第十四話『メモリー』
イヴァンの運転するハンヴィーはフリストの居るキャンプへと向かっていた。
下手すると永遠に会えないであろうフリストに別れの挨拶をしたかったのだ。
キャンプに着くと、イヴァンはフリストの居るテントに向かった。
テントの前に立ち、イヴァンは声を張り上げる。
「フリスト。僕だよ、いるかい?」
「イヴァンか、すぐ行く」
テントの奥から足音が徐々に近づいていくのがわかる。入り口のジッパーが下ろされ、フリストがひょっこり顔を出した。
「よぉ」
挨拶をすると、フリストはテントを出た。
「終わったのか?」
フリストは聞いた。
「あぁ」
イヴァンは頷く。
「そうか……。これからどうするんだ? お前は」
フリストが聞いてきた。
いざ、聞かれるとなるとイヴァンはどう返事をしたらいいのかわからなかったが、とりあえず頭の中を整理し、ゆっくりと話す。
「アメリカに行くよ。ロックフォードを生かしてはおけない。母さんと、そしてイリーナのためにも」
フリストはもう一度、そうかと返事をした。
イヴァンの中に胸を刺すような悲しみが広がる。
フリストに、今まで苦楽を共にしてきたフリストに、もう会えなくなるかもしれないのだ。
「……止めないのか?」
イヴァンは涙声にならないように装いつつ言った。
「止めて欲しいのかよ」
フリストは笑った。こう言う別れ際でもユーモアを欠かせないのがフリストの強みなのかもしれない。そしてイヴァンはフリストのそういう所がとても好きだった。
だからイヴァンも強引に笑顔をひり出した。自分でも笑顔とは程遠い、出来の悪い妙な顔をしているに違いない。
「はは、なんだよその顔」
フリストは心から愉快そうに笑い出した。
「そうだ、お前に渡すものがあってな」
ひとしきり笑ったあと、フリストは思い出したようにジーンズのポケットの中からペンダントを取り出す。金色に輝くロケットペンダントだ。
ほれ、とイヴァンに渡した。蓋を開くと中学時代のイリーナの写真が微笑みながらこちらを見ていた。
イヴァンはロケットの蓋を閉じると、フリストの方を見た。
「ありがとう、フリスト」
「元気でな、イヴァン」
友人同士は肩を抱き合った。
イヴァンはフリストから離れると踵を返し、ハンヴィーに戻る。
まだ、僕の戦争は終わってない、イヴァンはそう自分に言い聞かせた。
全ては始まったのだ。工作員としてのイヴァン・ハーンの物語は。




