わせることで、相手を恐慌状態にし、精神を乱す効果もあるため、重宝しているのだ。アンデッドモンスター達が今どういう状態にあるかも、確認することができる。と、


「む!」


霧の向こうからホーリーライトが飛んできたのに気付き、かわす。


「やはり貴様だったか。光魔法が使えたとはな」


霧の向こうからやってきたのは、ホーリーライトを使った翠。


「見つけたぞ。観念しろ!」


翠は続けて、ホーリーライトを連射し、サザーラはかわしていく。


「帝都からの連絡で聞き及んでおるぞ。貴様、ブリジットの小娘を退けたそうじゃな?なかなかやるではないか。」


翠は知らないことだが、帝国は通信の魔石という魔石を開発している。登録した者同士で、遠方でも会話ができるという、携帯電話のような魔石だ。この魔石を通してエレノーグから翠のことを、翠がブリジットを追い払ったことを聞いている。


「だがなグリーンスネークよ。わしをあの小娘と同じだと思うと、死ぬぞ?」


「ホーリーレーザー!!」


翠は攻撃をいくらでもかわしてしまうサザーラを倒すため、ホーリーレーザーを使った。だが、サザーラが片手をかざすと、翠の魔法は受け止められてしまう。


「貧弱な魔力じゃのう。いくら光魔法が使えるとはいえ、魔法でわしと勝負するつもりか?」


今サザーラは、片手に魔力を集めて翠の魔法を弾いただけだ。しかし、翠の魔法は普通の魔法使いと比べると、かなり強力なのである。そんな方法で防がれるなど、初めてのことだ。強力な闇魔法を二つも長期に渡って展開できるほどの魔力量なので、そんなサザーラから見れば、確かに翠の魔力は貧弱だろう。


「なら直接!!」


翠は素早くサザーラに飛び掛かり、噛み付いた。しかしサザーラの姿は消えてしまい、翠の牙は空を切る。


「フォッフォッ。悪いがそっちの方はからっきしでの」


気付けば、サザーラは翠から少し離れた場所に移動していた。


「代わりの相手を用意してある。それで我慢してくれ」


サザーラが指を鳴らすと、新たに二体のアンデッドモンスターが現れ、サザーラはまた姿を消した。翠はすぐ、スーパーサーチで調べる。


『ゴーストアーマー 古い鎧に邪悪な魂が憑依し、アンデッドモンスターになった。スケルトンと同系統のモンスターだが、鎧であるためスケルトンより頑丈。 弱点・光』


『ブラッドアーマー 古い鎧、それも大量の血を浴びたものに邪悪な魂が憑依した、ゴーストアーマーの上位種。多くの人間の無念が宿った血を浴びているため、パワー、スピード、防御力、全てにおいてゴーストアーマーを凌駕している。 弱点・光』


現れたのは、RPGによくある、動く鎧に該当するアンデッドモンスターだった。


「お前達の相手をしている暇はない!!ホーリーライト!!」


翠はすぐホーリーライトを使って攻撃したが、ゴーストアーマー達は盾を使って防いだ。しかし、それによって盾の怨念が晴らされたからか、盾が砕け散る。それから今度は胴体にホーリーライトを当てたが、一発では倒せなかったので、ホーリーレーザーを使ってようやく倒した。だが、もたもたしていると復活してしまう。さっき全滅させたアンデッドモンスター達も、もう復活してまた定期船を襲い始めている頃だ。


「足りない。僕がサザーラを倒すには、時間が圧倒的に足らない……!!」


せめて、アンデッドモンスターを倒しながら、サザーラを倒せるくらいに、強くて速かったら。翠はそう思った。


「……」


そして翠は決意する。人間以上に強くて速い存在への、進化を。


(翠。存在進化をするのか?)


(はい。決めました)


ネイゼンが確認する。存在進化。それは、全く違う種族、生物に進化すること。とはいえ、今までにない大掛かりな進化なので、どう進化したらいいかわからない。かなり魔力を使ってしまったので、成功するかどうかもわからない。だが、とにかく願った。可能な限り強く、そして速い存在への進化を。











超進化の実を使った存在進化。それは魔力を消費して、望んだ生命体に進化すること。何の種族に進化するか、具体的な希望があるならそれに進化するが、ない場合は、魔力に応じて自分の希望する力を持つ存在に進化する。



翠は光に包まれ、光が消えた時、進化を終えていた。最初に目に入ったものは、手。鋭利な爪が生えた、手。それから、足。


「……トカゲ?」


そう、トカゲだ。二本足で立つ、トカゲ人間に変身していたのだ。それもただのトカゲ人間ではなく、手足が筋肉質で、とても屈強だ。と、目の前のゴーストアーマーとブラッドアーマーが再生した。その瞬間に、翠の頭の中に、電流のようなものが流れてきた。そして理解した。進化した、この新しい身体の使い方を。翠が片手を伸ばすと、一瞬で鱗が変化し、鋭利な刃になって横に伸びた。


「スケイルブレード」


そして、素早く一閃、横に振る。あまり力を入れてないのに、それだけでゴーストアーマーとブラッドアーマーが輪切りになった。力も攻撃力も、申し分なし。次は、スピードだ。スーパーサーチを使って、サザーラの居場所を探る。


「いた。」


三百メートルほど離れた先に、サザーラがいた。用心深く、自分の周囲を多数のゴーストアーマーやブラッドアーマーに守らせている。久々の手足の感覚に戸惑いながらも、力を入れ翠は駆け出した。三百メートルも離れた距離を、途中の幽霊船をいくつも飛び越えながら、一瞬でサザーラとの距離を詰めた。


「なっ!?」


サザーラは驚きながらも近くにいたゴーストアーマーを突き飛ばし、翠にぶつけようとする。しかし翠は右腕の武器、スケイルブレードで、ゴーストアーマーを容易く真っ二つにした。


「き、貴様……リザードマン……いや、リザードソルジャーか!!」


サザーラも当然、進化については察している。だが、進化した翠の戦闘力とスピードには驚いた。実は、翠も驚いている。


(しかしあれだけの距離を一瞬で詰めるとは……リザードソルジャーでもあれほどのスピードは出せんぞ!?)


リザードソルジャーは、リザードマンの中でも特に直接戦闘力に秀でたモンスターで、鋭利なスケイルブレードを使った攻撃と、スピードに優れている。しかし、あれだけの距離を一瞬で詰めるようなスピードは、リザードソルジャーでもあり得ない。それに、ゴーストアーマーやブラッドアーマーを一刀両断できるスケイルブレードの切れ味も、はっきり言って異常だ。


(そうか!!こやつ……今までの進化で上昇した身体能力を、そのまま引き継いでおるな!?)


サザーラの予想は当たっている。進化しても、それまでの進化で手に入れた能力や魔法が、失われることはない。存在進化した場合、進化した存在に今まで成長させた能力が上乗せされるのだ。翠はグリーンスネークの段階でかなり能力を強化していたので、それがリザードソルジャーに進化した際上乗せされ、結果、リザードソルジャーにはあり得ないほどの能力を得たのだ。鱗の頑丈さも、パワーもスピードも、進化前の全てが上乗せされている。


「くっ……」


「逃がしはしないぞ。お前には、死者を弄んだ罪を償ってもらう。」


翠は怒っていた。サザーラが死者を弄んだからだ。自殺した経験がある故に、死の恐ろしさは身に染みてわかっている。だからこそ、その恐怖を弄んだサザーラだけは、絶対に許せないのだ。


「な、生意気な!!何をしておるお前達!!さっさとこやつを殺さんか!!」


サザーラが号令を掛けると、七体ものブラッドアーマーが、翠の周囲を取り囲む。だが次の瞬間、翠はたった一振りで、ブラッドアーマーを全滅させてしまった。


「ぐぬぬ……ならば!!」


サザーラの姿が消える。その後、翠の周囲に他のアンデッドモンスター達が迫ってくるのが見えた。全てのアンデッドモンスターを、翠を倒すために集結させているのだ。翠は左腕にもスケイルブレードを出現させ、イメージを思い浮かべる。聖なる光を、ホーリーライトをスケイルブレードに纏わせるイメージを。


「ホーリーブレード!!!」


次の瞬間スケイルブレードが光を纏った。ホーリーライトの力を纏ったスケイルブレードを使い、襲ってくるアンデッドモンスターを、音速に迫る速度で切り刻んでいく。ホーリーライトの力を纏わせているので、物理攻撃が効かないゴーストも切っている。戦いながら、翠はスーパーサーチでサザーラの居場所を探った。サザーラが姿を消したのは、恐らく瞬間移動の魔法を使っているからだ。しかし、ネイゼンから聞いたのだが、範囲型の魔法は術者が一定範囲内にいないと効果が切れてしまう。つまり、サザーラはあまり遠くまで逃げることはできないのだ。


「見つけた!!」


今度は六百メートルほど離れた場所に、サザーラがいる。奴さえ倒せば終わるので、無視して翠は駆ける。先ほど以上の速度で、走り、飛び越え、またしても一瞬で距離を詰めた。


「今度は……」


サザーラの姿が、能力なしの目視で確認でき。サザーラは驚愕に目を見開き、


「お前が死ぬ番だ!!!!」


翠はサザーラを横に真っ二つにした。


「櫻井、翠……!!」


サザーラは懐から遺言の魔石を取り出すと、


「皇帝……陛下……!!」


天空高く放り投げてから息絶えた。遺言の魔石は光となり、帝都に向かって飛んでいく。と、今まで戦っていたアンデッドモンスター達が、次々と塵に還り始め、翠が今いる幽霊船も沈み始めた。ソウルマスターが解かれ、幽霊達が成仏しているのだ。このままでは幽霊船の沈没に巻き込まれてしまうため、翠は急いで定期船に戻った。











進化して戻ってきた翠にみんな驚いたが、苦戦はしたものの翠のおかげで一人の死者も出さずに済んだので、全員が翠を温かく迎えてくれた。




そして、船長室。


「騒動を起こしていた魔霊将軍サザーラは、僕が倒しました。これでもう、幽霊船に船を沈められることはないはずです。」


「……そうか。帝国の犠牲になった死者達、そしてこの定期船のクルー全員を代表してお礼を言わせてもらう。ありがとう!君のおかげで海は救われた!」


翠はサザーラを倒せたことを報告し、ボルドーは翠に礼を言った。これでまたこの海域は、以前のようにたくさんの船が通れるようになるだろう。


「どうかね?港についたら、私と一杯。」


「いえ、お気持ちだけで十分です。僕はまだ旅の途中ですし、帝国の被害に遭っている所を一つでも多く、一刻も早く救わないと。」


「そうかね?それなら、反乱軍と合流してみるといい。」


「反乱軍?」


「帝国と戦い続けているレジスタンスだ。戦況は劣勢気味だから、君ほどの実力者なら喜んで迎え入れてくれる。ちょうどこれから行く港町ロルウェイは、反乱軍の駐屯地になっているから、私が君のことを紹介しよう。」


「よろしくお願いします。」


反乱軍。そういえば、思いつきもしなかった。きっと、帝国と戦っている者達もいるはずだ。そういう人達には、ぜひとも力になりたい。そう思っていた時だった。


「船長!!大変です!!」


副船長が飛び込んできた。


「どうした副船長?騒々しいぞ。トラブルなら、ついさっき幽霊船団を退けたばかりだろう。」


「ロルウェイの町が、帝国軍から襲撃を受けています!!」


「何だと!?」


それを聞いたボルドーと翠は、副船長の案内を受けて船長室から飛び出した。











定期船は快調に進み、入港先の港町ロルウェイが見えてきた。だが、ロルウェイの建物のあちこちから火の手が上がり、黒い煙が立ち上っている。ボルドーは双眼鏡を使い、町の様子を見た。町のあちこちを兵士が走り回り、帝国の紋章が描かれた旗が立てられている。


「間違いない。帝国軍め、港を押さえにきたか……!!」


「船長、どうしますか!?」


このままだと、定期船は帝国軍に襲われてしまう。


「……僕が何とかします。もう少しだけ港に近付いたら、そこで止まって下さい。僕が帝国軍を片付けたと合図するまで、絶対に町に近付いてはいけません。」


「わ、わかった。」


ボルドーは翠の指示通り、船を二百メートルだけ、港に近付ける。


「ストロング!!」


翠は身体能力強化魔法を唱えて下がり始めた。


「おい!何する気だ!?」


船員の一人が訊くと、翠は答えた。


「飛び移ります!!」


翠は船尾までいくと、全速力で助走をつけ、港町ロルウェイに向かって飛んでいった。

リザードソルジャー 爬虫類系モンスター。リザードマンの上位に当たる種族で、リザードマンより力が強く、スピードも早い上に、鱗も鉄の鎧と同じくらい頑丈。腕や足から、鱗を刃状に変質させ、さらに高質化したスケイルブレードという武器を生やす。通常の鱗より遥かに硬く鋭利で、騎士の剣と同程度の切れ味がある。

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