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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

瑠璃色の花

作者: 色輝

流血描写があります。


※作中のあれはふつーに犯罪です。良い子は真似せず人前では自重しましょう。

 さらりと靡く、艶やかな黒髪。

 伏し目がちの儚げな整った顔立ち。

 しなやかな長い手足にすらりとした体躯。

 女性らしい丸みを帯びたプロポーション。


 飯塚いいづか瑠璃るりは、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。まさに大和撫子を体現したような、楚々とした美人である。

 常に敬語なのも相まり、男子からの人気は高い。そこが気取っていると同性からはイマイチだが、それでも仲の良い友達はいる。人当たりはいいが、線引きのきっちりした狭く深くが瑠璃の人間関係だった。


 そんな瑠璃も、受験を控えた高校三年生となり、恋人が出来た。

 向こうの熱心なアプローチに押され、割と強引に付き合う羽目になった。まあ、好意もあったが。

 付き合い出して約半年、初めてではないがキスもそれ以上もしたし、関係は良好だった。


 だというのに、こんな状況になったのは何故なのだろうか。

 否、分かっている。原因は、彼氏の浮気なのだと。





「瑠璃!」


 目の前で喚く少女を見ていると、彼氏が駆け込んできた。


「先輩!」


 瑠璃が何か言うより先に、少女が抱きついた。どうやら後輩らしい。

 突然やって来て、いきなり頬を叩かれ、色々詰られ。理解出来たのは、二股をかけられていたということ。


「先輩! なんであたしじゃダメなの!?」

「ちょっ、紗季さきなんで……っ」

「答えてよ!」


「取り敢えず、説明していただけますか?」


 いっそ不自然な程平坦な、いつも通りの声。だが、その顔にはいつもの微笑みはなく無表情だった。

 そして始まる、言い訳や身勝手な話。

 要約すれば、二人が付き合い出したのは二ヶ月前。紗季から告白し、少しだけでいいからとなし崩しに交際。だが肉体関係はあるようだし、デートもしていたようだ。瑠璃が訊いた所、たまにあったドタキャンや予定のキャンセルは、紗季を優先させた結果らしい。


 到底瑠璃に許容できる話ではない。二ヶ月前は長い。因みに、紗季は付き合ってすぐ、瑠璃は一ヶ月前にセックスをした。


「で、でも紗季とはもう別れたんだ! 俺には瑠璃、お前だけなんだよ……っ!」

「最っ低! あたし初めてだったのに!」

「誘ってきたのはそっちだろ!? つか瑠璃には手を出すなって言ったろうが!」


 泣き出す女。懇願しながら怒鳴る男。蚊帳の外な渦中の瑠璃。三角関係に沸き立つ野次馬。カオスである。因みにここは、昼休みの教室である。

 明らかに見世物。その最前にいるのが、瑠璃の友人たちで色んな意味でハラハラしている。男子は瑠璃を心配しあわよくばと思っている。女子は心配しているフリして嘲笑っている。

 彼氏は最早紗季は眼中にないとばかりに目を逸らし、頬を赤く腫らした瑠璃を心配そうに見下ろしている。


「瑠璃、大丈夫か? すぐに保健室に行こう。冷やさないと……」

「ねえ」


 伸ばした手が瑠璃に触れる直前。俯いていた瑠璃がぽつりと一つこぼした。小さな短い声だったが、不思議と室内に響いた。

 途端静まる教室。妙な緊張感を孕んだ空気は人々に伝染し、好き勝手言っていた者は口を噤む。気付いてないのは、目の前の二股男だけ。


 ふっと顔を上げた瑠璃の美しい面には、花も恥じらう愛らしい笑みが浮かんでいた。


「私を選んでくれるんですか?」

「えっ……あ、ああ。当たり前だろ?」


 瑠璃に見惚れ吃ったが、そう返しにっこりと愛おしそうに微笑む男。悪びれない態度に、周囲は眉を顰める。

 それでも、瑠璃は嬉しそうに笑う。


「では何故、浮気したんです?」

「それはっ……、それは紗季がしつこくて……。あと、瑠璃に嫉妬して欲しかったんだ。俺ばっかり好きみたいで悔しくてさ」


 そうですか、と可憐にわらう瑠璃。

 泣き崩れる紗季をちらりと一瞥し、恥じらいの笑みを浮かべ、上目遣いで見つめた。それに二股男はでれっと笑み崩れる。


「あの、お願いがあります」

「ん? なんだ?」

「私たちの関係をみんなに分かって欲しいんです。もうこんなこと嫌ですから……」

「瑠璃……」


 切なげに呟く瑠璃。可愛い健気だと思う二股男と野次馬。甘いと思う野次馬。ああこれやばいと慄く瑠璃の友人たち。


 抱き締めようとする二股男を制し、にっこりと可愛く笑う。


「目を閉じて屈んで下さい」

「え、瑠璃……」

「ねっ?」

「……ああ、分かった」


 嬉しそうに素直に目を閉じ屈む。誰もがキスをするのだと思った。二股男も、紗季も、野次馬も。



 但しそれは、二股男の整った顔に拳がめり込み吹っ飛んだのを見るまでだ。



 けたたましい派手な音を立て、机や椅子を巻き込み倒れ込む二股男。

 周りが呆然と見る中で、拳を振り抜いた体勢からゆっくり元に戻った瑠璃。


「――何を、言ってるんです?」


 ゆったりとした歩調で、鼻血塗れで呻く二股男に近付く。


「二股かけた挙句、『俺にはお前だけだ』、ですか? ふざけんなですよ」

「ぐえぇっ」


 ガッと腹を踏みつけた瑠璃。顔には綺麗な笑み。

 凍り付いた空気の中、片頬だけを歪め嗤う。その艶然とした表情は、清楚で儚げな容姿からは想像できず、そしていやに似合っていた。


「もう別れたとか、どうでもいいです。重要なのは、内容です。過程です」

「いぁ、や……」

「貴方が二股をかけたのは純然たる事実であり、彼女と肉体関係を持ちながら私とも関係を持ったのも事実でしょう?」


 優しい声、優しい微笑。小首を傾げる様は妖精のようで、愛らしく可憐。誰もがうっとりするような淑女だった。

 但し、男の腹を踏みつけているが。


「そ、れぁ……」


 もごもごと、混乱しながらも言い訳をしようとした二股男に、瑠璃は嗤う。隙のない完璧な笑みだが、目だけは隠すことなく見下している。軽蔑している。


「うふふ、そんなおいたをしちゃうコには、お仕置きが必要ですよね?」

「え。……ひっ!?」


 ぐっと。足を腹から股間に移動させ体重をかける。

 そして言う。「暴れたら潰しますね」と、とても楽しげに。

 固まった隙に、片足を持ち上げる。万が一暴れても問題ないように固定し艶やかに笑った。


「――ああ、そういえば」


 さも今思い出したように、ぽつり。二股男の体が、面白いように跳ねた。



「まだ私に言ってないことがありますよね?」

「ぇ、な……ん」

「分かりませんか? 子供でも知っているのに、色ボケには難しいのでしょうか……」


 バカにしたような言い草に怒りを覚えたが、瑠璃の顔を見た瞬間それは怯えに変わった。

 笑っているのだ、瑠璃は。とても、嗜虐的に。獲物を追い詰め飽きるまで遊ぶ猫のように。

 緩慢な動きで、二股男の髪を鷲掴み持ち上げる。その際足に体重がかかり、脂汗を浮かべ呻いた。


「ひ、ぎ……ィッ」

「ちゃんと言えたら今は解放してあげます。でも、言えなかったら――――潰します」


 最後、低い声で告げた瑠璃に、涙と鼻血でぐちゃぐちゃの顔を向けた。そこには、非常に恐ろしく、そして酷く美しい妖艶な笑みが載っていた。

 二股男は、頭を必死で回転させる。考えて、考えて、考えて――。


「……ご、ごめんな、さい……」

「――よく言えました」


 笑を深めた瑠璃は、乱雑に髪から手を離す。合っていた、とホッとしたのもつかの間、いつの間にか両足を持ち上げた瑠璃が、足に力を込めた。


「では、お仕置きの時間ですよ?」

「えっ……!? な、なん」

「ごめんで済んだら警察はいりません。というか、お仕置きは別でしょう? ――さあ、もうこんなこと出来ないようにしましょうね」


 穏やかに笑んだ瑠璃は、足に力を込め――


「る、瑠璃さーん……それ以上は、流石に二股されたって免罪符が使えないと思うよー……?」


 恐る恐る声をかけた瑠璃の友人の一人により、なんとか去勢は避けられた。

 それもそうですね、とあっさり足を下ろし解放した瑠璃に周りは唖然とする。

 それに気付いているのかいないのか、瑠璃は気軽に友人たちに声をかける。


「ありがとうございます。簡単に終わらせるところでした」

「いや、うん、どういたしまして?」

「簡単にって……。てか、結局どうすんのよ?」


 お礼を言われ困惑した様子の友人その1。友人その2は、顔を引きつらせながらも未だ起き上がらない二股男を指指した。

 瑠璃はその指の先を見、くすりと綺麗にわらった。


「勿論お付き合いしますよ? ――躾が終わるまでは」

「……ん?」

「やんちゃな下半身をそのままにしたら、今後彼と付き合う女性が苦労するでしょう? 何より、二股かけといてお前だけだとか、しつこいとか、身勝手すぎません? 女を舐めてるとしか思えませんよ。だから」


 ふっと笑い二股男のそばに立つ。そして、爪先で血や涙の滴る顎を持ち上げた。


「知ってますか? 何かの漫画で見ましたが、躾に一番いいのは痛みなんだそうですよ?」

「……っ」

「私としては、三大欲求もありだと思うんです。……うふふっ、楽しみにしてくださいね? ネットや薄い本で知識はあります。――貴方を普通じゃ満足出来ない、イケないカラダに調教して差し上げます」


 ぺろりと赤い舌が唇を舐め、色気を帯びた嗜虐的な艶笑が輝く。


「去勢した猫のように、大人しくさせてあげますね。嬉しいでしょう?」

「ぃ、やめっ……!」

「は?」


 ぐっと喉を踏んだ一変して無表情と低い声となった瑠璃に怯えながら、二股男はコクコク必死で頷いた。

 その様子を、信じられないように絶句して見ていた野次馬。静まり返ったそこで、友人たちの声は思いの外遠くまで届いた。


「立てば芍薬」

「座れば牡丹」

「歩く姿は百合の花」

「内に秘めるは薔薇の花、ってね」

「見た目と違って、中身は毒舌女王なのにねえ」

「二股なんてするから……」

「まあ自業自得よね」


 ねー、と頷き合う彼女たちだけが知っていた。瑠璃の本性を。




 さらりと靡く、艶やかな黒髪。

 伏し目がちの儚げな整った顔立ち。

 しなやかな長い手足にすらりとした体躯。

 女性らしい丸みを帯びたプロポーション。


 飯塚瑠璃は、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。まさに大和撫子を体現したような、楚々とした美人である。

 常に敬語なのも相まり、男子からの人気は高い。そこが気取っていると同性からはイマイチだが、それでも仲の良い友達はいる。人当たりはいいが、線引きのきっちりした狭く深くが瑠璃の人間関係だった。


 そして、その狭く深くの部分にいる者だけが知る、彼女の素の姿。

 毒舌でストレートな物言い、口より先に手が出る短気。料理ベタで意外とわがまま、お姫様気質の女王様。それでも人を惹きつける不思議な魅力のある、可愛い乙女。庇護欲をそそる、見た目と凄くギャップのある女の子。

 素を知る者はみんな言う。

 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。そして内に秘めるは棘のある気高き薔薇の花。

 好きな人に素を知られるの嫌がり悩み、それでも晒そうとした矢先のことだった。




 そして、都合よく金曜だったその日から日曜まで躾た末、瑠璃は改めて人前でこっぴどく振ったのだった。

 意外と傷心してた瑠璃が、大学で結婚までする穏やかでメシウマな男と再会するのだが、それはまた別の話。


 蛇足だが、こっぴどく振ったのにその後やたら付け回され、周りの男たちが敬語を使い出し、女子とは仲良くなった。

 因みに、瑠璃が裏で女王様と呼ばれているのを、本人だけが知らなかったりする。これこそ蛇足である。



人物紹介



飯塚瑠璃

見た目は清楚で可憐な儚げ美人。黒髪姫カット。敬語。猫かぶりのわがままお姫様だけど愛されてる。浮気されて覚醒した。メシマズ。理不尽とわがままを一番言われる性別不明の下の兄弟がいる。この後二股男に追い回され辟易したところで大学で運命の出会いを果たす。


二股男

名前も容姿もぶっちゃけ決まってない。取り敢えずイケメン。悪びれないバカ。反省しない浮気野郎だったが、瑠璃に調教され新たな扉を開く。フラれてからストーカー化してる。


紗季

瑠璃の一つ下で二股男の相手。フラれて怒って瑠璃に凸したら修羅場が変な方に行ってビビった。でもカッコ良くてトゥンクした。瑠璃に。今では瑠璃をお姉さまと慕う美少女。年の離れた妹にお姉さまの話をしていたら、中学生になった妹が男にトラウマ持って百合っててビビった。もしかしなくても:紗季のせい


あまりキャラが定まってない……。

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