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第十三話 幽霊船

このままでは幽霊船と正面衝突してしまう。


「すぐにかわせ!この海域から離脱しろ!」


「はっ、はい!」


ボルドーの号令で我に返った操舵手の船員は、すぐに舵をきって、幽霊船が出没しているこの海域から離脱しようとする。なんとか衝突する前に、幽霊船を回避することができた。しかし、


「なっ!?」


船員は驚愕した。逃げた先の霧の中から、もう一隻幽霊船が現れたのだ。それをかわしても、また一隻。それをかわしても、さらに一隻。次々と幽霊船が現れ続け、気付けば定期船は大量の幽霊船に包囲されていた。


「幽霊船は一隻だけではなかったのか……!!」


「幽霊船団……!!」


ボルドーと翠は呟いた。幽霊船が出るという話は聞いていたが、実際に遭遇したのはボルドーも初めてで、それもこんなにたくさんいるとは思っていなかった。操舵手の船員は、震えながらボルドーに訊いた。


「船長。俺ら死ぬんですかね……?」


その目は絶望に染まっていた。多くの船を沈めてきた幽霊船が、一隻のみならず群れを作って現れたのだから、怖いに決まっている。


「縁起でもない!まだ我々は生きているだろう!諦めるにはまだ早い!」


「でもこんなたくさんの幽霊船、一体どうしたらいいっていうんですか?ああ、やっぱり俺今日死ぬんだ……嫌だ……死にたくねぇよぉ……」


ボルドーは船員を励ますが、これだけたくさんの幽霊船団を相手に、どうしたらいいのかわからないのもまた事実。船員は恐ろしさに頭を抱えてうずくまってしまった。


「ボルドーさん。とりあえず、僕が幽霊船団の迎撃に出てみます。連中はいくら沈めても構いませんよね?」


「ああ。やってくれ」


ボルドーから許可をもらった翠は、甲板へ上がっていく。


「さて、彼だけに任せておくわけにもいかない。乗客の安全を最優先に!乗客を全員広間に集めて、クルーを集中させろ!それから、絶対に一人も単独行動させるな!」


「はっ!」


ボルドーは副船長に命じて、行動に移らせた。











甲板に上がった翠。そこには既に、定期船の護衛が全員集中していた。


「翠さん!」


「とにかく全員で攻撃します。幽霊船を一隻でも多く沈めるんです!」


「わかりました!」


翠が護衛に指示を出す。



その時、



「フォーッフォッフォッ!勇ましいことじゃな!もう少し怖がってくれてもいいんじゃよ?」



しわがれた女性の声が聞こえた。気付くと、正面から一隻の幽霊船が近付いてきており、その船首に一人の老婆が杖をついて立っているのが見えた。


(幽霊船を操っている!?この人、ただ者じゃない!!)


老婆の仕草は、まるで幽霊船を操っているかのようだった。いや、幽霊船に平然と乗っている時点で、もう普通の人間ではないだろう。翠は尋ねた。


「お前は何者だ!!」


「わしはサザーラ。サザーラ・ギリーグ。皇帝陛下から魔霊将軍の地位を賜った者じゃ」


「魔霊将軍!?」


これはまた、とんでもない大物が出てきた。まさかこんな短期間に、二人目の六大魔将軍と出会うとは。と、翠はサザーラの称号を聞いて、一つ、あることに気付き、サザーラに聞いた。


「幽霊船騒動を引き起こしていたのは、お前だな!?」


「いかにも。わしの闇魔法で船を沈め、幽霊船団を作っておったのよ。」


「やっぱり……!!」


幽霊船事件の犯人は、サザーラだった。サザーラはまず適当な船を沈めてそれを幽霊船として復活させ、その後この辺りを通る船を襲っては沈め、襲っては沈めを繰り返し、次々に幽霊船を増やしていたのだ。今翠達が見ているのは、そうやってサザーラが沈めた船の幽霊船なのだ。


「イルシール帝国は未だに制海権を手中に収めておらん。そこで、わしがその制海権を得るためにかり出されたというわけよ。幽霊船を使ってまず海を押さえ、次に港を押さえて完全に海を制する。そうなれば世界各国との戦争は、限りなく帝国に有利に働くのじゃ。」


「そんなこと、させない!!」


翠の目の前に、炎の玉が出現する。しかし、サザーラはそれを片手で制した。


「おおっと!わしの相手ばかりしていていいのかの?ほれ!周りをよく見てみい!」


「えっ?ああっ!」


サザーラに言われて気付いた。周囲の幽霊船は、翠が気付かないようにゆっくりと近付いてきており、そして気付いた時には、もうぴったりと定期船に密着していたのだ。定期船に密着した幽霊船は、三隻。その三隻全てから板が掛けられ、敵が乗り込んでくる。それも人間ではなく、武装した骸骨だったり、全身が腐った動く死体だったり、半透明で空中を浮いている幽霊だったり、全員モンスターだ。翠はスーパーサーチを使い、モンスターを調査する。


『スケルトン 白骨死体が負の力を浴びて動き出したアンデッドモンスター。基本的に力は弱いが、身体を完全に破壊しきるまで抵抗し、武器や防具などで武装している者もいる。 弱点・火、または光。』


『ゾンビ 死体が負の力を浴びて動き出したアンデッドモンスター。痛覚がないため、頭を潰すか魔法で全身を消し飛ばすかしない限り、いつまでもいくらでも襲い掛かってくる。 弱点・火、または光。』


『ゴースト 死した者の魂が、何らかの理由でこの世に縛られ、アンデッドモンスター化した。魂だけの存在で実体がないため、物理攻撃はほぼ効果がなく、どんな材質の障害物もすり抜け、生きる者に取り憑いて、魂を吸い取る。弱点・光』


どれも名だたるアンデッドモンスターだ。


「素晴らしいじゃろう?闇魔法で魂や死体を操り、不死の軍団を率いる。故にわしは魔霊将軍と呼ばれておるのじゃ!」


霊を操る将軍。魔霊将軍とはよく言ったものである。


「さて、一通り秘密は喋ったし、貴様らを生かして帰す理由は消えたのう。」


「僕達は死なない!!ファイアブラスト!!」


翠は幽霊船の一隻目掛けて、ファイアブラストを撃った。アンデッドモンスター達を巻き添えに、幽霊船が爆発する。しかし、炎は消え、破壊された幽霊船、焼き尽くされたアンデッドモンスターは、全員元に戻った。


「何!?」


「無駄じゃ無駄じゃ!!わしは今、ソウルマスターという魔法を使っておる!!」


ソウルマスターとは、周囲にある死体や魂をアンデッドモンスター化して、操る魔法である。そして、この魔法が発動している間、操られているアンデッドモンスターを倒しても、復活してしまうのである。


「この船の乗客を救いたかったら、わしを倒すことじゃな!!フォーッフォッフォッ!!」


しかし、この魔法は術者を倒せば解ける。それを阻止するため、サザーラは空中に浮かび上がり、濃霧の彼方に消えていった。


(ネイゼンさん。魔霊将軍について、何か弱点みたいなものはありませんか?)


翠はネイゼンを呼び出し、サザーラの弱点について訊いた。属性的な弱点ではなく、技能的な弱点である。前者の弱点ならスーパーサーチで見抜けるが、後者の弱点はスーパーサーチではわからないからだ。


(……すまんが、協力できそうにない。何せわしが将軍に就いていた頃は、魔霊将軍などいなかったからな)


ネイゼンが生きて将軍の座にいた頃、イルシール帝国には魔剣、魔槍、魔斧、魔弓、魔獣の五人の将軍しかいなかったそうだ。魔霊の称号はネイゼンの死後新しく追加されたもののようで、どう対処したらいいかはさすがのネイゼンでもわからない。


(だが、奴は闇魔法と言っていた。闇魔法が相手なら、光魔法が有効なはずだ)


この世界には様々な属性の魔法がある。だが闇属性の魔法だけは、あまりに強力で凶悪で危険で、非人道的だったため、封印された。闇属性はあらゆる属性の魔法を凌駕し、破壊力ナンバーワンの火属性の大魔法でも、闇属性の初級魔法には勝てないという、大きすぎる力の差がある。これに唯一対抗できるとされているのが、闇属性の対となる属性、光属性だ。その力は、闇属性とほぼ同等である。


(わしも光魔法だけは使える。戦いながらで悪いが、今から使用方法を伝授しよう)


生前、ネイゼンは魔法を使わず、己の力と技術のみで戦いの道を切り開いてきた。しかし、光魔法でなければ倒せない相手もいるので、これだけは習得していたのだ。ネイゼンは簡単なイメージを教えるだけだが、翠に光魔法を伝授した。


「ホーリーライト!!」


翠は口から光線を放つ。しかし、これはサンダーブラストのような、雷を圧縮した光線ではない。純粋な、光のみの光線だ。その光線が、護衛達を襲っていたスケルトンやゾンビに命中する。ホーリーライト。聖なる光線を放ち、不浄な存在を浄化する、光属性の初級魔法だ。ホーリーライトを浴びたアンデッドモンスターは、闇の力を浄化されて一瞬で灰になった。


「くそっ!こいつ……!」


翠は戦士がゴーストと戦っているのを見た。ゴーストは魂だけの存在であるため、物理攻撃が効かず、魔法攻撃も効きづらい。しかし、


「ホーリーライト!!」


光属性なら例外だ。ゴーストは他のアンデッドモンスターと同じように、闇の力を浄化されて消滅した。


「気を付けろ!!また再生するぞ!!」


護衛の一人が言うと、先ほど灰になり、消滅したはずのアンデッドモンスター達が、再生していくのが見えた。ソウルマスターは範囲魔法であるため、使い手を倒すまでアンデッドモンスターの再生は永遠に続く。もしくはアンデッドモンスターの再生にも魔力を使うので、魔力切れを待てばいいのだが、相手は帝国の魔将軍だ。そんなヘマはしないだろう。やはり、サザーラを倒す方法が一番早い。


「ん?」


と、翠はあることに気付いた。完全に消滅した状態だったためか、アンデッドモンスター達の再生がとても遅いのだ。


「もしかして……!!」


翠は幽霊船にもホーリーライトを使ってみた。こちらも再生していくのだが、やはり再生速度が先ほど攻撃した時よりもずっと遅い。


「やっぱり、普通に攻撃するより光魔法で攻撃した方が、再生が遅い!」


(やはり光魔法が有効か)


いくら強力な闇魔法とはいえ、光魔法が少なからず影響を与えている。


「ホーリーレーザー!!!」


翠は全方位に、ホーリーライトを乱射する。もちろん、護衛に当たらないよう気を付けてだ。目に見える範囲にいるアンデッドモンスターは、全て倒した。再生速度もかなり遅い。


「今のうちに、サザーラを倒さないと!!」


翠はスーパーサーチを使う。


「あそこか!!」


サザーラの位置を見つけた翠は、その方向に向かって進んでいった。

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