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第十一話 物語は続く

イルシール帝国の首都、帝都アルルーヴァ。かつてはこの国も、世界一の栄華を誇っていたのだが、エレノーグが新皇帝に即位してからというもの、荒んでいく一方だ。それもそのはず。エレノーグは国民から必要以上に税を取り立て、自分達王族だけが贅沢な暮らしをしているからだ。そのせいで国民達は明日をも知れぬ毎日を生き、奴隷として徴収された者達は日々苦しみ、毎日最低でも三人は死んでいる。奴隷が死ねば、労働力が足りなくなる。そこでエレノーグは足りなくなった労働力を補充するため、奴隷徴収隊を送り出しているのだ。



メハベル城。エレノーグや、六大魔将軍などが住む、悪の居城。城下町がぼろぼろだというのに、この城だけは毎日奴隷達に掃除させているため、不釣り合いに立派だった。あの城を見上げる度に、奴隷達は思うのだ。どうしてこんなことになってしまったのだろう?先代皇帝の時は、ここまでひどくなかったのに、と。しかし、それはエレノーグが吐いた嘘を、国民が信じてしまったからだ。エレノーグが皇帝の地位にのしあがりたかっただけなのだと、しっかり見抜いていればこうはならなかった。可哀想な話だが、国民が愚かだったのだ。自業自得なのである。しかし、全てはもう手遅れだ。エレノーグは、六大魔将軍を手中に収めてしまった。六大魔将軍がいる限り、誰もエレノーグには逆らえない。




その六大魔将軍だが、今彼らは円卓の間に集められていた。円卓の間とは、エレノーグと六大魔将軍専用の会議室のような場所である。


「やぁやぁ、我が栄えある六大魔将軍の諸君。」


そこに、モノクルを着用した、王族の衣装に身を包んだ男がやってきた。この男が、イルシール帝国の現皇帝、エレノーグだ。


「全員揃ったのなら、早速会議を始めようと思うんだが、いいかな?」


「皇帝陛下、まだです。サザーラがいません」


会議を始めようとするエレノーグに、眼帯をした男が異を唱えた。魔剣将軍ザイガスである。彼の言う通り、円卓の席が一つ、空席になっていた。ここは魔霊将軍サザーラの席である。


「ああ、彼女はいいんだよ。彼女には今、別件でちょっと海の方に行ってもらっている。」


「う~み~へ~?」


身長二メートルを越える大男、魔斧将軍ゴーレンが間延びした声を上げた。と、小柄な男、魔獣将軍ナーシェラが気付く。


「なるほど、我々はまだ制海権を掌握していない。サザーラの力なら、容易く得られるでしょう。」


「そういうことだ。さぁ、会議を始めよう。」


サザーラがいない理由がわかったところで、これで全員が揃ったものと判断し、会議が始まる。


「実は今我々は、とある反乱分子の対応に終われている。」


「反乱分子ねぇ……まだ戦争中の国ですか?それとも反乱軍ですか?」


ザイガスはエレノーグに訊いた。今この国には敵が多すぎるので、どれが反乱分子かわからない。


「いや、モンスターだ。」


しかし、エレノーグの答えはザイガスの予想の斜め上を行くものだった。


「モンスター?モンスターがこの国と戦ってるってことですか?」


「ああ。詳しいことは、そのモンスターと接触したブリジットが知っている。ブリジット」


「はい。」


ブリジットは自分が戦った反乱分子、グリーンスネークの櫻井翠について話をする。


「へぇ~。で?お前はその翠ってやつにいいようにやられて、おめおめ逃げ帰ってきたってのか?」


「お前が本気になれば、例え相手が二人だろうと勝てただろう?なぜ本気を出さなかった?」


ザイガスとナーシェラが、ブリジットに言う。


「知っているはずだ。私の全力は、使い所を見誤ってはならない。」


あの時のブリジットは、全力を出していなかった。いや、出せなかったのだ。彼女の全力はいろいろと訳ありで、使い所が限られる。


「それに、あれは超進化の実を使っている。つまり、これからもっと強くなるのだ。となれば、ここで狩るのはもったいないと思ってな。」


「お前、なぁ……」


結局自分の趣味も混ざっているではないか。ゴーレンはそう思った。


「そんなに面白そうだったのか?なら、俺もやってみてぇな~。」


ブリジットが撃退されるほどの強敵。それにはザイガスもまた、少しばかり興味を抱いた。



だが次の瞬間、ブリジットの手元にアブソリュートザミエルが出現しており、ブリジットはザイガス目掛けて魔力の矢を放った。


「うお!?」


紙一重で回避するザイガス。矢はすぐ近くの壁に突き刺さり、消える。


「何を勝手なことを言っている?奴は私の獲物だ。私以外の人間が狩ることは、断じて許さん。」


ブリジットの目には、明らかな怒りが宿っていた。彼女は自分の獲物を奪おうとする存在を、断じて許さない。それが例え、同じ魔将軍だとしても。


「もし私の警告を無視しておかしな真似をしてみろ。私がお前を狩るぞ」


ブリジットは即座に次の矢を構える。


「何だよ。やるってのか?」


ザイガスもまた、己の眼帯に手を掛ける。だが、


「そこまでにしておけ。」


今までずっと黙っていた初老の男、魔槍将軍ウィンブルが、槍を一本、二人の間に割り込ませた。


「貴様ら、皇帝陛下の御前だぞ。これ以上の無礼は許さん」


「……けっ!わかったよ……」


ウィンブルに言われて、ザイガスは眼帯に伸ばした手を下ろす。ブリジットもまた魔力の矢を消し、アブソリュートザミエルを下げた。


「……まぁたかがグリーンスネーク一匹に何かできるとも思えないが、先ほどブリジットが言ったように超進化の実を使っているので、十分注意するように。」


最後にエレノーグがまとめ、会議は終わった。











次なる戦いの地を目指して旅を続ける櫻井翠。彼は今、港町リーアに向かっていた。ブリジットとの戦いにおける自分の実力の反省点を見直し、ネイゼンにどうすればいいかと方針を聞いた結果だ。エレノーグの抹殺は早い方がいいに決まっているが、今のままではとても無理である。今以上に強くなるためには、世界中を回って様々な戦いを経験しなければならない。そのため、海を渡って大陸に行くという作戦を取ったのだ。そうすると、当初とは逆向きに世界を一週することになるため一ヶ月は掛かるが、必ず帝国にたどり着ける。それに、より多くの戦いを経験するには、時間を掛けるしかない。


(ブリジットを倒すには……)


翠はあの戦いから、ブリジットを倒す方法をずっと考えていた。いろいろ考えてみたが、やはりグリーンスネークから別の存在に進化するべきだという結論にたどり着いた。ブリジットの弓、アブソリュートザミエルは接近戦もこなせる上に、一撃一撃がとても鋭いので、確実に回避しなければならない。


(となると、この身体じゃ駄目だ)


蛇の身体は回避には向かない。今までは身体能力を強化することで騙し騙しよけてきたが、それも実力が高すぎる相手には通用しないことがわかった。となると、回避が得意な、素早い動きができる存在に進化する必要がある。


「……」


それができる存在として、まず人間を思い付いた。だが、人間に進化したところで、果たしてあの素早い攻撃を避けきることができるだろうか?もっと素早い存在に進化すべきではないか?しかし一番なりたいのは人間だ。しかし……そんな自問自答をずっと繰り返している。


「……進化の方針は、次に大きな戦いを経験してから決めよう。」


もしまた素早い動きが必要な戦いに直面したら、その時に存在進化すればいい。そう決めて、翠は自問自答を終えた。




そうこうしているうちに、港町リーアが見えてきた。


「海だ……」


リーアの向こうに、青く輝く宝石のような海が見える。海など前世でも滅多に行かなかったところだが、こんなに綺麗な場所とは思わなかった。


「……よし!」


まずは情報収集だ。そう決めて、翠は自身にインビジブルを掛け、港町に入った。

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