2話 戦いの始まり
一日一話投稿。
いつ甘えがでるかわかりませんが、頑張っていこうかと
今回も短めでございます。
炎弾をこの幼い少年が払ったのか……。おれは彼が現れる瞬間目を閉じていたので、そんなことはわからない。しかし、周囲に立ち込める煙がまるでそうしたかのように告げていた。
「君は……いったい誰なんだ……」
おれは目の前の幼い少年に問いかける。すると少年はニコリと笑い、
「大丈夫だよ、信用して。君の生きたいという願いはちゃんと聞き遂げたから、絶対に君を死なせはしないよ」
そう告げると、腰に付けた鞘から碧色の太刀を抜き、徐々に消えゆく煙にかすかに姿を映した炎弾を放つ男へとその鋭い切っ先を素早く向けた。その太刀は月明かりや電灯の明かりを反射させ不気味なほど綺麗な碧色を帯び輝いていた。
そうして、煙は晴れていく。お互いの姿をはっきりと認めた二人は対峙したまま、一歩も動かなかった。いや、動けなかったという方が正しいようだ、幼い少年の太刀はいつでも男の首を刈り取れる位置にあった。
「貴様はなぜここにいる……そこまでして私達を裏切る気なのか」
男は低い声で少年に尋ねた。
「ああ、そうだ。やっぱり僕達が間違ってると思うんだ、だから……こうして抵抗させてもらう」
すると、男は笑いを堪えられなくなったかのように鼻を鳴らして笑い始め、やがて大きな声をあげて笑い始めた。まるで余裕を見せつけているかのような威厳のある笑い声である。
「何がおかしい」
少年はひるまず、刃先を男の首に密着させ男を静止させた。刃が当たっている部分からはわずかだが、赤いものが流れ出していた。
「んで、私をどうするつもりなのか、首を切り落とすつもりなのか」
「帰ってくれないか、未来へ」
未来?まさかとは思うがこの男は未来から来たのか?このまともじゃないことが起きている今、まともな思考を持っていては今を理解できないだろう。おれは続けて少年と男の始終を少年に守られるようにして見る。
「身の程はわかっているようだな、小僧。まあいい。今日のところは退散することにしよう。万が一、やっとのことで首に突き付けているこの太刀から切られたらひとたまりもなさそうだからな」
その身長差のせいだろう、男の言う通り少年の太刀はやっとのことで男の首に到達しているように見える。しかし、少年は怖気づくことなく睨みを利かし続ける。
「なら、試してやろうか」
少年は手に力を込め太刀を大振りする。その一撃は虚しくも当たらず、男にバックステップを取られ軽々と避けられてしまった。少年は小さく舌打ちをし太刀を構え直した。
「まあ、そう構えるな。今回は貴様の言う通りにしてやろう。丸腰の私が魔法のみで貴様と戦うことが不利なことには変わりがないからな。しかし、次は見逃さんぞ。私の名は貴様でもわかっているだろう、それまでに貴様は身の振り方でも考えておくんだな。次こそ仙崎直人の命は頂く」
男はそう告げると、地を勢いよく蹴り遥か上空へと消え去った、男が消えるその瞬間、空には波紋が浮かんでいた。おれは助かったのか……。未来?魔法?SFやファンタジーの世界でしか馴染みの無い言葉がやたら飛び交っていたが、つまりあの炎弾は炎の魔法だったというのか。おれがここでうだうだと悩むよりも目の前にいるこいつに聞いた方が早いだろう。おれの命を守ってくれたであろう体に似合わず、頼もしい少年に。おれは、少年に歩み寄ろうとした、その瞬間だった。少年の方が先にこちらを振り向いたのだ。これは好都合だ、まずは感謝の言葉から始めよう。
「何だかよくわからなかったが、助けてくれたんだろ、ありがとう、本当にありがとう。ところでだ、あいつはいったい……」
「怖かった……」
「へ?」
その少年は目からボロボロと涙を流しこちらを凝視していた。先程の頼もしい彼とは180度違う彼を見、おれは驚きを隠せなかった。
「怖かったんだよぉ!」
そう言うと少年は泣きべそをかき、まるで抱っこを求めるように両手を広げこちらに走って来た。まるで子供のようだった。無理もないだろう、彼は見た目から判断すると10歳になるかならないかというくらいだからだ。おれとしても彼を優しく抱擁してあげたいところだ。しかしだな。手にしっかりと太刀を持ったままじゃれつこうとしてくるのはやめてくれないか!
「やめろ!!太刀の刃がこっちを向いてる!!」
「うわああああああああああああああああん」
少年は十分に助走をつけおれの胸に飛び込んできた。
「ぎゃあああああああああああああああああ」
悲鳴を上げざるを得ない、しかし、脅威が去ったであろう今、なぜおれは断末魔を上げる羽目になっているのだろう。いや、何かを考えている間にも逃げねば、おれは後ろ歩きならぬ後ろ走りで一歩目を踏み出した。しかし、あまりにも恐怖体験が続き過ぎたせいか、足は上手く動かずおれはその一歩目でバランスを崩しそのまま仰向けになり倒れてしまう。目の前に太刀を持った少年が段々と近づいて来る。あ、おれ死んだ。いや、せめてもの抵抗は取ろう。おれは咄嗟に左手で少年が太刀を持っている右手を押さえた。
その直後に胸部にどっかりと重い物が乗った感触がする。そして少年の泣きじゃくる声、どうやら太刀がおれを切りつけることは防げたみたいだ。おれは大きくため息をついた後空いた右手で少年の頭を優しく撫でてやった。
「お願いだから今度から甘える時は太刀を離してから来てくれ」
「ぐすん……わかったごめんね。今から離すね」
「馬鹿!やめろ!今おれの頭上にお前の右手があり、お前の太刀があるんだぞ!今離し……」
おれの思いは虚しく、太刀はおれの頭目がけて降ってきた。
「ぎゃああああああああああああああああ」
おれは首を大きく動かし何とかその太刀を避けるとカツンと短い音を立て、地に落ちた。心臓の音はいつもより大きく高鳴り、呼吸も落ち着かない。
とりあえず、おれは助かったのか?疑問は残るもののそういうことにしておこう。おれは泣きじゃくる少年が泣き止むまでこのまま放心状態でいた。
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